31.無礼な大人は斬って捨てる!

「あ、いたいた。ただいま戻りまし……た?」


 朝食はココと教えられていた部屋に入ると、ロンさんと共に二人の男が居た。何やら険悪な雰囲気にたじろぐが、そんなの関係ないとばかりに俺の腕にくっ付いていたフラウが “ご飯しか目に入りません!” とばかりに男達の間をすり抜け勝手に席に座ると片っ端から食べ始める。


「フラウ、さん?」


 俺が声をかけても忙しいと目で訴えるだけで返事も無しにモリモリと食べ進める。まぁいいかと俺も席に着こうとしたところで目の前に来客が居るのを思い出した。


「えっと、立ち話もなんですから一緒に食事でもどうですか?」


『何言い出すの!?』という視線が突き刺さったのは言うまでもなかったが、朝から喧嘩は駄目じゃね?話せば分かるし、何よりお腹が空いた。

 席に着こうとするとロンさんが話しかけるので聞きながら座ったが、それよりもテーブルに並べられた料理が美味しそうで気になる。


「レイ君、いえ、ハーキース卿。貴方も人が悪い。何故最初に貴族だと教えて下さらなかったのですか?ドレアミー伯爵からお聞きしましたが王女殿下とご婚約されているとか、それでしたら貴方も貴族、ゆくゆくは王族ではありませんか。とんだご無礼をしてしまい申し訳ありませんでした」


「ロンさん、爵位を貰ったばかりの俺が貴族を語るのも可笑しな感じがするのですけど、貴族という身分を隠したい人もいるのではないでしょうか?わざわざ身分を誇示しなかったということはそういう事だと商人の貴方なら分かると思いますが?」


 そういう話ね、それでサラの顔がピリピリしてるのか……俺の所為かと思ってヒヤヒヤしたわ。


「とりあえず座ったら?」と促すと二度目なので素直に応じて席に着いたものの、彼らがいるとせっかくの楽しい朝食の席が台無しだな。

 領主っぽい貴族の男の顔が冴えないのは既にサラに撃沈された後なのかな?


「ハーキース卿、話は変わりますが盗賊団ブラックパンサーの討伐を確認しました。それで討伐の報酬なのですが金貨三千枚をご用意して来ております。お納めください」


 溜息しか出ないな。この人達と話してるとサラの不機嫌な顔も頷ける。配慮が足りなさすぎるのだ。

 手にしたばかりのフォークをワザと音を立てて置くとウィルバーさんに向き合うことにした。本当は昨日の失礼な態度を取ったことを謝ろうと思ってたんだけど、そんな気が失せたよ。


「ウィルバーさん、ロンさんの娘が盗賊団に攫われた被害者だって昨日言いましたよね?それなのに本人達を目の前にしてその話を持ち出すのですか?まだたった数日しか経っておらず心に傷を負っているであろう人にわざわざその話を聞かせる必要がどこにあります?

 それに報酬の話も昨日しましたよね?その金は要りません」


「いや、あの……配慮が足りなかった事は謝ります。しかし報酬の方はギルドの決まりで……」


「それなら受け取りましょう。その代わり、俺からこの町のギルドマスターである貴方に直接依頼をします。

 俺達がリーディネにいる間、俺達の身分を秘匿していただきたい。それはそこにいる貴族の方も含めてだ。そうすれば俺達は気兼ねなくこの町を楽しむことが出来る。金貨千枚ほどお渡しすれば引き受けて頂けますか?


 そして残りの二千枚、これは今回の盗賊団の一番の被害者であるこの町リーディネと山向こうの町ティナーラにある各孤児院に寄付したい。

 それぞれで収容している人数に合わせて金額を均等割して渡す、この計算と手配に貴方の所の可愛らしい受付嬢を貸して頂けないだろうか?急ぐ必要などないので昼間の暇な時間にやってもらえれば負担にはならないはずだし、もちろんその金の中から彼女自身の報酬も貰ってくれればいい。あの娘にとっても損はないはずだ」


「わ、わかりました……賜ります」


 困惑しながらもスゴスゴと金の入った革袋しまうウィルバーさん。噛まずに言えた、俺、えらい?

 秘匿については了解してもらえたってことだよな?まぁ、受けるしか無い状況なんだろうけど、それなりに報酬もらえるんだからちゃんとやってもらおう。


 さて、あと一つだな。


「それでそちらの貴族様はどういったご用件でした?」


「あ、いや私は……」


 どれだけサラに攻められればそんなに弱気になるの?仮にも良い年こいた貴族の男子がそんなことで大丈夫なのか?


「その方とはお話がついてます。レイが気にすることではありませんよ。話が終わったのなら部外者は退席して頂けますか?」


 不機嫌そうなサラの物言いが効いたのか、渋々と席を立つ珍客達。なんだか気の毒にも思えるが気が利かないにも程があるぞ?王女と分かっているなら押しかけるのではなく、許可をとって面会するべきだとは冒険者である俺でも考えつく。


 ランとリンが顔を見合わせていたので「部外者じゃないだろ?」と一言釘を刺すとサラの口から盛大な溜息が漏れ出る──おい、王女様!まぁ気持ちは分かるし身内だけになったからというのもあるのだろうが気を抜き過ぎじゃないのか?それだけ心を許してくれているのかもしれないけど、未だに彼女の心は決まってないような気がする……実際のところどうなんだろうな。




「何処で何をしていたかは聞きませんけど、今日は何をするのですか?」


 溜まった苛々をぶつけるかのようにジト目を向けてくるサラは少々怖かった。多少なりとも原因が自分にあるのは自覚しているが、それでも全てが俺のせいだというわけではないので勘弁してもらいたい。


「何も希望が無いのなら魔物狩りなんてどうだ?ストレス発散には身体を動かすのが一番じゃないかなと思うし、海の魔物って見てみたいんだよね」


「それなら家の船を用意しますね。昨日寄港したはずなので今日は丁度空いているはずです。魔物退治だといえば喜んで協力してくれるでしょう」

「私達も行っていいんだよね?こう見えても冒険者なんだよ?少しは役に立つからっ!」


 そうか海の魔物を狩るには船が要るのか。当たり前の事だけど全く頭に無かったよ。それよりも双子は冒険者?そんなことしてるから盗賊団なんかに捕まるんだろう……アレに懲りてもう辞めて欲しいものだな。


「フラウはどうするんだ?一緒に行くか?」


 ほっぺが膨らむほどこれ見よがしに口に物を詰め込み モグモグ としながらも俺に向けてコクコク頷き、一緒に行く事をアピールしてくる。

 女性らしい淑やかさとは一体……と小一時間ほど問いただしたくもなるが、コイツはそれすら噛み砕き腹の足しにしてしまう気がした。


「準備してロビー集合な」と解散し、まだ食べるというフラウは置き去りに部屋へと戻った。



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