34.ユリアーネの裁き
「ハート型のとか可愛くない?」
「こっちの細いのも良いと思うけどぉ?」
「レイさんはどれが良いと思います?」
翌日、クロエさんに案内されたのは奴隷用品店なるもの。そんな店がある事にまず驚いたが、奴隷ってお金持ちの家には少なからずいると言うからどの町にもこういう店が何軒かはあるんだそうだ。
俺達が探しに来たのはエレナの首輪。普通の雑貨屋みたいな店の中には極太の鎖の付いた凄そうな物から、メイドさん用の目立たないもの、愛人奴隷用のお洒落な物までと様々な首輪がある。
そういえばこんなのをしている人をたまに町でも見かける気がするな、道ゆく人と変わりなかったけどあの人達は奴隷だったのか……ただのアクセサリーかと思ったよ。
「リリィが持ってるヤツ可愛いね、それで良いんじゃない?飽きたら変えればいいんだから、何個か買っておいたら?」
それもそうだという話になったのはいいが、結局四つも買ったみたいだ。今はリリィの選んだ穴あきのハートがいくつも連なっている物を身に着けており、喉元の辺りにカミーノ家の家紋が刻まれた小さなメダルがぶら下がっている。これが奴隷または獣人の所有者を表し、手出し無用であると主張するものらしい。
「次は服ね」
有無を言わさず連れて来られたので俺とアルは外で時間潰し。
「レイさんに選んで欲しかったのに」などとごねられたが、そこは面倒なので女性陣に任せた。
ベンチに座り魔法を貰うと身体強化の魔法の練習に勤しむ。付き合ってくれるアルのお陰でだいぶ早く展開出来るようになってきた、後は回数を重ねて質を高めていかないとだな。
「なぁ、火魔法は肉体を活性化させて身体が動くのを強く、早くするんだろ?水と風、それに土はどうなんだ?」
「土は知らんが風はお前も知ってるだろ?身体に纏わせることで動きが早くなる。
水は防御力の強化。人間の身体は半分以上が水で出来ている。その水を活性化させて防御力を高めるんだ。ほら、まずは水、やってみろよ」
俺の貸した魔晶石を光らせながらアルが水魔法をくれる、よしやってみるか。
火魔法と同じ要領で水の魔力を全身に流すイメージ、火魔法に慣れたお陰で割とすんなり出来たように思えるが効果の程はどんなもんなんだ?
「アル出来てると思うけどさぁ、どうなのか分からないからちょっと殴っ……ぐふっ!」
言い終わる前にアルの裏拳が俺の腹に直撃する。不意打ちとは……まぁ、実戦はそんなもんだな。アルもアルで拳だけに強化をして結構な威力で殴ってきやがったが、鳩尾に入ったとはいえそこまでキツイ感じのダメージではなかった。結局ちゃんと強化されているのかどうかよくわからんな。
目の前に出されたアルの手、そこには風魔法が渦を巻き球を形成していた。意図を察して受け取ると、なかなか見ないモノをじっくりと眺めてみる。
「コイツは同じじゃないよな?身体に纏わせる、でいいのか?」
「あぁ。但し、身体の表面に隙間なくくっついてないと身体強化にはならんぞ?」
ふむ、ピッタリフィットかぁ……水の中に入れた後の濡れた手をイメージし、手のひらに馴染ませるよう薄く薄く伸ばしてみる、なんだか女の子が使うようなハンドクリームを塗る感じだな。こんなんでいいのか?
出来た気がするのでそのまま全身を覆うように徐々に薄く伸ばして行くと、頭のてっぺんから爪先まで風魔法で覆い尽くされ身体が軽くなったような気がする。
「こんな感じでいいのか?」
「おおっ、良いじゃないか。初めからそこまでいければ凄いよ。マジで魔力の扱いは上手いな、ほれ、ジャンプだ」
言われるがままにこの間の失敗を頭に蘇らせ軽くジャンプしてみる。すると目線はまたもや二階、五メートルの高さまで飛び上がってしまった……なんでだっ!
軽く飛んだつもりだったが身体が軽く感じる。試しにブンブンと手を左右に振ってみるとやはり動きが早く、やっていて自分で自分が面白い。ジャンプした頂点でそんな事をやっているもんだから余計に注目を集めたようで、子供に指を指されているのに気が付き恥ずかしくなってきた。
側から見たら、急にとんでもなく高く飛び上がり空中でにこやかに手を振ってるもんだから完全に可笑しな人だよな……。
「またやらかしたのぉ?」
呆れた顔で笑いながらいつのまにかユリ姉が立っていた。あれ?もう終わったの?と、思ったがユリ姉だけしかいない。
「気のせいだよ、それよりどうしたの?良いのなかっ……」
「貴方は!こんなところで会うとは偶然だな。この町は俺の庭だよ、是非案内しよう!」
俺の言葉に被せるように声をかけてきたムキムキの男、嬉しそうな顔でユリ姉を見つめるその後ろにはスタイルの良い美女が二人立っている。あれ?こいつ何処かで会わなかったか?
ユリ姉はうんざりといった表情で溜息を吐き、俺達の方を見てくる……あぁ、思い出したっ、ベルカイムのギルドで会った男だ。確か貴族の三男坊って話だったがこの町の貴族だったのか?仕方ないな。
立ち上がり、ユリ姉を隠すようにソイツの前に立つと敵意を込めて睨みつける。
「俺の連れだ、止めてもらおうか」
「ん?なんだね君は?俺が誰と何を話そうが君には関係ないだろう?」
なんか同じパターン?ここはギルド内じゃないからぶっ飛ばしていいかな?いいよね?
あの時の情景が思い起こされ沸々と湧き上がる苛立ち。だが俺が殺気立つと、後ろから ポンッ と軽やかに肩へと手がかかる。
「私は貴方とは行かないわぁ、お引き取りくださるかしらぁ?」
「ふむ、そこまで照れることはないだろう。実を言うと俺はここを統治する貴族でな、町の事なら誰よりも詳しいのだ。さぁ、何か美味しいものでも食べに行こうじゃないか」
右手を差し出すクソ貴族、人の話を聞かないのは相変わらずだな。なんでこんな奴とあの美女達は一緒にいるんだろ?あれ?前もこんな事思った気がするな。
「いい加減にしないと怒りますけど?」
ユリ姉の口調が変わった……もしかしてキレそう?ピクピクと痙攣するこめかみ、それに合わせて吊り上がる片方の口角、殺気にも似た怒気が辺りに漂うがクソ貴族はそんなの気にした素振りも無い。ある意味強者だな。
「あーーーーっ!!あの人!私を捕まえた人だわっ、なんでここにいるの!?」
「ん?あれは兎じゃないか、逃げ出したのか?ふむ……また捕まえれば金になるな」
こいつ……こいつがエレナを捕まえて売り払ったのか。俺の中の苛立ちが怒りへと変わり、ユリ姉の事とも合わさって殺意へと進化を遂げる。やべっ!俺の方がキレそう。
顔色を変えエレナに向かい歩き出すクソ貴族。ところが一緒に戻ったクロエさんが険しい顔をしながら サッ と前に出てきた。
「止まるのです。この獣人はカミーノ家の所有物なのです。手出しをするのは許さないのです」
その言葉に立ち止まり顎に手を当てると、エレナの首にぶら下がるコインを見つめる貴族野郎。どうやらそれで納得したようで フンッ と鼻息を荒げると再びユリ姉に向き直る。
「それは失礼した。時間を取らせたな、さぁ行こうか」
尚もユリ姉を引っ張り出そうとする貴族野郎、今までにあった奴の中でダントツで一番を張れるほどウザイ。
「警告はしましたからね」
ボソリと言い放ち俺の前に出ると、
「「「キャッ!」」」
女性の悲鳴とともに自分の状態に気が付いたクソ野郎は慌ててズボンを持ち上げる。
男の観客からは遠慮のない笑いが派手に巻き起こり、クソ貴族は恥ずかしさからか、はたまた怒りからか、顔を真っ赤にしていた──はっ!いい気味だな、少しは気が晴れたよ!
「いきなり何をする!この俺に恥を描かせるとは正気か?後でどうなっても知らないぞ!?」
「私は警告をしました、それでも止めなかったのは貴方です。自業自得ですよねぇ」
ぐぬぬぬぬっと唸り声をあげながらユリ姉を睨みつけている態度が気に入らずユリ姉の前に出る。
「お前さ、いい加減にしろよ。何度も何度も断ってるだろ!この程度で済んだことを感謝しろよなっ、次来たら命はないと思え!」
舌打ちして逃げるように去っていく貴族野郎。周りの観客から歓声が上がったが、そんなに楽しかったのか?
「姉ちゃんかっこよかったぜ!」
「スカッとしたよ、ありがとなっ」
「どうせならボッコボコにしてやればよかったのに」
どうやら奴はここでも嫌われ者らしい。
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