6.君を信じるよ
「あら、こういった町ですからもっと質素なのかと思いましたが、なかなかに良い宿ですね」
扉を開けると、裸足でも気持ちの良さげな赤い フワフワ 絨毯が敷き詰められた広々とした部屋。白く清潔感のあるシーツの敷かれた二人用のベッドに、部屋の中央にはソファーとローテーブルも重厚感のあるしっかりとした物が置いてある。
奥の方にはカーテンで仕切られた部屋のような物が見えるので、きっとあれがお風呂なのだろう。
冒険者だらけの町の宿。ちょっと不安になり、泊まると決める前に一緒に部屋を見に来たサラとティナは内装を一目見て気に入ったようであちらこちらと二人で見て回っている。
「凄いやろ?ウチも一回だけ泊まったことあるんよ。けどな、こんな高い宿でええの?」
《ミカエラ》と名乗ったチョコレートちゃんの案内で町の高級宿に入った。安宿は冒険者達で満杯状態、普通の宿でも探さないと空いている所は少ないのだと言う。それほどダンジョン目当ての冒険者が多いという事なのだろう。
俺達は盗賊団から頂戴したお金が大量にあるので高級宿で一向に構わない、と言うか、貴族のお嬢様が三人もいるので、せっかく泊まるのなら寧ろこういう宿の方が落ち着く上に防犯上の面でも安心が出来る。
部屋を案内してくれた店の人に泊まる旨を伝えると何も言わずに出て行ったので、後はコレットさんがやってくれるだろう。
フカフカのソファーに座るとミカエラにもローテーブルを挟んだ対面に座るように勧めた。
「何なに?ウチも泊めてくれるん?それともやっぱりウチの事が気に入ったから
二人の美女がワザとらしく存在をアピールながら俺を挟み込むようにして腰を下ろすと『そんな事しないわよ、ね?』と言わんばかりの鋭い視線でサンドイッチしてくる。
貴族令嬢らしからぬ荒々しい態度に物申したくもなったが、刺さる視線が痛くて逃げ出したくなったので、ミカエラにはさっさと要件を済ませて帰ってもらうことにした。
鞄から財布代わりの皮袋を取り出し、俺の前に十枚ずつ積み上げた金貨を並べて行く。ミカエラの目がキラキラと輝き、金貨に釘付けになっている様子に少しばかり笑いが込み上げて来た。
「これが三十層からの地図を買う為の金、二百枚な?」
別で出した小さめの皮袋に金貨の山を二十も放り込んだら結構パンパンになってしまった。
ソレをミカエラの前にワザと音を立てて置けば緊張した面持ちで手に取り重さを確かめるように皮袋を軽く振っていたが、俺が目の前で金貨を入れていたのを見ていたよな?
「それでコレは人探しの分、二十枚な?探して欲しいのはアリサと言う名の女。多分こういう高級な宿に泊まると思う。
腰まで届くほどの長い薄藤色の髪が特徴で、紫の瞳の人目を惹く美人だから見れば一発で分かるはずだ。頼んだぞ?」
これまた別の皮袋に金貨二十枚を入れて再びミカエラの前に置くと、手に取ったと思ったら、また中身を確かめるように皮袋を振っている……何なのそれ、何かのおまじない?
「おっけ〜、ガイド仲間に声を掛けておくさかい、ダンジョンから出て来たら情報が入るようにしておくわぁ」
次はまた小さな皮袋に金貨四十五枚を入れるのを見せると、今度はミカエラの前ではなく俺の前に置いた。
「一日金貨三枚、一応十五日計算で金貨四十五枚入ってる。これは明日の朝、ダンジョンの入り口で渡すよ、それでいいな?」
「せやね、いきなり全部渡してバックれられても敵わへんやろうし、それでええよ。
じゃあウチは明日の準備して来るわ。急がないと間に合わへんっ。ほな明日の朝、ダンジョンの入り口で待ち合わせでええんねんな?」
確認が終わると慌てて部屋を飛び出して行くミカエラ。
金貨二百二十枚も渡してある。普通に暮らす人にとってかなりの大金のはずだ。このまま逃げ出しても俺達に追う術は無いし、簡単に逃げ果せるだろう。俺達が居なくなるまで見つからないように町の何処かに隠れていればいい、楽な商売だな。
──果たして明日の朝、彼女は現れるだろうか?
「あの子を信用して良かったの?」
甘えるように寄り掛かってくるティナの心配には答える事が出来ない。
ただなんとなく悪い子ではないと思うし、なんだか親しみを感じさせるものがあった。それは彼女の人徳なのかもしれないし、そう思わせて金を巻き上げる術なのかもしれない。
「分かんね〜。けど、疑い過ぎもこっちの心が荒むんじゃないのか?大丈夫だと思ったらから信用したし、信用した俺を信じたいよ」
「要はレイのカンよね?まぁいいんじゃないですか?レイのお金なんだし。うふふっ」
ミカエラが居なくなり楽しげに笑うサラ。王女として色んな人を見てきた筈のサラだが、そんなに彼女が信用ならないのだろうか?
「あ、違うわよ。レイの人を見る目はあるのかしらね?それとも無いのかしら?楽しみね。
じゃあ私はお風呂入って寝るわね。明日からダンジョンなんでしょう?二人も早く寝なさいよ、おやすみなさい」
若干顔を赤らめながらそそくさと部屋を出て行く姿が可愛いサラだったが、今は見るべき人が違うことに気付き傍に残るティナと向き合った。
「俺達も風呂入ろうか」
「あ、うん……」
頬を赤く染めて俯きながらもハッキリと頷くティナの頭を撫でると、風呂のお湯を入れに浴室へと向かった。
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