10.ちょっとした悪戯
食堂に行けばサラとコレットさんが既に朝食を食べていた。俺達が来たのを見つけるとジトーっとした目をするサラ……なんだよっ。
「仲がよろしい事で。コレットは私と同じ部屋で構わないので、今度からは二部屋で良いのではないですか?」
ん?いいのか?サラが良ければそれでいいんだがな。まぁコレットさんに任せた。いくらお金があるとはいえ無駄なものは抑えた方がいいだろうとは思う。
「ちょっとギルド寄っていいか?やっぱり盗賊団の事が気になるんだ。討伐出来ないのか、しないのか、見極めたい」
「レイは追われる身だと言う自覚が無さ過ぎるのではないですか?人の為とはいえ貴方も見つかると捕まるのですよ?」
サラの言う事はもっともだが、それでもこの間のスーザやアルミロのような目に遭う人が増えるとなると我慢出来たもんじゃない。知ってしまった以上は出来る限りの事がしたいのだ。
「貴方のお好きになさって下さい」
意味深な深い溜息は俺を心配してくれてのことだと思いたいが、それでもお許しがでた……我儘で悪いな。
ギルドに入ると呼び止める奴がいる。昨日の続きかと思いささくれ立つ視線を向けてみれば、ソイツは簡素ながらも騎士鎧を纏う二人組みの男女。睨んだ事に『ごめーん』と心の中で謝っていると、何故かその男の顔に見覚えがあるのに気が付いた。
「お久しぶりですね、ハーキース卿」
笑顔で差し出された男騎士の手を握り返すとようやく思い出した。コロシアムで控え室に戻るとき俺を案内した奴……つまり魔族。
取り敢えず座ってくれというので隅の方の席に着くと、国王からの使いだというので驚いてしまう。
「貴方の容疑は国王陛下のご尽力により見事晴れました。それにより指名手配は解除されることとなります。ですのでギルドカードを貸していただけますか?」
──偽装のことまで知ってるのか……何者だよ。
俺達四人分のカードを渡すと、似たようなカードの上に乗せて僅かな魔力を加え始める。
僅か数秒後、軽い感じで「はいっ」と手渡されたギルドカードには今まで表示されていた偽名が書き換えられ本名に元に戻っていた。
「これで元通りです。あと、一つだけお伝えしなくてはならない事があります。
騎士伯レイシュア・ハーキースとサルグレッド王国第二王女サラ・エストラーダ殿下の婚約が発表されました、おめでとうございます。この旅も婚前旅行という事になっております。
結婚が正式に成されますとハーキース卿にも王位継承権が発生しますね、王族ですよっ、お・う・ぞ・く。やりましたねっ」
「ちょ、な、はぁぁぁぁ!?何?なにって?今、何て言った?」
コイツいきなり何言い出したの?意味が分からないんですけど!?
何か知ってるのかと当の本人であるサラを見れば プイッ と横を向く──その反応って何?知ってたって事!?そんなこと隠してたの?貴女、王族なんですけど!勝手に婚約とかいいの?いや、俺が良くない。そんな窮屈そうなの嫌だ、お断りしたい。
まさか、アレクの言っていた最終手段ってコレのことか!?
「サラ、説明は?」
「何もお話しすることはありません」
斜め上を向いたままコッチを見ようとすらしない──てめぇ……婚約ってそんな軽いことじゃないだろうが!
「まぁ、その辺はおいおい二人でお話していただくとしてですね、アリサさんはこの先の海の町 〈リーディネ〉に居ます。くれぐれもよろしくお願いしますよ?
ですがその途中、ティナーラとリーディネの間に巣食う蛆虫共を退治することをお勧めします。貴方の力ならば簡単でしょう?では健闘を祈ります」
言いたいことだけズケズケと告げた男が席を立つと、終始不機嫌そうな顔で腕を組んだまま俺を睨みつけていた女騎士が初めて口を開いた。
「貴方がお姉様のお気に入りなの?なんだかパッとしないわね、ただの女誑しじゃない。それでも貴方しか居ないとはね……。
いい?ちゃんとお姉様を取り戻しなさい。じゃないと許さないからっ!」
見た目は誰もが憧れそうな緑髪が綺麗な美人騎士。しかし敵意剥き出しの鋭い視線もあってか、切れ長の目が近寄り難い印象を与える娘だ。
──アリサを慕う魔族……か。
言いたいことが終われば睨んだままに椅子が転がるほどの勢いで立ち上がり、苦笑いする男の隣をすり抜けて外へと出て行った。男も申し訳なさそうに一礼すると女を追いかけて行く。
「アリサって……誰?」
僅かな間にいろいろと疲れてしまい、座ったまま二人の騎士を見送っていれば耳元でボソリと低い声がする。ビックリして身を離せば、俺のすぐそばに頬杖を突き、顳顬をヒクヒクと動かしながらジト目を向けてくるサラがいた。
「えっと、サラさん?話してませんでしたっけ?」
「レイシュア様、少しお時間を貰えますか?その辺りの事についてじっくりとお話ししたいのですが……異論はありませんわよね?」
なんか……怖いぞ。俺、そんな悪いことした?勝手に婚約とかしておいて他の女の影が出でくると怒るの?なんか理不尽じゃね?そういえばモニカにも説明してないことがあるな。すっかり忘れてたわ。
「え、えっとですね、な〜んで俺が怒られてるのかなぁなんて思ったりもするんですけど……。取り敢えず盗賊団の事を聞いて来てもいいですかね?」
超不機嫌なサラを宥めて部屋で説明するからと説き伏せた後、元々の目的であったカウンターへと辿り着けば、ここの受付嬢も例外無く可愛い女の子だったので少しだけ心が癒されてくれる。
誰か責任者を呼んでくれと言うと俺のギルドカードを持って奥へと行ってしまう……が、しかし、すぐに戻ってきた受付嬢は何故か俺をマジマジと見つめてくるので少しばかりの違和感を覚えた。
「こちらでお待ちください」
案内されたのは応接室、待たされた時間は一分にも満たなかった。
現れたのは白髪の混じる貴族風のおじさん、さっきの受付嬢もお盆を片手に一緒に入って来て、チラチラと気になる視線を向けながらもお茶の用意を終えると部屋から出て行った。
「いやはや、こんな場所で済まないね。なにせ突然の来訪だ、非礼は許してくれ。
それで、何用だろう?ギルドの最高峰ランクSを持つ冒険者、レイシュア・ハーキース卿?」
……何?今この人何て言った?ギルドランクS?はぁ?
隣に座るモニカもポカーンとしてるし、いつも余裕のある態度を崩さないコレットさんまで唖然としている。
──何の悪戯だよ!国王っ!!!
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