11.一安心

「アハハハハハハッ。そうかそうか、そういうことか。いや私もビックリしたんだよ。そうか陛下がね。いや、でもねハーキース卿。貴方の功績からしたらランクSでも問題ないだろう。あの近衛三銃士最強のガイアを倒したって言うじゃないか、話は聞いてるよ。当然の昇格じゃないかい?

 それにしても一度も試験を受けずにランクSというのは多分、貴方が史上初なんじゃないかな?」


 冗談にも程がある……また目立つじゃないか。ランクSなんて世界に数人かしかいないって聞いたぞ?しかも実力で言えば俺より強い人なんてゴロゴロいるだろうに。

 まさか王女の婚約者としての地盤固めか?あの娘溺愛ドタコン親父め、本気で俺とサラをくっつける気かよ。そういうことするとサラの本心が偏るっていうのに、まったく……。


「それで、私に聞きたいことがあったんじゃなかったのかい?」


 そうそうそれですよ、盗賊団について聞きたかったんですよね。今日という日はまだ始まったばかりなのに驚かされることだらけで疲れちゃうよ。


「盗賊団 〈ブラックパンサー〉この辺り一帯を支配下に置く大盗賊団だ。この町ティナーラと隣町のリーディネの間に位置する山にアジトを構えているのだが、奴等は数が多くてな。討伐隊を組んで何度も挑んでいるのだが上手くいかなくてな。

 私が言うのも何だが、この辺りの冒険者の質の問題もあるのだろうな。貴方も昨日、うちの冒険者の筆頭とやりあった……いや迷惑をかけたそうだな。私から謝っておこう。


 話が逸れたが現状、あの山を抜ける街道は事実上通ることができない。なので、リーディネに行く際は山を迂回して行くのが一般的になってしまっている。一部の商人は盗賊団に通行料を支払って通してもらっているというなんとも情けない話だよ。

 そろそろ国も黙っていないだろうが、貴方が退治してくれるなら大いに助かる。


 それと、情報として気になる噂があってな。なんでも奴等のボスは魔族とかいう話だぞ。にわかには信じられないが真相のほどは分かっていないんだ。それでもやってくれるか?」


 あの騎士が言っていたという事は魔族絡みは確定だな、恐らく過激派の一味なんだろう。ここで集めた金が奴らの活動資金になっている?じゃあ潰して然るべきでしょう。


「魔族が絡むのならやらせてもらうよ。その代わりと言ってはなんだが、俺達はリーディネに向かっている。討伐が終わってもこの町には戻らないから、報告は向こうでしてもいいか?」


 連絡しておいてくれるらしいので引き受けついでにモニカにコレットさん、サラも俺達のパーティーに登録してもらった。相談もせずに勝手に登録したけど、アルもリリィも怒らないよな?

 そこで一つ驚いたのがサラのギルドカードだ。なんで冒険もしたことないのにいきなりギルドランクBなんだよ!不正じゃないかっ!





 ギルドから出た途端にガシッと力強く肩を掴まれた。嫌な予感を感じつつも恐る恐る振り反ればサラが「用事は終わったよね?」と、にこやかに怒っている──うへ、忘れてたよ。

 時間的にも今から出発する訳にもいかず、大人しく宿に戻り弁明をすることとなった。



バンッ!



 高そうな家具の事など気にする素振りもなく、それを壊さんとばかりの勢いで机という人畜無害な物へ感情を叩きつける。

 あまりの迫力に身を震わすが、如何な歴戦の勇者と言えども彼女の前には思わず平伏すだろう。凄まじく強烈な剣幕で睨みつけられ、冷や汗が背中を音もなく流れ落ちて行く。


「説明をお願いします」


 テーブルに突いた両手で胸を抱き上げ、ソファーにふんぞり返ると長い足を組んで短絡的な命令を下す。

 思わず自分が悪いように感じてしまい萎縮するが……ちょっと待て、俺が悪いのか?


「な、なぁ、俺とサラは別に付き合ってる訳でもないよな?婚約の話も俺を助ける為の手段の一つだろ?それならサラに怒られるのっておかしくないか?」


 老人ならそれだけで天に召されるほどの鋭い眼光に再び ビクッ! としてしまう。

 ま、まぁいいや。どっちにしても説明は必要だろう。


 両手を挙げて降参を示すとアリサの事を話し始めた。


 魔族の女だというのには流石にビックリしたのか「はぁ!?」と、驚愕されたがそれが普通の反応なんだろうな。

 そして獣人であるエレナの話もすると「あぁ、あの時の兎さんですね」と、こちらは簡単に納得していた。そういえばオークションでエレナを見ているんだったな。


 モニカにティナ、アリサにエレナという女性関係を持とうとしている俺に対し、サラがどう思うのかは知らない。けど俺は、その全て受け入れるつもりでいることだけは伝えておいた。四股をかけるカモ宣言、普通に考えたら最低だよな。


 更にもう一つ、これは良い機会だと三人とも知らない歴史の事実と俺の素性を語る。

 俺にとっては少しばかり勇気のいる事だったが、国王陛下を信じて語った後だ。ストライムさんのお墨付きも有ったが俺の愛するモニカならば受け入れてくれると信じ、思い切って話す事にしたのだ。


「お兄ちゃんは本物の王子様だったのね!」


 俺の不安など何処へやら、嬉しそうに飛びついて来たモニカになんて答えていいのか分からなかったが、それでも俺と言う人間を受け入れてくれる事を嬉しく思い、抱きしめて頭を撫でた。


 コレットさんは予想通りただ聞いているだけだったがサラはサルグレッドの王族、自分の知っていた歴史と事実が異なりそれなりにショックを受けたようだ。だが表面上はそれを否定するでもなく、俺を拒絶するでも無かったのがまだ救いだったな。


「改めて聞くけど、俺はこの国に居る以上、逆賊認定される。そんな俺の側に居てもいいのか?」


「なんでそんな事聞くの?」


 小首を傾げるモニカはやはりといったところだな。流石、俺の未来の奥さんだ。

 サラも「そんなの関係ありませんわ」と言ってはくれたので、内心はどうであれ一安心だった。



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