39.可哀想な末路
「ギシャーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「ね、ねぇ……怒ってない?」
「あぁ、怒ってるな」
「怒ってますねぇ」
「そりゃ怒るでしょ?」
「ですよねぇ……」
二つのハサミを振り上げ最初に見せた威嚇のポーズで雄叫びを上げるモラードゾンガル。ハサミを開閉させ ガシャガシャ と音を立てて牽制してくるが、実力が分かった今ではそれも意味を成さない。
「リリィ、コイツ相手に一人で戦えるか?」
「倒し方教えといてそれは無いわよね?アンタ、もしかして私をバカにしてるの?」
ムッ とした顔のリリィの魔力が膨らめば、宙を舞う透明な剣が二つ現れ両のハサミを叩く。
間髪入れずにデルゥシュヴェルトが二本追加され、俺が切断したとは対になる前足の第二関節を上下に挟み込むように交差すると、最も簡単に斬り離してみせた。
「ギャシャャャャャッ!」
一瞬 ビクッ として一歩後退したモラードゾンガルだったが、先程のようにしゃがみ込む事は無く、再び怒りを露わにハサミを大きく振り上げた。
「分かった分かった、悪かったよ」
自分が倒せる事を証明して見せたリリィに謝ると両腕を組みそっぽを向いてしまう。あれは後でフォローが必要だなと心にメモを残し、仮にも戦闘中である今は放置して置くことにした。
「じゃあ、モニカならどうやって倒す?」
「私?」と自分を指差して首を傾げてるので「うん、そう」と頷くと、雪も頷いてシュレーゼに手を添えた。青い光の粒子となって吸い込まれたのを確認するとモニカがそれを抜き放つ。
「お兄ちゃん、私だって魔法の練習くらいしてるのよ?」
青く染まったシュレーゼを掲げると、その刀身を光が包み込む。これはまさか……光の魔力!?
「よっと」
軽い掛け声と共に解き放たれたモニカの膨大な魔力、次の瞬間には信じられないものを目の当たりにする事となった。
全長で七メートルはある大きなモラードゾンガルをすっぽり覆うように現れたのは縦横高さが十五メートル以上の水の立方体。まるで透明なガラスで作られた巨大な水槽の中に閉じ込められたかのようだ。
砂の中で呼吸の出来るモラードゾンガルでも、水の中となるとそうはいかないらしい。息が出来ずに慌てふためいて暴れ出したが本当に丈夫なガラスでもあるのかと思えるほどに水の壁は強く、巨大な二つのハサミで何度叩かれようともビクともしない。
「ひぇぇぇ……モニカさん、怖いです」
「モ、モニカ……その辺にしてあげませんか?」
水の中で踠き苦しむ様子が可哀想に思えた頃、大量にあった水が突然霧散し水槽が消えて無くなる。
水責めから解放されたモラードゾンガルは最大の武器である鋏を力なく地面に付け、ぐったりと伏してしまった。
再びシュレーゼが光を放つと、今度は二メートル程の糸のようなものが空中に フワリ と浮かび上がる。アレはなんぞ?と見ていれば、地面に投げ出されたまま動かない大きなハサミの上に スーッ と降りていく。
「ギギャャャャャャーーッ!」
水の糸がハサミに触れると、朔羅の全力打ちをも跳ね返した硬い甲羅をゆっくりとした動きながらもさしたる抵抗もなしに切り裂いてしまう。
ぐったりとしていたモラードゾンガルだったが突然やってきた痛みに慌ててハサミを引っ込めようとする。しかしその時既に半分近くまで入り込んでいた水の糸に横方向へ切り裂かれる形となり、袂を分けたハサミの四分の一部分が鈍い音を立てて砂の上へと転がる。
それを知ってか知らずか、何とか後退はしたが『もうダメ』とばかりに激しく身を震わせて痛みに耐えるように小さく丸くなってしまった。
「まだやる?」
にこやかに微笑むモニカに『もう十分』と首を振ると、足場の悪い砂の上なのに ダッ と駆け寄り飛び付いて来たので、慌てて朔羅と白結氣を地面に刺すと両手で抱き留めた。
「おい、モニカ。まだ戦……」
「お兄ちゃん!私、凄いでしょ!?ご褒美はっ?ごほうびーっ!」
お姫様抱っこされて嬉しそうにすると人の話も聞かずに言いたい事を言い、挙げ句の果てに首に手を回して問答無用でキスをしてきた。ご褒美の強奪……しかも、舌まで入れてくる始末。まあ、これくらいで喜んでもらえるならいいんだけど、それにしても凄まじい魔法だったな。
右手に握られているシュレーゼが首元に来ていてちょっと怖かったがモニカは俺の嫁、害を成す事などあり得ないだろう。
「サラ、君ならどう倒す?」
モニカが落ち着いた所で次の番だ。
ん〜っと人差し指を顎に当てて考えているサラ。そんな姿さえサマになるなぁと見惚れていると、両頬を パシッ と掴まれまたしても唇が奪われる。
「あぁっ!」
「モニカ、ズルい……」
「モニカさん、ズルです……」
「さあ、サラっ!あんなサソリなんてやっつけちゃいなさいっ!ご褒美が貴女を待ってるわよっ」
上機嫌に足を バタバタ させ、瀕死のモラードゾンガルをシュレーゼで指すモニカ。サラも考えが纏まったのか ヨシッ!と拳を握りしめると、魔力が一気に高まって行く。
ゴォォォォォォォオォオォォッッッ
力無く蹲るモラードゾンガルを中心に半径十メートルの綺麗な円を描いたオレンジ色の炎が同じく十メートルほどの高さまで吹き上がる。
「熱っ!」
サラが作った炎のサークルは熱量が凄く、そこそこ離れた場所にいるにも関わらず熱気がココまで伝わってくる。状況が見えるようにと向こうが透ける透明な氷の壁を作れば冷んやりとした空気が漂い、一面の砂漠に加えて目の前で燃え盛る炎も余所に気持ちが良いとさえ感じる。
炎のサークルはモニカの水の壁と同じように、ただ炎が吹き出しているわけではないようで、よく見ると竜巻のように高速回転している。
「ギャッ!ギギャャャッギャーーッ!」
離れた場所でもこの熱さだ、あんなものの内に居たら堪ったものではないだろう。
身の危険を感じて暴れ出したモラードゾンガルは炎の中から出ようとするが、炎の壁に触れる度に弾かれてしまい思い叶わず、右往左往するもどうする事も出来ずにただ黙って焼かれるしかなかった。
だがやはり魔物といえども死というものは恐ろしかったのか、最後の力で派手に暴れ始めたとき パチンッ と指を鳴らす音が聞こえた。
するとどうだろう、半径が十メートルもあったサークルが徐々に小さくなって行くのが見て取れる。そうなると益々熱くなる内の温度、既に抵抗出来るだけの体力も尽きたのか炎の向こうで小さく丸くなったままのモラードゾンガル。炎の壁が迫り打つかるようになると、関節の弱い部分から千切れて宙を舞い始める。
「あれ?おかしいわね。これ以上細くならないわ」
直径で恐らく三メートルまで縮まった。金属のように硬いものが打つかり合う音が響き、大きなサソリがバラバラになったことが容易に想像出来る。十メートル上のサークルの天井からは シュゴーーッ と音を立てて白い炎が吹き上がり、内の温度はいったいどれほどのものなのだろうと冷や汗が流れて行く。
恐らく一番大きなボディ部分がバラバラにならずに引っ掛かっているのだろうが、これ以上やっても意味が無いだろうと思う。
「サラ、もういいんじゃないか?」
「ん?うーん……それもそうね」
再び指が鳴らされると渦巻いていた炎のサークルは地面に接地している部分から上へと消えて行き、後には クルクル と回るモラードゾンガルの破片が残ったのだが、それも惰性が無くなると乾いた音を立てて地面に散らばった。
「モンスターじゃなかったんですねぇ」
「あぁ〜言われて見ればそうね。殻も残ったままだけど魔石は見当たらないわね」
エレナとティナの言う通りモンスターなら素材など残さず全てが光となって消えて行くはず、つまりモンスターでもなければダンジョンが作り出した魔物でもなく本物の魔物だったというわけだな。あの硬い殻は何かに使えるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます