33.私の歩む道
「あらあら?」
しばらくそのまま不貞寝しているとエレナの声が聞こえてくる。私は勝手に自分の中でお師匠様と呼んでみただけ。でもエレナは本当にお師匠様に弟子入りしたそうだ。まさか、エレナもこんな仕打ちを受けているのだろうか?
「暖かいですから下着でもいいですけど、せっかくの可愛い下着が汚れてしまいますよぉ?でも、なんでお外なのに下着なんですか?」
くりっくりの碧い眼が絶賛不貞寝中の私を覗き込んで来る。嫌味の全く無い、人の心に癒しを与えてくれるその笑顔は女の私から見ても可愛いとすら思え、それを求めた私はこれ幸いとばかりひエレナの胸に飛び付いた。
「ティナさん?あぁんっ、ちょっとグリグリは、あんっ、やめてくださいぃっ!
一体どうしたんですか?いつもの元気いっぱいのティナさんらしくありませんよ。私でよければお話聞きますよ、何かあったんですか?」
エロじじぃにひん剥かれた事を話すととても驚いていた。やはりというか当然というか、こんな仕打ちは受けた事は無いのだと言う。何故私だけ?
「お師匠さんにはお師匠さんなりの考えがあるはずです。きっと何か意味があったんですよ。
確かに先生とは羨ましい限りのえっちな生活をされているみたいですけど、お師匠さんは先生一筋ですからね、私は悪戯された事なんてありませんよ?
そうですね、ティナさんもお師匠さんに弟子入りしてみてはどうですか?
私はお師匠さんが剣を持って相手をしてくれた事なんて一度もありません。きっとお師匠さんはティナさんの事を気に入ってると思うのでいいよーって言ってくださると思いますよ?」
服を切り刻み下着姿にした意味……んなもんあるかぁぁっ!!
でもエレナの言うように私に何かを伝えたかったのかも知れない、そう思うとなんだかモヤモヤしたものが心に湧いてくる。
私が勝手に思っているのではなく、レイと同じ師匠に本当の意味で弟子入りする。そしてレイのようにメキメキと強くなる……んふっ、んふふっ、んふふふふっ、いいじゃない……いいんじゃない?
これよっ!私の人生設計はコレなのよ!
一緒に鍛錬して励まし合いながら強く成って行く。そしていつしか二人はお互いに惹かれ合い結ばれる……ん?もう結ばれてたんだった。えへっ。
でも同じ時間、同じ場所で、同じ鍛錬をこなす事で私達の絆はより一層深まるのよ!そしてお師匠様達のように毎朝毎晩……愛を深め合うのよ!
「ティ、ティナ……さん?」
ハッ!エレナの胸で自分の世界に入り込んでいた事に気が付き慌てて誤魔化すと立ち上がった。
とりあえずお風呂に入って服を着よう。そう決めてエレナと無難な話をしながら部屋へと戻った。
▲▼▲▼
「エロじじぃ……違った、お師匠様。折り入ってお願いがあります。私はレイの隣に立てるくらいの強さが欲しい、ですから私を弟子にしてもらえませんか?」
その日の夕食の席、エレナの助言通り私はお師匠様に弟子入りをお願いした。
いつも通り彼の膝の上に乗るルミアさんが目を細めるが、その視線から逃れるように真剣な眼差しで私を見つめるお師匠様。何を考えているのか気になったけど、まさかエロいことじゃないわよね?
「ビオラ、若い娘が気になるのは分かるけど、何したか言ってごらんなさい」
ルミアさんの小さな手がお師匠様の顎にそっと触れ、自然に顔の向きを自分の方へと変えさせるとにこやかに微笑む。
観念したのか、はたまた元々隠すつもりがなかったのかは知らないけど、お師匠様のツルツルの頭には明らかに焦りからくる汗が滲み出ていた。
「ちょ、ちょっと……出来心で悪戯をな、しただけじゃよ?」
出来心でひん剥かれていたのではたまったものではない。チラリと私を見たルミアさんは再びお師匠様を見ると手を離し、ワインを口にしたと思ったらチロリと小さな舌を出し、その対象とはなっていない私でもゾクリとするような淫靡な舌舐めずりをしてみせる。
こんなモノを見せられた男性であるアルやお師匠様はどんな事を思うのだろうと少しばかり興味を惹かれたが、肝心のアルはクロエと楽しそうにしている。
「今夜が楽しみね」
事無きを得たお師匠様は若干の苦笑いを浮かべながらも私に向き直ったのでどうやら返事をくれるつもりらしい。
「儂の稽古は辛く厳しいぞ?よいのか?」
「またひん剥かれるの?」
ルミアさんが再び視線を強めるがお師匠様は冷や汗の量が増しただけでそれには構わず続けてくる。
「何事にも耐え忍ぶ、それも鍛錬じゃ。心も身体も鍛えねば強くなど成れぬのだよ」
「ってことは、また剥かれるのね?」
お師匠様の頭からは幾筋もの汗が流れ落ち、それと同時にルミアさんの細い目が更に細くなり、既に瞳の色が見えないほどになってしまった。
「儂の元で強くなりたいのならそれも良いじゃろう、エレナと共に己の為に励むがいい。明日から頑張るのじゃぞ?」
「分かったわ、ひん剥かれても怒らないように頑張る」
音も無く浮かび上がったルミアさん、部屋の温度すら下がった気がする凍て付くような冷たい視線をお師匠様に向けたままで小さくもハッキリと言い放つ。
「ビオラ、少し話があるんだけど来てくれるかしら」
「い、いや、待てルミア!儂は何も……」
雪のように白い肌に纏うは肩が出てしまいそうなほどに艶かしく着崩した薄い水色の着物。冷たさを助長させる銀の髪と二の句を言わせない圧倒的な雰囲気は、彼女こそが物語に出てくる雪女……いや、氷の女王そのものだと感じた。
「いいから来なさい」
耳を引っ張られながら奥の部屋へと連行されていくお師匠様。私は弟子入りする相手を間違えたのだろうか?
当のルミアさんはお師匠様に見えないよう私に向けてウインクなどしてくる。その顔は感情の無いお人形のようでありながらも何故か暖かみを感じて益々 “謎の人” という印象が深まる。
決して悪い人ではないのだとは分かりながらもそんな二人を眺めていれば、誰にも止められる事なく仲良く奥の部屋へと姿を消して行った。
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