43.サプライズ
ワクワクした気分を抑えてみんなと合流。昼ご飯を食べた後に岬にある教会へと向かった。そこからは碧い海が一望でき、今日は雲一つない青々とした空と合わせて見晴らしは最高だ。
岬の先端には白い木の柵に囲われた小さな鐘が設置されていた。先程来た時に見つけ、ここがベストポジションだと判断したのだ。
「いい景色だろ?あの鐘を二人で鳴らすとずっと幸せでいられるらしいよ。やってみない?」
モニカを連れて鐘の前に立ち、そこからぶら下がる紐を一緒に握ると、せーので引っ張った。
カランッ カランッ カランッ
小さな鐘が高らかと鳴り響き、海の彼方へとその音が消えて行く。
「モニカ、話したい事があるんだ」
「何?」と訊ねるモニカの正面に立ち、両手を握ると、サファイアのように綺麗な青色の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「前にも聞いたけど、モニカは本当に俺と一緒にいて幸せになれるのか?明日の朝にはここを発ってティナの所に向かう、そうなればモニカとの時間も減るんだぞ?しかもそれだけじゃない、俺の家に帰ればもう一人増えるだろう。本当にそんな男と一緒に居たいと思うのか?
モニカぐらい器量が良くて、優しい娘なら、相手なんて探そうと思えば俺よりもっと良い男なんて……」
「お兄ちゃんっ!お兄ちゃんはまだ何も分かってないの?お兄ちゃんは強くて、優しくて、カッコよくて、お兄ちゃんより良い男なんてこの世にいないわよ?
それより、お兄ちゃんはどうしたいの?私に嫌いになって欲しいの?
そりゃあさっ、昨日だってフラウさんと一緒に何処かに行っちゃうし、帰ってきたら朝だし……。
お兄ちゃんのお嫁さんが沢山になるのくらい、ちゃんと分かってるよ。けど、それでも好きなの、それはいけないことなの?お兄ちゃんを好きでいたら駄目なの?」
痛い所を突かれたな。やっぱり昨晩の事はモニカも気になってるという事だ。口では「いいよ」とは言うけれど、良く思ってる訳は無いよな。
こんな俺ですみません。
モニカはちゃんと俺を分かってくれてる。それに甘えるだけでは駄目な事は分かる。けど、それでも良いと言ってくれるモニカとなら、ずっと一緒に居られるだろう。
モニカの前に片膝を突けば驚きを隠せない彼女は目を丸くする。
そんなことには構わずポケットに忍ばせていた箱を取り出し蓋を開けた。その中には、さっき作ったばかりのミスリルの指輪がある。
俺の家紋にもしたルイスハイデ王国の王家の証に刻まれている国家の花 “桜” の中心に、愛と共に永遠に輝き続けると言われているダイヤモンドを嵌め込んだ。それを主体にして、この世界の二人の女神の真の姿だと言われる “二匹の龍” を絡ませてリングを作った。
自分で造っておいてアレだけど、なかなかのデザインになったと思う。モニカが着けても似合うようにと柔らかな曲線をふんだんに使い、スッキリとした細めのリングに仕上がっている……と、思う。
「こんな駄目駄目な男だけど、モニカを愛する想いは君の親であるストライムさんやケイティアさんにも負けない自信がある。
モニカがこんな俺とでも一緒に居てくれるというのなら、俺の一生の伴侶となって欲しい。
モニカ、俺と結婚してくれないか?」
目を見開いたモニカは後ろ手を組み、クルリと海の方に向きを変えるとそのまま何も言わない。
モニカからのアプローチで婚約はしたけど結婚というモノに抵抗があるのだろうか?それともやはり俺という人物がちゃんと見えて、こんな男とはと思ってしまったのだろうか……。
不安な思いに駆られたままモニカの反応を待っていれば予想だにしなかった言葉が聞こえてくる。
「ちょっと、考えさせてくれる?」
大きな大きなハンマーで頭を殴られたような衝撃的な気分だった。涙を流して喜んでくれる、そんな妄想さえしていたのだ……だが現実はそうではなかった。
モニカが出した返事は否定的なもの、やはり俺のような浮気性とも言える男とはずっと一緒に居ることなど出来ないという事だな。
溢れ出ようとする涙をグッと堪えて立ち上がると指輪の箱をしまった。
みんながいる前だしこんな所で泣くわけには行かない。唇を噛み締め深呼吸すると表面上はどうにか落ち着いた。
「そうだよな、突然だったもんな。じっくり考えてよ」
モニカに背を向けるとみんなの顔がある。こんな時どんな顔をしていいのか分からず、苦笑いしてみた。
「ぷっ、あははははははっ」
その顔が面白かったのか、振られたのが可笑しかったのか、珍しいことにサラが大声で笑い始めた。コレットさんや雪までクスクス笑ってる。
いや……まぁ……ね、日頃の行いが悪いって言えばそれまでだけどさ、ちょっと酷くない?
笑われて気まずくなりコリコリと頭を掻くと、後ろからドンっと言う衝撃と共にモニカの匂いがフワリと漂う。
「嘘っ!うそうそうそっ!嘘だよっ、ごめんっ!お兄ちゃん、ごめんなさい。ちょっと昨日の仕返しをしてみたかっただけなの。本当にごめんっ!こんな時にする事じゃないよね。
嘘っ!それも嘘なのっ!ただ恥ずかしかっただけなの、ごめんね。本当にごめん。謝りますごめんなさい。でも寂しい夜だったのは本当っ、そんな私の気持ちも知っててね、って今する話じゃないよね。何言ってるんだろ、私」
背後から抱きつき「ごめん」と連発するモニカ、何がごめんなのだ?謝るのは俺の方なんじゃないのか?恥ずかしかった?
「お兄ちゃんのプロポーズ、本当は嬉しかったの。嬉し過ぎて空が飛べるかと思ったくらい!
でも、でもねっ、恥ずかしくなっちゃったの。嬉しくて、恥ずかしくて、涙まで出てきて、どうしたらいいか分からなかったの。ごめんなさいっ。
お兄ちゃんこそ私と一緒でいいの?こんな私でもお兄ちゃんの傍に居てもいいの?
私でもいいのなら……私と結婚してください!」
なんだか逆にプロポーズされた。なんでこうなった?
断られたと地の底まで沈んだ気持ちが、モニカの言葉で天高くまで一気に舞い上がって行く。こんなに嬉しい事は他に無いよな。よかった、俺は嫌われていたんじゃなかったんだ。
振り向きモニカの顔を見ようとするがギュッと抱きついて離してくれない。まぁ後でもいいかと腹に回されていたモニカの手を取り、ポケットから指輪を取り出して左手の薬指に勝手に嵌めてやった。
「これでモニカは俺のモノだな。今更嫌だって言っても、もう遅いからなっ!一生離さないから覚悟しとけよ」
「うんっ、うんっ」
何度も頷く声が背中越しに聴こえて来る。本当はキスしたいんだけど、しがみついて離してくれない。
「モニカ、実はもう一つやりたい事があるんだ。一緒にやってくれないか?モニカと一緒じゃないと出来ない事なんだ」
△▽
さっき、やっと俺から離れたモニカは顔が真っ赤になっていて、すっごい笑顔なのに涙でグチョグチョだった。それはもうひどい顔になっていて、俺が振られて笑われたと思ったのはモニカの顔があまりにも酷かったかららしい。
「見るなぁ!」と言われて隠そうとしたので、両手を掴んでキスをした。もちろんその後はちゃんと涙を拭いてあげたよ。
今、俺は正装に着替えて大きな扉の前でモニカの到着を心待ちにしている。借りておいた服、絶対似合うと思うんだけどなぁ。
係の人に付き添われ、純白のウエディングドレスに身を包んだモニカがゆっくりと歩いてくる。レースで作られたベール越しに見える顔は嬉しそうで、照れくさそうにしながらも満面の笑みを浮かべていた。
「モニカ、綺麗だよ!俺はこんな綺麗な嫁さんが貰えるなんて世界一の幸せ者だなっ」
ますます照れて視線を落とすモニカを覗き込むと、もぉっ!と怒られる。しかし顔は嬉しそうなままだった。
二人で教会内に入ると何人かの知らない人と、サラ、コレットさん、雪、ラン、リンが拍手で迎えてくれた。
神父さんに従い女神エルシィの前で愛の誓いをした後、モニカのベールを上げた。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに上目遣いで俺の目を真っ直ぐに見つめる青い瞳。
「愛してるよ、モニカ」
「私も愛してます、レイシュア」
モニカの肩にそっと手を添えると目を合わせて気持ちを確かめ合う。そして “一生離さない” と心で呟きながら誓いの口付けを交わした。
これでモニカは俺のモノだ、これから彼女を泣かさないように、より一層の努力が必要だな。
ブーケトスというのは、結構メジャーな行事らしい。後ろ向きのモニカを待つ何人かの女性達、雪まで参加しているのはなんでだろうか?確かブーケを取った人が次に結婚出来ると言うもののはずだが……。
「いっくよ〜」
モニカの掛け声と共に天井高く放り投げられる白百合のブーケ。その花を選んだのは勿論俺だ。ユリアーネとの結婚式と同じ花、俺にとっては思い出深いブーケだ。
天井から放物線を描きクルクルと舞い落ちたブーケは一人の女性の腕の中に見事に収まった。拍手が起こり、おめでとうと声も上がる。
受け取った本人はまさか自分が貰えるとは思ってもみなかったようで、目をパチクリさせていた。その様子が可笑しくて皆で思いっきり笑ってやった。
振り返ったモニカも大喜びで手を叩いて喜んでいる。
「サラっ、式には絶対行くからね!!」
ブーケを手にしたサラの顔が真っ赤になったのは言うまでも無いだろう……。
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