18.もう一つの儀式
翌日、結婚式で暖かな人の心に触れた俺達は朝から晩までせっせと依頼をこなした。 ちょっと疲れはしたが町の平和の為に少ない時間の中で出来ることを頑張ってみた。
あまり贅沢ばかりでは生活がおかしくなりそうなので今日はギルドの食堂で夕食を食べる。ここは安くて美味しく、体を使って働く冒険者の為に量も多目だ。こんな食堂、他にはないよ?
並んで食べていると、肩を叩き二人の間に顔を割り込ませてくる無粋な輩が現れた。当然のように イラッ と来たので殴り飛ばしてやろうかと思い横を向いた途端……その顔を見て目を丸くした。
「ミカ兄!!」
片目を瞑り、相変わらず不敵な笑いを浮かべたミカ兄に驚いていると、目の前にあった唐揚げが一人でに逃げて行く……そんなタイミングで人の夕飯を盗る奴がいる?
我が目を疑い慌てて顔を向ければ、銀髪の男がいつの間にか隣に座り膨らんだ口を動かしているではないか!
「ギンジさんも!久しぶりじゃんっ、今までどこに行ってたのさ。全然連絡も無いし、心配したんだぜ?」
軽い感じで左手を挙げ、右手で俺のエールを奪うと一息で飲み干した……ちょっとっ、なにしてんねん! 腹が減ってるのか料理にばかりに目が行って俺とは目も合わせず、もくもくと料理を貪り食っている……久しぶりなのに酷くない?
「おめぇも元気そうだな!アルとリリィはどうした、元気してるか?それにしてもいつぶりだ?大きくなりやがって!ちったぁ強くなったか?
親父!唐揚げ四つとエールも四つくれよっ!親父も久しぶりだなっ。まだくたばってなかったか!あははははっ」
ギンジさんは素っ気ないが、変わらないミカ兄の様子に思わず俺の顔が綻ぶ。
「ちょっとぉギンジ?挨拶くらい無いのぉ?ねぇ、酷くない?」
「おいっ、お前こりゃなんだ。一体いつの間こんなもん手に入れた?」
ご立腹の様子で頬杖を突き、白い目で睨んでいたユリアーネ手を突然ミカ兄が掴む。そこに光るのは昨日着けたばかりの結婚指輪、真新しい指輪を見つめて目を丸くするミカ兄を見てユリアーネの顔が満面の笑みで満たされる。
「いいでしょぉ?私の宝物よぉ」
意味ありげに視線を送るユリアーネに気付き、まさか!とミカ兄が俺を見る。少し照れ臭く感じながらも頷き同意を示すと、左手に嵌るお揃いの指輪を見せつけてやった。
見開かれたミカ兄の目が更に一回り大きくなる。初めてみる驚愕の顔に気分が良くなり、ここぞとばかりにトドメを刺しに行く。
「昨日、教会で式を挙げたんだ」
重さに負けるかのように持っていたジョッキが高度を下げて机へと着地した。唐揚げを口一杯に頬張るギンジさんもこの時ばかりは時を止め、ミカ兄と同じように目を丸くして俺の左手に釘付けになる。
「まじでか……そうか、お前がな。ふははっ、そうかそうか、いや、いいじゃないか。やるなぁレイ」
氷像のように固まっていたミカ兄だったが、数秒後には微笑むような優しい顔になった。
しかし穏やかな空気は一瞬で幕を閉じ、突然食事が並ぶ机の上に登ったかと思いきやギルド中に響く大声で怒鳴り始める。
「野郎どもっ、よく聞け!!お前達のアイドルだったユリアーネはこの男、レイシュア・ハーキースのモノとなったらしいぞっ!文句のある奴はいないか!?いるなら、今ここで拳を振り上げろっ!!!!」
「なんだと!」
「嘘だろ?俺のユリアーネちゃんが……」
「レイシュアって誰だよ!」
「そんな野郎ぶっ潰して俺が奪ってやるぜ!!」
「男なら言いたいことは拳で語れ!文句のある奴は表に出ろっ!ユリアーネの夫、レイシュアは逃げも隠れもしねぇっ!」
得意げな顔で男達を煽っている……意味分かんねぇ!なぜ俺が喧嘩せねばならぬ!?
ギンジさんに首根っこを掴まれ引きずられながら外へと連れ出される俺、息巻いた男達がぞろぞろと付いてくるが……これって、中にいた奴全部じゃね?
陽も落ち、間も無く真っ暗になるだろう夕刻のギルド前。面白そうな見せ物だと、家路に着こうと通りがかる人達が足を止めれば立ち所に人垣が出来上がった。
溜息混じりに立つ俺とは少し距離を空けて対峙するのは、イライラした顔で指を鳴らしたり、首を鳴らしたりして威嚇してくる何十人の男達。皆一様に怒りを顔に貼り付け、側から見ればヤクザに絡まれる哀れな青年の構図に見えることだろう。
「てめぇ、覚悟は出来てるんだろうな!?」
これは一体なんなのさ!
俺はユリアーネと楽しく飯が食いたい、飲みたい。久しぶりに会ったミカ兄やギンジさんとも喋りたい。早く帰って豪華な風呂に入りたい、イチャイチャしたい……人の時間を無駄に使う輩共に不満が積もり始め、奴等のイライラが感染ったかのように段々と俺もイライラしてきた。
「この野郎ぉぉっ!」
「死ねや、小僧ぉ!」
そんな折に飛びかかって来た数人、手を出されたらやり返していいルールだったよな、ミカ兄?
何のひねりもなく、ただ走り寄って拳を振り上げる。
目を瞑ってても避けられる攻撃を屈んで躱すと、立ち上がりざまに腹を殴りつけてやった。
「ゴフッ」
似たような感じで飛び込んでくる二人目、避けるのも面倒だと拳を見極め軌道から外れるとクロスカウンターの要領で顔面を殴りつける。
懲りずに飛びかかる三人目の腹に蹴りを入れて吹き飛ばせば、その後ろから来ていた別の男とぶち当たり二人まとめてのダウン。
ヒューーーッ!
口笛が聞こえて顔を向ければギンジさんが笑いながら親指を立てていた。
「ミカルの弟君、やるじゃない」
ミカ兄の肩に手を掛け、もたれ掛かるように立つのは、ミカ兄と同じ燃えるような赤い髪の美女──誰だあれ?
細身で美形、まるでミカ兄の姉か妹みたいだが、実の弟である俺にはそんなモノは居ないと知ってる。しかし、そう思ってしまうほどに二人の雰囲気は似ていた。
ギンジさんの横にも超がつく程の銀髪美人が立っている……二人ともミカ兄達の仲間なのか?
──まぁ、後でゆっくり聞けばいい。
少し身体を動かしたらなんか気分が乗ってきた。しかもあんな簡単にやられてくれるなんて、ストレス解消には丁度いい。
さっさと片付けてみんなで飯の続きをしよう。
「ほらほらどぉした?俺に言いたいことがあるんだろ?ユリアーネが誰の女なのか解らせてやるよ、さっさとまとめてかかってこいっ!」
ものの数秒で四人が倒され呆気に取られていた男達、群れる男衆に向かい吐き捨ててやれば見事に挑発に乗り、集団なら勝てると踏んだのか、思い思いに叫びながら一斉に走り出した。
俺は左の掌に右拳を叩きつけて音を立てると自分の中のスイッチを入れた──よし、覚悟しろよ馬鹿共めっ。
チラリと視線を向ければ、これ見よがしに大きな溜息を吐いているユリアーネの姿が目に入ったが、これは売られた喧嘩を買っただけ……俺は何も悪くない。
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