第292話 5階層ボス・陸竜1

ダンジョン攻略の戦術を変え、高火力範囲魔術とワープ系スキルで敵の防衛兵力を蹴散らし進む法意識に変えた翌日。俺たちはついに5階層のボス部屋まで到達していた。

4階層への階段からここまでのルートは3分岐に絞り、さらに裏道として試練の間から繋がる整備用通路で5階層のボス部屋まで直行できるルートも確保。

俺達の迷宮改変のせいで、最深部を探索していた冒険者チームも一度引き上げてる。この先には魔物しかいない。集合知の情報からすると、この規模のダンジョンだと後2~3階層あればいい位なようなので、攻略まであと少しだ。


「さて、どうやって戦ったものかな」


5階層のボス部屋に居たのは巨大なトカゲ、陸竜――つまりアースドラゴンを模した魔物だった。

体高は5メートル以上あり、尻尾を含めた体長は10メートルを優に超える。

ステータス優位で防御力の高いタイプの魔物で、戦闘スタイルは突進、前肢の爪による攻撃、尻尾による薙ぎ払い、それに口から吐く火、光、毒の3種類のブレス。


高速移動スキルは高速移動。これは加速・速度が上がるスキルで、縮地のように無敵時間と言うべき干渉不可時間がない代わりに、体当たりなどの攻撃にも使える。防御が固いのでなかなか荷厄介だ。

更に退魔系魔術で遠距離からの魔術は無効化してくる上に、走竜ラプトルタイプの魔物を召喚してくる。自身も中身も詰まってそうな重量の乗った攻撃をしてくる。


推定価値は3万Gくらいか。知略を駆使するタイプでは無く、故に強い。

俺が戦った中だと、ディアボロスやカマソッツより強いかも知れない。


「なかなかに厄介であるな」


「どの攻撃もまともに受けたら一発で戦闘不能、攻撃は中級以上のスキルじゃないと通りそうにない。何より重いのは厄介ですね。こちらの攻撃で吹き飛ばせない」


今日のダンジョン攻略にはコゴロウとバーバラさんが合流している。

コゴロウは武器の付喪神化が完了したらしい。まだ実感はないが、何事も実践と合流。バーバラさんは武器作成の息抜きだ。たまに身体を動かさないと魔闘士としての勘が鈍るとのこと。


「亡者の特別チームがあっけなく撤退ですからね」


2次職の中でもレベルの高かったメンバーを中心に、アルタイルさん指揮の12名が挑んでみたが大したダメージを与えることは出来なかった。幸いにして致命傷を受ける事も無かったが、少しでもミスすればひき肉になる戦いをずっと続けるのは危険と判断した。


「私のスキルで攻撃を防ぐことは出来ましたが……」


メンバーの中で最も防御に特化した守護戦士のアル・シャインさんがスキルを使えば、陸竜の突撃も止めることが出来る。ただシャインさん自体が相手の高速移動について行けない。一人しかいないので無視して他のメンバーを狙われると簡単に崩れる。

特に臨時魔術師組が能力を生かし切れていないので、亡者たちは増やしても被害が増えるだけだ。


「近接系の高速移動は無詠唱なので間に合いますが、我々魔術師は無理ですね。私の転移も、ワタル殿の影渡りシャドウ・トリップも咄嗟では間に合わないでしょう」


「中級魔術詠唱破棄出来る人がいませんからね」


俺が知る限り、無詠唱で中級魔術を使えるようになるのは2次職の49レベル。今のメンバーには誰もいない。亡者の中でも最もレベルが高く、ダンジョン攻略で更にレベルの上がったアルタイルさんでもそこまで行っていない。というか、経験値分配のため俺の方がレベルが高くなってしまった。


「後衛が近接攻撃をフォローするのは諦めて、一人でも1回耐えられるメンバーの身で挑むべきであるな」


スキルと防具の性能を考えると、俺、コゴロウ、バーバラさん、アル・シャインさん、アルタイルさんの5人かな。騎士のスコット・チェンさんもスキルは十分だが、残念ながら防具の性能が足りてない。


「幸い、ブレスは俺の影の壁シャドウ・ウォール多重詠唱マルチキャストで発生させた盾で防げるのは判っているので、この5人でやってみましょう。部屋の外に撤退時のサポートを3人待機させた状態で行きます」


部屋の広さは直径50メートルを超える。これは高速移動を使う竜の能力を活かす為だろう。

自由に動けるので、こちらも戦い易くはある。死なない程度にやってみよう。


MPを魔石で全開にして、ステータス強化のスキルを発動。


「それじゃあ行きますよ」


部屋に飛び込むと、トカゲの化け物が雄たけびを上げた。


ギャォォォォッ!!……陳腐な威嚇だぜ。


「まずは先制!魔投槍マナ・ジャベリン!」


多重詠唱マルチキャストで三重化したジャベリンを放つ。

しかしあっさり交わされた。さすがに動きが早い。これで飽和攻撃をしようとすると、対抗魔術で無効化してくるからたちが悪い。


「参るである!」


「行きます!」


「止めるっ!」


アルさんが正面から、コゴロウとバーバラさんの二人は散開して突っ込んでくる陸竜を迎え撃つ。


理力の盾フォース・シールド!」


ゴワンッ!

してはいけない轟音が轟いて、アルさんがスキルで竜の突進を受け止めた。

その瞬間を狙って、二人が肉迫して攻撃を仕掛ける。


「はっ!」


流星脚メテオ・キィーーーーークッ!」


コゴロウの斬撃は前足を浅く切り裂いて、バーバラさんの蹴りが鱗を貫く。

しかしあまり聞いた様子はない。尻尾を使って周囲を薙ぎ払い、二人はそれを慌てて避けた。アルさんはこれも耐える。さすがタンク。


俺とアルタイルさんもボーとみているわけでは無い。

アルタイルさんは転移を使って陸竜の視界から外れる。俺は影渡りシャドウ・トリップ様に小さな影を作るための木製フレームをバラまくと、同じく影渡りシャドウ・トリップで転移して視界から外れる。


重圧域ヘビィ・プレス!」


アルタイルさんの魔術が発動。

範囲に過重力をかけて押しつぶす中級魔術。攻撃と動きの阻害を同時に出来る優れものだが……。

気にした様子も無く、今度はバーバラさんを狙う。


影の刺突シャドウ・スパイク!」


串刺しに成ってろ!

影から伸びる刺が鱗を貫くが……これもそう意に介した様子が無い。……いや、目が合った!


影渡りシャドウ・トリップ!」


視界から逃れるため転移するのと、竜が高速移動を開始するのはほぼ同時。

転送が終わったころには、さっきまで居た位置を敵が駆け抜けていた。あぶねぇ。


『ぬぅ、走られると面倒であるな』


『高速移動は方向転換は苦手なので』


とは言えこっちも狙いが定まらないけど。

竜はドリフトするようにターンすると、頭を高く掲げた。っ!ブレスが来る!


「全員防御!影の壁シャドウ・ウォール!」


魔力の盾マナ・シールド!」


俺がバーバラさんを、アルさんがコゴロウを守る様に防壁を展開。アルタイルさんがワープで範囲からな逃れたその瞬間、光のブレスが横一面に周囲を薙ぎ払う。

封魔弾で防げることを確認したとはいえ、真正面から受けるのはやはり怖い!


光が消え、視界が戻ったその時、さらに陸竜が雄たけびを上げる。

その陰から体高1メートル程、2足で走る小竜が沸き出してきた。ラプトルを召喚しやがったか。


ここからが本番だ!

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金曜日にお休みを頂いたので、明日も更新予定です。


現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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