40.約束は果たした
ギルベルトの話を要約するとこんな感じだ。
獣人拉致を始めとする世界を混乱へと導く諸悪の根源、王都サルグレッドに巣食う過激派の魔族を根絶しようとしている俺に協力してレッドドラゴン族も共に戦う、と。
そうして見事勝利を掴んだ暁には、サルグレッドの隣に亜人の国を創り、大森林フェルニアから出てそこで暮らすと言うから驚きだ。
新たな国の王にはアリシアの娘であるエレナを娶った俺が成るらしい……。
その国が成立する根拠として、サルグレッドの王女サラを妻に迎える俺が人間との架け橋であり、防御壁の役目を担うのだとの説明に『聞いてねーしっ!!』と口に出さぬ突っ込みをしたのは極自然な感情が故であると主張したい。
“アリシアが王となれば戦争”
人間の世界で暮らすという考えられない希望に歓喜する上で、その為には大きな爪痕を残して行った魔族と戦わなくてはならないという地獄にも似た苦渋に尻込みしているようだ。
だが、世界最強種族であるレッドドラゴンが先陣を切って参戦するという文言が効いたのか、否定する者ばかりでなく肯定派もかなり居るようで、各所で討論が繰り広げられ収集が着かなくなっている。
そんな中、演説台を降りたアリシアに代わりマイクを握った司会のアーミオン。
解散を告げはしたが賛否両論巻き起こる二万の獣人には届かず、獣王騎士団が民衆の輪に割り込んでの撤収呼び掛けとなってようやく人の波が動き始めた。
「アリシアっ。俺、そんな話し聞いて無いんだけど?」
目の前を通り過ぎようとする急ぎ足のアリシアに声を掛けるものの「忙しいからギルベルトに聞いて」と残してさっさと姿を消して行く。
そのギルベルトはといえば『大いに驚け!』と言わんばかりのしたり顔。楽しそうにこちらに向かい歩いてくるので、今更何を言っても無駄なのだろうと溜息がでる。
「まぁ、王家の血を引くお前の事だ。元々の役目が復活しただけだと腹を括るんだな。その時にはこの俺も、お前の足元に跪いてやるから楽しみにしておけよっ、クククククッ」
人の肩を力任せに叩くと、アリシアに続いて行ってしまう。
──王様? 俺には無理だろ……
まだそうなると決まった訳ではないただの計画なのに、全ての気力が根こそぎ奪われる。鬱屈した心から何度目かの溜息を吐き出すと、それを見ていたエレナとティナが、駄目な子を見るような哀れんだ目で微笑んでいた。
「レイさん、気にし過ぎですよ。ほら、国王なんて、あのおじいちゃんでもやれているんですからもっと気楽に行きましょう?」
「そうよ。みんな居るんだから、レイ一人が気張る事なんて無いわよ」
官僚参加の食事会には行かなくても良いと言われて ホッ としていた。だが、ラブリヴァに呼び出された族長達との昼食会で非難の矢面に立たされる事となる。
「族長を集めて何を話すのかと思いきや、よもやそのような計画があったとは……。我々エルフはフェルニアを出たいわけではない、その戦いに参加する意義が見出せんな」
「オラ達ドワーフも今の生活さ満足すてる。わざわざ危ねぇ目にあってまで国を創る必要性を感ずね」
女、女と目新しい獣人の女の子を追いかけ回していたエルフの族長とドワーフ族長ゼノ。
だがそこは、流石に族長としての職務を果たすべき所だと弁えたのか、率直な意見を俺にぶつけて来た。
更に言うなれば、ずっとにこやかな笑顔を携えていたセイレーン族族長のマルティーアも『戦いには不向きな種族』という事を理由に否定的な態度を示している。
「まぁ、まだ話のさわりを聞いただけであろう?アリシア本人から細かい説明もあるだろうて、参加不参加の決断をするのは族長会談の後で良かろう。
それはさておき、今は今と言う時を楽しんだらどうじゃ?」
その場に居合わせた者の中で誰よりも長き時を生きてきたノンニーナの言葉には説得力があり、詰め寄った二人が顔を見合わせれば、その矛先がマルティーアの隣に居たレオノーラへと移り変わる。
エロジジィ二人に晒されるも、余裕の笑顔で対応するレオノーラは凄いと言えよう。
ここぞとばかりに伸びてくる手にも、相手を気遣いやんわりと阻止する姿に関心していれば、それならばとシドを加えた三人は、お世話係として付いて来たセイレーンの女の子達へと興味が移っていく。
「焚きつけたのは我かもしれぬが、あの強欲には関心するのぉ……。我もこのサイズの身体でなければ其方を誘惑出来たのに残念じゃよ」
意味深な発言を残したノンニーナだったが誰にも突っ込まれる事なく通り過ぎ、平和な昼食が終わりを告げた。
そのまま広いテラスに座り込んでの女子会へと雪崩れ込むと、俺の出したワインとツマミを片手にほろ酔い気分で ワイノワイノ している。
尽きる事の無い会話は『男とは』に始まり、好みや萌える場面、されたい告白などなど。聞かされている俺にやれと言わんばかりの酔っ払った視線がいくつも向けられ、それを躱すために気配を消そうとできる限り静かにしていた。
だが、嫁達の願望はなるべく頭に入れておこうと耳だけは傾けていれば、都合の良いことに、雪とペルルが仲良く俺の膝に乗ってきた。
三段重ねで楽しそうな二人、その隣にちょこちょことやってきたリュエーヴまでもがもたれかかってくる。
女子トークに興味はあれど付いていけない様子の三人。秘密兵器であるマシュマロを提供してみると、それが何かを知っている雪が率先して口に放り込む。
美味しそうに頬を緩ます雪に倣い二人同時に口に入れると、たったひと噛みで美味しさが分かったようで、目を丸くして喜んでくれる。
──だが、それを横目に不満顔の男が一人
エルフ族の世間体、族長の世話より自分の気持ちを優先したイェレンツは怨みがましい視線を俺へと向けてくる。
しかし、何が気に入らなかったのか、ペルルに避けられている節のある彼。そんな状態でフォローしてやるのはなかなかに難しく、協力すると言う約束は放置されたままだ。
もっとも、その約束というのも、族長がコレットさんの作戦に捕まり意気揚々とラブリヴァ行きを決行したことにより、イェレンツの助力など無かったに等しい。冷たく言えば契約は無効であり、俺が協力せねばならぬ事も無いはずだった。
「ペルル、イェレンツが遊んで欲しそうにしてるぞ?」
気の無い努力は実を結ばず、輝いた目を向ける彼をチラリと横目で見ただけで『もう一個頂戴』と丸くて愛らしい金の瞳が訴えかけ無言で手を差し出してくる。
やはり駄目かと項垂れるイェレンツを見て『約束は果たした』と自己満足。催促通りもう一つずつマシュマロを配ると、哀れなイェレンツにもくれてやる事にした。
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