38.魔導兵器!?

【この先ボス部屋有り】


 方向を示す矢印と共に書かれていたのは如何にも親切な道案内。昨日見た看板とはオアシスを挟んで真逆にあったこの看板、ダンジョンの主の性格からして嘘とも罠とも思えないが、真偽の程は行ってみないと分からない。


「随分親切になってきたな。なんだかちゃんと下まで来いよと言われているようだぞ?」


 アルもそう思うのなら、きっとそうなのだろう。もともと最下層まで行くつもりだったし、それはいいのだが、だったらこんなだだっ広いダンジョンなんて面倒くさい事は止めにして欲しいものだ。



 大した魔物も出て来る事も無く、魔導車で小一時間も進むと、また例によって木の看板が現れた。



【安全地帯

注)この先ボスが出現します。準備を整えてから臨みましょう】



 看板以外何もない砂の上に、分かりやすいように太めのロープで四角く囲ってある。芝生が敷かれ、木陰まで用意された五十メートル四方の安全地帯の先にはまたまた看板が有り【ボス部屋】と書かれていた。


「さて、何が出て来るのか分からないけど、誰がやる?」


 誰も手を挙げる者がおらず率先してやろうという意思は無いようだ。まぁ、砂の上ということもあり足場がよろしくないのでティナとアルには少し荷が重いかもしれないが、空を飛べるエレナにはちょうど良いのかもしれないな。


 サラの爆炎魔法なら恐らくまだまだ余裕で倒せるだろうが、後衛職なので一人で戦うには不向き。

 モニカとリリィはどうかというと、一人で余裕勝ちしそうなのでそれでは修練とは言えなくなってしまう。


 取り敢えずどんな相手なのか見定める為に俺が矢面に立つことにして、抱っこしていた雪をモニカに預けた。


「お兄ちゃんがやるの?」

「あぁ、うん。様子見だけな」

「そっか、気を付けてね」


 微笑むモニカにキスすると雪が羨ましげに見ていたので、オデコにキスをしてあげると ニコッ と笑顔を見せてくれる。それだけでお父さんは元気になれるのだから子供というのは素晴らしいパワーを秘めているものだと実感させられた。

 まぁ、血の繋がった親子ではありませんが……。


「トトさま、頑張って!」

「おうっ」



 右手には朔羅さくら、左手に白結氣しらゆきを握り、準備万端で一歩踏み込めば安全地帯と同じようにロープで囲われた百メートル四方のボス部屋と称される場所の中心付近の砂が蠢き出す。



ゴゴゴゴゴゴゴッ



 砂の地面に幾重もの波紋が広がると、人の身長程もある大きな紫色のハサミが二本生えて来た。もしもあんなものに挟まれでもしたら人間の胴体など簡単に真っ二つになるだろう。

 嫌な想像をしていればそれに見合うだけの大きな身体が大量の砂を巻き上げながら姿を現す。


 顔と思しきモノがある前面は横幅が三メートルもある。その真ん中にある獲物を捕食する為の鋭い牙を持った口のすぐ下の辺りから細い腕が生え、更にその先には最初に現れた大きなハサミが ゴンッゴンッ と重たい音を立てながら開閉を繰り返してこちらを威嚇している。

 細い足で水平に支えられる長細い逆三角形の体は七メートルもあり、最後尾には五つの関節に別れた太くて長い尻尾が生えている。その先端には細く鋭い針が二本も付いており、獲物を求めて左右に動いているのが見えた。



「シャーーーーーーーーーーッ!!」



「ひぇぇぇっ!」

「こっ、怖いです……」

「え!?怖いより、キモい……」


 両のハサミを目一杯広げて振り上げ、上体を逸らすかのように前足を伸ばして自分を大きく見せると気持ちの悪い鳴き声を出し『かかって来い』と言っているように思えた。


「こっ、これは《モラードゾンガル》なんか!?砂漠の主と言われとる伝説級のサソリ型モンスター!兄さんっ、えらい危ないさかい逃げた方がええんちゃうか!?」


 へ〜、そんな事言われるとヤル気になっちゃうよ?心配そうに見つめるミカエラにVサインを送ると『やっぱりか』みたいな顔して カクッ と項垂れた。失礼な奴だな……。


 改めて向き直ると早く来いとばかりに、丸々とした大きなハサミで ジャキンッジャキンッ と音を立ててくる。


──お望みとあらばコッチから行きましょうか


 ピカピカという言葉が似合う光を反射する濃い紫色のメタリックボディ、こんな色のエアロライダーもカッコ良さそうだなと思う。ハサミの重厚な音からも硬そうな予感がするが俺の朔羅ならばと自慢のハサミに向けて強めに当てに行ってみる。



ギィィィィンッ!



 剣と打ち合ったような感触が伝わり朔羅が弾かれた事には驚いた。コイツ、本当に生き物か?実は魔導兵器でしたとかオチはないだろうな?


 俺の一太刀のお返しにと反対のハサミが振り下ろされた。まともに受けては物量で潰されかねないと受け流したにもかかわらず、態勢を崩されるほどの重さがのしかかってくる。


「くぅぅっ……やるなぁ!」


 それでもすぐにその場を飛び退けば高くも重い音が耳に着く。俺を握り潰そうと迫った大きなハサミがすぐ真横で閉じられるのを見ながら更に横へと移動して行くと、それを追って巨大なハサミが何度も繰り出される。

 デカイ図体の割には素早いハサミ捌きと、四対八本の細長い足で器用に旋回して俺を視界から逃さない。


「このやろうっ!」


 試しにと踏み込んで一番前の弱そうな細い足を狙ってみたが、ハサミと同じく硬い殻に包まれている為に防御は完璧らしく呆気なく弾き返されてしまった。

 一太刀プレゼントを贈るとすぐにお返しが来る律儀な奴。飛び退く俺を追って身軽にジャンプすると、その巨体で持って押し潰そうと飛びかかって来る。


 大量の砂埃を上げて地面に落ちたモラードゾンガル。流石に巨体に見合うだけの重量では間髪入れずに動くこと叶わず、その隙にと背中に飛び乗り、頭から続く背甲板に朔羅を突き立てるもののやはり硬い!

 弾かれた所に上から何かが来る気配を感じて転がり避けると ブンッ! と風を切る音がして、一本の尻尾の先端に生える二本の毒針が襲いかかって来た。


──あっぶね!あんなのに刺されたら毒云々どころじゃなくて即死だぞ……


 ハサミより遥かに素早く動く尻尾は、一旦戻るとすぐに狙いを修正して槍のように襲いかかる。一本しかない分ハサミより捌くのは楽かもしれないが、恐らく触れただけでもヤバいだろう。

 尻尾が突き出される度に、針の先から垂れ出る毒液と思しき緑色の液体が飛び散り、背甲板に落ちては ジュゥゥッ とヤバそうな音を立てて体に悪そうな色の煙を上げている。流石に自分の毒液でやられるような間抜けではないらしく、毒液が蒸発して消え去った後はもちろん無傷の状態だった。


 モラードゾンガルが立ち上がったのか、背中が揺れ出すと尻尾の攻撃も避けにくくなる。


「うぉっ、ちょっ!あぶねぇって!」


 バランスを崩した所に毒針が迫り、危うく刺されそうになる。白結氣で弾きつつ、その反動で体勢を変えると拳一つ分の隙間で回避した。


 背中は不利だと飛び降りざまに目に入った片方のハサミを目掛けて朔羅を振りかぶると火の身体強化を強めて筋力を強化、落下の勢いと合わせて全力で振り下ろした。

 ハサミの可動部あたりの膨らんだ部分、人間の手で言うところの親指と人差し指の間に直撃すると、流石に支えきれなかったらしく地面へと激突するがそれでもハサミを斬ることは出来ていない。大きく凹みはしたものの開閉にすら支障が無いようで、本当に金属製ではないかとすら思えてきた。


 バランスを崩して動きが止まった隙に再び前足を狙うが、今度は固そうな部分ではなく、細い足の更に細い部分である関節に白結氣を叩き込む。



「ギャシャャャャャッ!」



 人間の指と同じく三つの関節から成る足の第二関節をぶった斬ると、恐らく始めて感じるだろう痛みに大暴れして勢いよく後退って行くので、これ幸いと試しに魔法を叩き込んでみる。

 しかし火球は焦げ跡すら付かず、朔羅の斬撃でも無傷だったので予測はしていたが風の刃など簡単に弾かれ当然のように傷など付かない。攻撃の威力では遥かに劣る水球や土球でも同じ結果だった。


 座り込んで失った足を器用にハサミで突つき、状態を確かめている様子のモラードゾンガル。

 だが、すぐに落ち着きを取り戻したようで先程のように立ち上がると、口の少し横にある二つの細長く赤い目が光りを放ち敵意を全開にした。



「さぁ、第二ラウンドと行こうか」



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