40.王都観光ぶらり旅
「このパスタって食べやすくって美味しくって、いいね!」
キノコとベーコンの入ったクリームソースのパスタを食べているリリィの顔は綻んでいる。こいつは食べてる時が一番幸せなんだろってくらい美味しそうに食べる姿を見ているとこっちまでほっこりした気分にさせられるんだが、ある意味コイツの特技だよな。
パスタというのは小麦粉を水と卵で溶いたものを練り合わせ、薄く伸ばして茹でた物を指すらしい。なんでも元は宮廷料理で出されていた前菜的な料理らしく、食べやすさとアレンジのしやすさから一般市民に広がって来たんだそうだ。
一般的にパスタと言えば細長く切った麺状のもので、今リリィが食べている料理のようにソースに絡めて食べる物。だが他にも板状に切った生地に野菜のペーストやひき肉などを包んだりしたものや、小さく切った生地をクルクル巻いてスープに入れたりとそれはもう多種多様な料理があるらしい。
俺達が来たのは麺状のパスタの専門店で小洒落た雰囲気の少しお高いお店だ。みんなでシェアする三種類のパスタとメイン料理のコースにしたので、大皿に乗って来たパスタをクロエさんが手際よく取り皿に分けて配ってくれた。
目の前に置かれた皿には綺麗に山状に盛り付けられた三つのパスタ山。
リリィが最初に食べていたやつは、生クリーム主体のチーズのソースがまったりとした口ごたえとなっているもの。キノコの風味と時折感じるベーコンの食感と塩味がアクセントとなり、くどく感じる事もなく非常に美味しい。
「このミートソースのやつが美味しいですっ。私、これなら山盛り食べれますよ!あぁ無くなっちゃった……レイさん、それ食べないなら私が食べましょうか?」
他人のパスタを見ながら喋るエレナは獲物を見る動物的な目になっていた。あげても良いけど俺もコレ気に入ったらから食べたいんだけど……。
挽肉と野菜の微塵切りしたものをトマトソースで煮込んだ物をミートソースと呼ぶらしい。挽肉に野菜の旨味が染み込みそれに少し酸味を感じるトマトが絡みつく。パスタに絡めて食べると酸味がだいぶ緩和され、野菜と挽肉の歯ごたえが満足感を感じさせる。
「これぇ、ちょっと辛いけどぉ病みつきになりそうな感じがするわぁ」
ユリ姉が食べていたのはオリーブオイルにニンニクと唐辛子の味を染み込ませたオイルソースに細切りのベーコンが加わり、ちょっと細めの麺状パスタに絡めたものだ。これといった具はないのだが、唐辛子が結構効いていて口に入れると程よく辛い。しかしそんなものはすぐに慣れ、食欲を唆るニンニクの香りが口の中一杯に広がる。少量食べる分には癖になるほどに美味しいパスタだな。
メイン料理には豪勢にドードー鶏を頼んだ。料理が来る前から店内にはヤツ独特の良い香りが漂い、他のお客さん達の話題にものぼっていた。
運ばれて来たドードー鶏は定番の香草焼きで綺麗な焼き色をした魅力的な御姿、目の前に置かれるとより一層匂いが濃厚になり、それだけでも満足してしまいそうになる。
「こんなに美味しそうな鶏食べたことないですっ!クロエさんっ!早く切り分けてくださいっ、早く早くぅっ!あぁっ、涎が……」
少しは待てないのか?本当に子供だなぁ、って俺も口の中に涎が溢れてきているのは内緒だ。大人だからもちろんそんな事は口にしないぞ?
「んん〜、この香り。いつ嗅いでも良い匂いですよね。口の中、涎が溢れて来ます」
ティナまで……まぁ、この魅力に勝てる奴はいないよね。
手際よく綺麗に切られて配られたドードー鶏。パクリと一口頬張れば口の中を美味しさが支配し、天にも登る感じさえする。
「んん〜、おいひぃねっ!たまんないわっ」
リリィさん!?口に物が入ってるときは喋らないのよ……いい歳こいて、はしたないっ!
肉食獣のような鋭い視線を感じて横を向くと怪しい光を放つエレナの目が俺の皿に大事にとってあった最後の一切れを狙っている。 馬鹿!誰がやるかっ!慌てて口に放り込めば視線も付いて来て口元へ。「あぁっ……」とか言って涙目になってるがコレは俺のだ!
二羽もいたドードー鳥もあっという間に平らげ、満足気な顔で人心地付いた後には本日のデザートであるソルベの登場。一口サイズに可愛く盛られたソルベは女の子ウケしそうだな。
「赤いのは甘酸っぱいくてサッパリしてます、これは木苺ですね」
「んん〜、ちゅめたくて美味しぃ〜」
「こっちの白いのは葡萄ぉ?お酒の味もするわねぇ」
「シャンパンが混ぜてあるのです。口の中がサッパリするのです」
「もう無くなってしまいました、おかわり!……ありませんよね。あ、レイさんっそれ食べないんですか?食べないなら私が……あっ!そんなに急いで口に入れなくてもいいじゃないですか。もぉっ……また食べに来ましょうねっ」
満腹になったお腹を休めながらゆったりと教会を目指す。王都は本当に広くカミーノ家の馬車での移動は楽で良かったのだが、レストランからは近いというので散歩がてらこうして歩いている。
本当に賑やかな王都。魚を売るおばちゃんが「さっき入ったばかりの良いのがあるよ!夕食にどうだい?」とか言ってる声が聞こえてくる。
服屋のお姉さんも店の前で道行く人に「タイムサービスしてま〜す、是非お立ち寄りくださいっ」と看板を手に積極的な客引き。
「よぉそこの兄さんっ、美味しい果物でもどうだ?この林檎、他所ではちょっと食べられないぜ?」
威勢のいいお兄さんの声に釣られてシュテーアのお土産に丁度良いかなと寄ってみれば、見た目にも美味しそうな真っ赤でツヤツヤとした立派な林檎だった。
「まぁ食べてみてくれよ」
寄って来た鴨を逃すまいと、慣れた手つきで皮を剥きアッという間に八当分すると食べやすいように串まで刺してくれる。
その気前の良さに好印象を受けつつ一つ摘んで口に入れると、濃厚な香りが口の中一杯に広がり仄かな酸味が後を引く。みんなもそれぞれ戴くと「美味しいっ」と口を揃えていた。
「うん、これは美味しいな!その袋に適当に詰めてよ、いくらになる?」
「結構入るけどいいのかい?そうだな、オマケして銀貨八枚、よろしくっ」
「お釣りは要らないよ」と金貨一枚を手渡せば酷く驚いた顔をする。そりゃそうだ、銀貨二十枚で金貨一枚、倍以上の値段を支払ったものだから無理もない。
受け取った林檎の袋を鞄にしまうと、一つだけ取り出してそのまま齧る。呆気に取られるお兄さんに笑顔で親指を立てれば、彼もまたにっこり微笑み「またお願いしますっ!」って気持ちよく見送ってくれた。
お腹いっぱいだった筈だけど思わぬ出会いに口が止まらない。お行儀悪く歩きながら食べていると、横から手を引っ張ったエレナが俺の齧りかけの林檎にかぶりついてきた。
「んふ〜っ」
「欲しいなら言えよ……」
頬に手を当て美味しそうに口を動かす。女の子が大口開けてかぶり付くのか……お前、ホント自由だよな、それがエレナの良いところか。
気が付けば今度は反対側に引っ張られシャリって音が耳に着く、んん?見るとティナが俺の腕を掴みモグモグしている。おいっ、お嬢様!はしたないでしょうがっ。
ツンってそっぽ向いてるけど、なんでだ?もっと美味しそうに食べなさいよ。
「食べたいなら出すけど?」
頬を膨らませ「要りません」っ不機嫌そうに言うけど、俺、なんかしたか?
ぶらりぶらりと世界最大の町を楽しみながらゆっくりと歩いてようやく辿り着いた教会。予想通り大きかったのだが、城みたいな大きさを想像していたのでそれよりはだいぶ小さかった。そして勿論だが女神様の像は金ピカではなかった……ちょっと残念。
造りは他の教会と似たようなもので、メイン通路からの祭壇からの女神像だ。
通路両脇の空いている席に座り祈りを捧げてみる。信仰心の薄い俺は祈ったフリをしただけなのだが、横目でチラリと見てみると、みんな何やら熱心に祈っている。俺と同じフリなのはアルだけでクロエさんを見つめているのが見えた。
頃合いを見計らい顔を上げて教会内を観察していると隅っこの方に部屋らしき物があり、何やら小さな看板みたいな物が立てかけてあって、その前に並んでいる数人の女性。
なんじゃあれ?と興味を惹かれて見に行けば、女性向けの小洒落た看板には “占い” って書いてあった。
「ここの占いは教会の方が占い師さんをしていて、よく当たると評判なの」
いつの間にか付いて来ていたティナがそっと教えてくれる。
それで並んでるのね、そんなに当たるのか?俺達の目的は別なので占いから離れて席に戻ればみんなお祈りを終えたらしく俺達を待っていた。
「あれはなんだったのぉ?」
ユリ姉の質問に答えれば女性陣の目が輝き出す。おいおい、あれに並ぶのか?勘弁してくれよ。
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