29.出番きたー!
目を開けば俺を見つめる琥珀の瞳。ニッコリ微笑みキスをせがんでくるので、軽く唇を合わせると周りを見回した。光量の落ちた薄暗い洞窟の一角、皆はまだ寝ているというのに、親方は一人、地図とにらめっこしていた。
「親方、寝てないの?」
「ん?起きたか、俺も少し寝たぞ。それより姉ちゃんの体調はどうだい?」
「魔力もだいぶ戻ったしぃ、大丈夫よぉ」
「そうか、あんまり無理はしてくれるなよ。姉ちゃんに何かあったら俺が坊主に殺されちまう。
それで場所なんだが、ここから後十分ぐらい奥に行った右手の壁の辺りから探してくれんか?単に俺のカンなんだが、全部を調べていくより遥かに楽だろう」
「分かったわぁ」
名残惜しそうに頬をすり寄せるとユリアーネが動き始めるので、一緒になって立ち上がり、ランタンの一つを手にした。
「一本道だろ?みんなまだ寝てるし、二人で行って来るよ。何か他の反応があれば壁に書いておけばいいんだろ?」
「分かった、すまんが頼むよ。何も無いと思うが気をつけてな。万が一何かあればその場で叫べば聞こえる筈だ」
音も灯りもない静かな坑道、二人で並んで奥へと向かう。
深部なのにも関わらずメイン通路にでもするつもりなのか横幅もそこそこあるのだ。妙なのはツルハシで掘った割には壁が凸凹しておらず綺麗にツルッとしている事。まるで魔法で通路にされたような感じ……って、土魔法で仕上げたのか。
親方の指示通り右側の壁のみを調査しながらゆっくりと進んで行く。最初の頃に比べ強めに雷魔法を使っていることでかなり奥の方まで分かるらしく、パリパリと光り輝くユリアーネを眺めつつ言われるがままに事細かく書き込みをして行く。
そうしていて思ったんだが、壁から二十メートル付近に鉱脈のような物がある感じで、この坑道に沿って伸びている。そこまで掘り進めれば相当色々な物が出るんじゃないのかとは思うが、俺達の目的は金力石のみだ。浮気はイケナイ。
「根を詰め過ぎないで。焦らなくても大丈夫だよ」
壁から手を離したタイミングで水袋を手渡し休憩を促す。そうでもしないとちっとも休もうとしないからだ。 真面目というか、働き者というか、もう少しだけ手を抜いてもらわないと見てるこっちが心配になる。
「んっ、ありがとぉ」
背後から抱き付いての膝カックン、そのまま俺が座ってしまえばユリアーネも座らざるを得ない。今編み出した技、強制休憩なり。
「ひゃぅっ」
可愛らしい悲鳴を上げたものの、すぐに俺の意図を察して複雑そうな顔を向けてくる。しかしすぐに笑顔へと切り替わると、鞄からマシュマロを取り出し俺の口に押し込み、自分の口にも入れる。
憩いのひとときをイチャイチャしながらオヤツを楽しみ、キスで締めると探索を再開した。
壁に手を当てるユリアーネが首を傾げ、同じ場所で二回目の探索を試み始めた。
こんなこと今までなかったからもしやと期待に胸を膨らませつつも邪魔しないよう静かに見守る。すると何歩か歩いては慎重に探索を繰り返し、何度目かで俺に振り向きニコリとした。
「ついに?」
額に汗を滲ませながらも満面の笑みを浮かべるユリアーネはウインクと共に右手の親指を立てる。
「ここから二十メートルの所にさっきから伸びてる鉱脈があるよねぇ、その向こう側、更に三メートルの所にある筈よぉ。結構深いけどぉ掘れるのかなぁ」
取り敢えず親方に知らせようと大声で叫んでみると声が反響してなかなかに面白い。しばらくすると何を言っているのかまでは聞き取れなかったが、返事は返ってきたので座って待つ事にした。
「どうした! 何か問題があったか?」
ユリアーネが親方にチョイチョイと目の前の壁を指差すと、親方も察したのか、みるみる顔が明るくなっていく。
「まさか、見つけたのか!? おいおい本当かよっ、姉ちゃん凄ぇな!まさか本当に見つけるとは思ってなかったぜ。 金力石なんてレア中のレアだぜ?どれだけの量か分からんがいくらになるのか楽しみだな!」
「でもぉ、結構深いんだよねぇ。壁に書いてきたけどぉ、この坑道の右側に沿って鉱脈があるみたい。それがぁここからぁ二十メートルぐらい先なんだけどぉ、掘れるの?」
「掘れるのじゃねぇよっ、掘るんだよ。流石に時間はかかるだろうが皆で交代で掘れば何日かで行けるぞ。さぁここからは坊主の出番だ!気合い入れて行けよっ!」
一人で掘れと言われなくて安心したよ。それでも二十メートルは長いらしく何日もかかるんだな。
だけど、物は見つかったんだ。後は掘るのみ!さぁやるぞぉっ!
「二人一組で掘る。まずは坊主とスクヮーレで行け。二時間で交代するから余力なんて残すんじゃねぇぞっ!
残りの奴はとりあえず、姉ちゃんが調べてくれた情報を地図に書き写す作業だ、俺について来い」
二時間で休憩出来るならばと風と火魔法も使い身体強化をする。
「やったるでぇ!とりゃぁっ!」
最初なので気合い一発、全力で振り下ろせば根本まで壁に突き刺さるツルハシ。力を込めればボロリと崩れ落ちる結構な量の岩、それを見て目を丸くするスクヮーレさんにはちょっと笑えた。
「おい兄ちゃん、昨日は手ぇ抜いてやがったな」
「違う違うっ、今日は二時間って制限があるからある程度魔力の配分が読めるだろ?それに、昨日やってみてだいぶ要領が分かったからだよ、手なんか抜いてないって」
白い目で睨まれたので慌てて両手を振り否定する。「そうか?」と訝しげな顔は変わらなかったが、それ以上何も言わず手を動かし始めた。
後ろでユリアーネがクスクス笑っていたが横目で見るだけで頭を掻いて誤魔化す。
「とりゃっ!」
「ほっ!」
「たりゃー!」
「良いぞっ、その調子だ。ガンガンいったれ!」
そこからは掘って掘って掘りまくった。二人並んでツルハシを振りまくり、二時間という短期集中コースに気合いを入れて頑張りまくる。
足の速いおっちゃんが一人、リュックに魔導具の鞄を詰め込むと掘った岩を捨てに何度も往復する。ほんとうは外まで持って行きたいらしいが、こういう時のために “ゴミ置き場” が作ってあるらしく、そこに一時的に貯めておくのだそうだ。
七人で協力しどんどん掘り進む。土魔法は未熟でも身体強化の威力はかなり有用なようで、俺の頑張りでペースが速いと褒められた。
自分の役目を終えたユリアーネは俺達の食事などの世話の合間に、さらに奥の調査なんかをして親方達を喜ばせていた。
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