37.初王都からの初登城!?

 時刻は夕刻前、馬車から見える王都は人で溢れかえっていた。


 外城壁に口を開ける城門を抜ければ横幅二十メートルくらいありそうなだだっ広いメインストリート。遥か向こうまで真っ直ぐに伸びる通りの彼方には王城を取り囲む王城壁が夕陽を浴びて赤く染まる。

 このメインストリートは王城を中心とし東西南北、十字に走っているらしく、俺達は王都の東に位置するアングヒルからやって来たので東門から入ったことになる。


 メインストリート沿いは赤茶色を基本とした四階建ての建物で統一され、町が計画的に作られているのがそれだけで分かる。


 軒を連ねる広くて素敵な店々、大きく開口された店先は透明度の高い高価なガラスがふんだんに使われ、店の中に置かれた商品が外から良く見える画期的な作り。


 ガラス越しに見える商品はどれも目を惹くものばかりで、服、武器、持ち帰り用のお菓子類、靴や、アクセサリー等、次々と移り変わる見たことのない品の数々に足を留めてじっくり見たいと思わされてしまう。

 窓から身を乗り出しそうな勢いの女子三人、お店解説をするティナの「後で行こうね」のセリフにリリィもエレナもユリ姉でさえも、女神にでも祈るかの如く両手を組んで目を キラッキラ と輝かせた。


 暫く進むと庶民的なお店から高級感溢れる落ち着いた作りの店へと変わって来た。この辺から丘になっているらしく少し向こうには大きな屋敷がいくつも見える。王城を取り囲む王城壁のすぐ間近、カミーノ家も例に漏れず一軒の別邸があるらしくで王都に滞在時にはそこで生活をするのだそうだ。



 門番さんに言われた通り馬車は真っ直ぐ王城壁にある城門へと向かい、門の前で停車すると、近付いて来た門番の騎士とクロエさんとが一言二言会話をしている。

 するとすぐに頑丈そうな門がひとりでに開き、馬車は何事もなかったかのように城内へと進んで行く。


「検問とかしないんですね」


 素朴な疑問をぶつければクスリと笑うランドーアさん。


「我々貴族には特別な身分証明書が在って、それを見せるだけで中に入れるんだよ。身分のある者達の乗る馬車を開けて中を確かめるのは失礼に値するからな、そうした特別な方法が取られているんだよ」


「それは……大丈夫なんですか?おかしな輩が隠れていないとも限らないでしょう?」


「貴族が賊を連れ込むということも考えられるがね、それは信用問題だよ。一度無くなった信用はまず戻らないからね、そんなことをする貴族はいないだろう。

 後は貴族を脅してってパターンだが、城内には近衛という兵士の中でも特に優秀な者達が目を光らせている。馬車に隠れられる程度の数など何の問題もなく立ち所に捕縛できるさ」


 オークション会場で出会ったサラ王女と一緒にいたあの男、アレもきっと近衛兵なんだろうな。あのレベルの兵士がわんさか居るとしたら、そりゃぁ賊もたまったもんじゃない。王城の守りは鉄壁って事だな。




 馬車から降りるとそこは、物語にでも迷い込んだかのようなお城の入り口。


 何台もの馬車の横付けを想定した広いロータリーの真ん中には直径二十メートルの巨大なプールがあり、その中心の台座では白い石で出来た美しい人魚の像が肩に担いだ水瓶から多量の水を噴出させている。


「うわぁぉっ、すっご〜い!」


 屋根を支える真っ白な六本の柱、その一本にしてみても細かい彫刻が施され、魅入ってしまうに十分な存在感を示している。まるで美術館の入り口、まだ中にも入ってないのにあまりの素晴らしき景色に立ち尽くしてしまった。


「ハハハッ、凄いだろう?中もこの調子だが、君達は元に戻ってちゃんとついて来てくれよ?」


 扉を抜ければ広々としたエントランスホール、白を基調とした綺麗な壁に囲まれた空間内には要所要所に外と同じく細かな彫刻の施された柱が立ち並んでいた。

 五メートルほど上にある天井には金貨にも描かれている国の紋章が立体的に再現されており、今にも動き出しそうなくらい躍動感のある二匹の龍の彫刻が入り口の扉を潜る者達を見下ろしている。


 床は鏡のように ピカピカ に磨かれた薄緑色の石、その上に敷かれた赤い絨毯がずっと奥まで続いている。


「ようそこおいでくださいましたカミーノ伯爵夫妻、並びに冒険者ヴァルトファータの方々。ご到着の連絡を受け陛下がお待ちになっております、どうぞこちらへ」


 なんで俺達が?と疑問に思ったが、扉のすぐ脇でお出迎えしてくれた案内の騎士さんが先頭に立ち、それに続いてカミーノ夫妻が歩き出したのでティナに促されて慌てて付いて行く。


 五メートルほどの広い廊下を黙々と歩いて行けば、廊下の端々に飾られる高価そうな装飾品の数々が目に入ってくる。それは絵画だったり、壺だったりと貴族の館にもありそうな物だったのだが、実は人が入っているんじゃないかと思うような立派な騎士鎧が一定間隔で並んでいて妙な威圧感を感じてしまった。


 田舎者がバレないようにと横目で キョロキョロ しながら二人ずつ一列に並んで騎士さんの後について歩くこと五分。大きな、そして一際豪華な赤い扉の前に着いた。



「カミーノ伯爵夫妻、並びに冒険者パーティ・ヴァルトファータのご到着です!」



 扉の前で立ち止まった騎士さんが大きな声で告げると、中から復唱する声が小さく聞こえる。すると扉が開かれ騎士さんが脇に退くと、勝手知ったるなんとやらのようにランドーアさんがクレマリーさんの手を取りゆったりと扉の先へと進んで行く。

 ティナも俺に微笑み手を出して来たのでランドーアさんの真似をして手を取ると ドキドキ しながらも意を決して扉を潜った。




 そこは謁見の間と呼ばれる大広間、軽く三百人は入れるのではないかというただっ広い場所。


「獣人など連れて無礼ではないかっ」

「あの白い兎の獣人、先日のオークションで見たぞ」

「こんな若者がか……凄いな」

「あらあの子、なかなかハンサムじゃない?」

「フンッ、たまたま運が良かっただけだろうが」


 場を縦断する赤い絨毯を挟み、両脇に別れたおそらくこの国の重鎮と言われる身分の高い四十人ぐらいの人達が高価たかそうな服に身を包み俺達をジロジロと見ている。

 見せ物小屋にでも放り込まれた気分、場違いの俺達への誹謗中傷だけならまだしも貴族であるカミーノ夫妻の悪口までもが聞こえて来る。しかし意に介した様子もなく堂々たる足取りで突き進むランドーアさん、その頼もしき背中を追って歩いて行く。


 真正面にある短い階段、それを登った一段上の場所には背もたれの高い派手な椅子。赤と金で造られた絢爛豪華な玉座に座わり、威厳のあるキリリとした表情ながらも優しい眼差しを向けて来るのはオークション会場で声をかけてきた国王陛下だ。

 その一列後ろには、王座ほどではないにしろ、それに近いくらい豪華な椅子が四つ並んでいる。そこに座る二人の女性のうち一番右端の椅子に座る銀髪の娘はオークション会場で会ったあのサラ王女だった。


 一つ空けて座るもう一人の女性は王女様と言うには少し歳が上な気がする。

 強いウェーブのかかった艶々の茶髪を頭の後ろで纏めているので細い首が更に細く見える。首の横から白い胸元へと垂れ下がる髪が自然とソコに視線を促すので、流石に『マズイ』と感じて意識して見ないようにする。

 えらく若いように見えるが、もしかしたら王妃様なのだろうか?雪のように白い肌、端正な顔立ち、細い切れ長の目と キリッ とした表情も相まって、見た目的には厳しそうな美人さんといった印象。


 王族三人の両脇を固めるように案内してくれた騎士とは少し違う鎧を着た男が六人立っている、あれが近衛騎士かな?見た目からしても精錬された強さを感じる。そして、オークション会場で会ったあの男もそこに居た。


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