第43話 魔物の群れを蹴散らした
「おう、おおおう!おおおおーーーーーーーーっ!?」
目まぐるしく景色が流れていく。
崖と言える段差を飛び越え、着地と同時に大地を蹴る。目前に張り出した太い枝を切り捨てて、
早い。自分が考えていたよりさらに速くて速い。
最近は戦闘の一瞬以外、全力で走ったり飛んだりする機会がなかったから分からなかったが、もはや人の足で移動する速度じゃない。
普段のトレーニングどんだけ効いてんだよ。
現在のステータスはこんな感じ。
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レベル:21(ボーナス:30)
HP:161
MP:475/511(542)
STR:123
VIT:141
INT:254
DEX:98
AGI:124
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ダメージを受けることが無いのでHPはほとんど上がっていないが、それ以外はグローブさんと訓練していた時よりさらに2割以上伸びている。
STRをフル活用すれば20キロの荷物を2リットルのペットボトルのように振り回せるし、軽いランニングで100メートルの世界新が出せる。
INTとMPもさんざんエンチャントをさせられてる所為で留まるところを知らない。ぶっちゃけ、ボーナス振っていないこのステータスは、もう誰にも見せられない。
「うぉっと!?」
目の前に飛び出してきた
もう1Gクラスの魔物は撥ねるだけで倒せるな。
たまに他の魔物も目にするが、ついて来れる奴が居ない。あっという間に離れていく。
「もうすぐか」
見晴らし台を飛び出してから体感時間で10分強。切り株が目立つようになってくると、地面の傾斜も緩やかになる。
「……
魔術を発動させると、少し先で森が開けているのが見えた。この速度なら後1分もかからない。
アインスの街はまだ遠い。縦に下っただけだから、ここから20キロ以上あるはずだ。
「見える範囲に目立った魔物は居ないか」
この魔術でもまともに認識できるのは数キロが限界だ。注視しないと気づかないことも多いし、襲撃だったとしても魔物が集まっているのはもっと町の近くだろう。
森を抜けて凪の平原に出る。
「
背の高い草を避けながら、たまに鷹の目で街の方向を確認しつつひたすらに走る。
道も道標も無い丘陵地帯はさすがに走りづらいが、行軍のおかげでさらに速度は上がった。景色がなだらかでわかりづらいけど、自転車とは比べ物にならない。
向かい風で体が浮いて走り辛い。これ、ステータスが上がってもこれ以上速く走るのは無理かもしれんな。
そんなことを思いながら幾度目かの索敵魔術を使うと、遠くにホロ付き馬車の一団が見えた。
冒険者か避難民?……いや、違うな。
街道から外れているし、向かっているのが山の方だ。人なら街道を通るし、ああいった馬車は移動に日数のかかる大きな街間でないとそう使われない。
馬を引いている人も小さい。それだけなら
注視してみると、その服装から人でないことがわかる。
「ゴブリン……それにオークも居やがる」
って事はあの馬車、街か街道で襲われた戦利品か。
速度を落として集中すると、さらに詳細が鮮明になる。
「ゴブリン・スカウトが1、オーク僧兵が1、馬を引いているゴブリンは不明。後ろは……あれも良く分からんな」
装備からすると大した相手じゃない。
ゴブリン3にオークが1、馬車の中に捕まった人が居れば、見張りでさらに1ってところか。
……奇襲をかければやれるか?運が良ければ街の様子が聞けるかもしれない。
放置してアジトまで着いていくって手もあるが……うん、動きが遅い。仕留めよう。
速度を上げると同時に、
草の陰になるように位置を調整しながら馬車へと向かう。走る速度は落としていない。周りの弱い魔物が騒ぐ前にその横を駆け抜けられる。
さらに
「偉大なる炎の神の力もて、紅蓮の閃光にて敵を射る……」
最大射程で打てるのはアロー系しかない。ここは捻らず威力の高い炎を詠唱する。
目標までは50メートルほど。こちらは特定されていないが、魔物たちは異変に気付いたようだ。だがすでに遅い。
「
周囲を見回していたゴブリンスカウトに狙いを定めて魔術を放つと、火の矢はまっすぐに突き刺さり、そのまま胴体を貫いて魔物をドロップへと変えた。まず1匹。
『ヒヒーーンッ!?』
先導していたゴブリン・スカウトが消えて、馬が大きくいななく。
しまった、想定外。脱輪したりひっくり返ったりしないことを祈ろう。
「ウガァァァァ!!」
こちらに気づいて叫びを上げるオーク槍兵に向かって間合いを詰める。あれは投擲用の槍じゃない。ならこっちのほうが射程が長い。
……足が速くなりすぎて、全力で移動していると詠唱の時間がないな。
「
距離は10メートルを切った所。
全力で指をはじくと、恐ろしい速さで鉄球が飛び出していった。
「ウガ!?」
そしてそのままオークの頭部にめり込むと、
魔物は大した叫びを上げる間もなく霞となって消えた。2匹。
「残りは!?」
短剣を構えたゴブリンが1匹。よくわからなかったやつか。
それに走り出した馬車の中から、杖を持ったゴブリンが転がりだしてきているウィザードかメイジか知らんが魔術師系だろう。
杖持ちが杖を振り上げてスキルを得使おうとするが、こちらの方が早い。
「
距離はあるがスキルなら当てられる距離。敵のスキル発動が終わる前に杖持ちに当たると、まるで何かに撥ねられたように吹き飛んで地面を転がり、煙となった。
……予想以上に威力がえげつない。
「ぐぎゃ?」
余りの出来事に短剣持ちの動きが止まる。
会敵してからまだ10秒余り。気持ちは分からなくは無いが、その行為は命取りだぞ。言ってももう遅いが。
「せいっ!」
相手が短剣をこちらに向けて構えなおした瞬間には、すでに剣の間合いに入っている。
「馬は、まだそんな離れていないか」
馬車が重いからかそんなに速度は出ていない。それでも原付よりゃ早いか?俺には劣るな。
「最も、追いついたところで馬をなだめる術なんて持ってないんだけどなっ!」
あっという間に馬車に追いつく。中から叫び声が聞こえるところを見ると、誰か乗っているらしい。
馬を止める手段は無い。
仕留めるのは論外だ。いきなり足が止まったら馬車が横転する。
「せいやっ!」
近くに危険を思われる魔物は居ないのを確認して、馬車と馬を繋いでいた木製の
馬車の重みから解放された馬はさらに速度を上げて走り去る。
「うぉぉぉ!?これキツ!?」
それなりの速度で走っている馬車の前に回り込んで踏ん張ってその速度を緩めようって、どこのスーパーヒーローだよ!?
馬車がはねる。気を抜くと体は宙に浮くし、そもそもここまで加速していた状態から自分が止まるのも追っつかない。
それでも体感数分、実際のところ十数秒で横転も分解もすることなく止まった。
「ふへぇ……馬車に巻き込まれて異世界転生するかと思ったぜ」
すでに一回よくわからない理由でした後だけどなっ!
……中の人は無事だろうか?
「……あ~、生きてますか~?」
御者台から中をのぞくと、散らかった荷物に紛れて何人かの男女が手足を縛られ、猿ぐつわをされて荷台に転がされている。
「うぅ~!ううっ!!」
一番元気のいい声でうめいていたおっさんと目が合った。
……またおっさんかよ。
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