29.みんなで練習
再びティナが身を震わす。モニカはわりとすぐに出来たのだが、やはり魔力の扱いがまだまだ下手なティナは時間がかかったようだ。それでも、めげずに頑張った甲斐があり、とうとう灯りの外に居る奴等を捉えることに成功したらしい。
「レ、レイ……なんか、いっぱい居るよぉ?いっぱい居過ぎて数えらんない」
「そうだな、随分集まったみたいだ。三十匹くらいか?まぁ、慣れればそれもちゃんと数えられるようになるよ。
ティナの課題一つ目は魔力探知に慣れる事。
じゃあ、次はそのままで俺の魔力に集中しててくれよ。
普通、魔法を使う時って、まず体内で魔力を練り上げるよな?それが出来たらその魔力をどう使うかイメージしながら体外に放出することで魔法として発動する。こんな感じだな」
普段は意識しないがゆっくり水の魔力を集めると手の上に水玉を作り出した。すると、サル逹が一斉に殺気立つのが手に取るように分かった。さっさとやらないと先に仕掛けられるな。
「分かったよな?次は風魔法でやるけど、一瞬だからしっかり感じてくれよ?」
告げると同時に魔力を練り上げるという工程を一瞬で終わらせると、俺の周りに浮かび上がる三十個の小さな風弾の群れ。出来上がると同時に解き放たれた弾丸は緑の残像を残して暗闇に消えると、間髪開けずに「ギギャッ!」と大量の鳴き声が重なって聞こえた。
その様子を自分の目と魔力とで感じる事が出来たティナは、一瞬で三十匹ものサルが居なくなり目を丸くして俺に振り返った。
「二つ目の課題は毎日努力しないと出来るようにならないぞ。魔法の速射だ、魔法を撃つと思った時に瞬時に撃てるように魔力を練るのを早くするんだ。これは後で練習の仕方を教えるから頑張れ。
一先ずは魔力探知だ、意識しながら進もうか」
声も出ないのか、コクコクと驚いたままに頷くティナは少しばかり可愛かった。一歩近付いて一頻り抱きしめると、頑張るためのエネルギーをあげるため軽くキスをして頭を ポンポン してやる。それけで気合を入れたティナは再び前を向いて歩き始めた。
それからのティナは凄かった。何が凄いって、その集中力だ。絶えず魔力探知を行うだけでも相当疲れるだろうに、それでもそんな事は気にもせずスタスタと歩いて行き、頻繁に襲ってくるサル共をなぎ倒して行く。
先程までの必死さは見られなくなり魔力探知が上手く使えているのか、動きがスムーズになった。複数が襲って来てもどれから倒すのか迷う事が格段に減り、サルが姿を見せてから消えて行くまでの時間が激減した。たったあれだけの修練でここまでモノにするとは思わなかったが、それもひとえに彼女の集中力の為せる技かもしれない。
「ねぇねぇ、レイさん。ティナさんにどんなエッチな事したんですか?見違えるように強くなりましたねぇ。ちょっとエッチなことされるだけであんなに強くなれるのなら、私にもしてくださいよぉ」
みんながティナの無双を見守る中、胡座をかいて座っていた俺の背後からエレナが抱きつき頬をスリスリしてくる。お前の希望するのはエロい事なのか?強くなる事なのか、どっちなんだ?……あぁ、両方か。
苦笑いを浮かべてその様子を隣で見ていたモニカが説明するのをフムフムと興味深々で聞き入るエレナと興味深げに寄って来たサラ。
二人が真剣に聞いているのとは少し離れて聞き耳を立てていたリリィに違和感を感じ、まさかと頭を過ぎて行く疑問を恐る恐るぶつけてみることにした。
「リリィは魔力探知、出来るよな?」
キョトン とした顔で俺を見ると、コテンと首を傾げて ニヘッ と可愛く笑って誤魔化しやがった……。お前、何年師匠のところで修行したよ?俺と違って魔法が使えたんだから、そういう修練してないのか!?
そこでもう一つ疑問が湧いてくるので慌ててアルを見ると……首を横に振っていた──嘘だろ!?
我が目を疑い、目を擦ってアルをもう一度じっくりと見るが再び首を横に振りやがる……マジかっ!?
確かに戦闘の時はカンで動くこともあるが、それよりも魔力探知によって相手の動きが分かっていれば対処の幅も広がるから有利になるばす、何故そんな大事なことを習ってないんだ……。
あ、そういえば、俺もユリアーネから教えてもらったんだったな……師匠!?
ティナやサラ、エレナが出来ないのは仕方ないとしても、まさかリリィとアルまで……。念の為、クロエさんにも視線を送るがフルフルと桃色のツインテールが横に揺れた。じゃあコレットさんはと顔を向けるとニッコリ笑って近寄って来る。
「さぁ、レイ様。気持ち良くしてください」
「違うっ!ティナにもそんなことしてないぞ!断じてっ!」
「あら?そうですか?でも、良い声が聞こえましたげど、おかしいですね」
「コレットさんはモニカの時に説明聞いてたよね?コレットさんなら出来る筈だ、問題無いよ、エロいのも無い」
「今日のレイ様は冷たいのですね。今夜は熱い夜を楽しみにしてますわよ?」
熱い夜って……また寝かせてもらえないのだろうかと心配になってきた。コレットさんと過ごす夜が嫌という訳ではない。だが、朝までではなく、程々にしてもらえると助かると言うか何というか……。
俺、みんなが快適に迷宮探索出来るようにいっぱい魔力使ってるから休ませてほしいなぁ……なんて……そんな希望通りませんかね?
ニコニコしながら俺の手を取り、ニギニギしてくるコレットさん。どうやら俺のささやかな希望は通らないようです……はい。
「リリィ、モニカの説明は聞いてたな?今すぐ練習しなさいっ!アルはどうするんだ?一人で出来るのか?お前もティナと一緒でそんなに魔法が得意じゃないよな?一人で出来無いのなら俺が手取り足取り教えるけど、一人で出来るよな!?」
「お前にそういう趣味があったとは知らなかった……が、俺にはそんな気は無い。残念ながらお断りさせてもらうぞ。当然一人でやるさ」
「アルは私のモノなのです。変態には渡さないのです」
鬱憤を晴らすつもりが倍返し、いや三倍返しで返されて余計にストレスが溜まってしまった。
──癒し……癒しをくれ!
視界に入った水色の髪の少女!
俺の癒しのアイドル発見!
握られた手を振りほどき雪に飛び付くと ギュッ と抱きしめる。されるがままだった彼女だが、いけない大人たちに感化されてしまったのか雪まで俺に刃を突き立ててきた。
「トトさま、年端も行かない私にエッチな事など良くありません。身体が成長出来ればトトさまの思いに応える事も出来ますが、今はまだそういうのはカカさまとしてください」
俺は決してそんなつもりじゃ……見上げている青い瞳に少しだけ悲しい色が混じっているのを見つけた俺は後ろから大きなハンマーで殴られたような衝撃が走った。
──雪、お願いだから嫌わないでくれ!
ショックに打ち拉がれ半分泣きそうになった俺の頭をやさしく抱き寄せる手がある。抵抗する気力もなく、雪ごと身体が傾き、頭に柔らかな感触がすると、ゆっくりと撫でられ始めた。
──あぁ、この匂い、モニカだ。
目を瞑り、心地よさに身を委ねていると、ちっぽけなストレスなど簡単に何処かに行ってしまう。雪もモゾモゾ動いたかと思うと、俺の腕を枕にして落ち着いたようだ。
──至福のひと時、このまま昼寝していいですか?
モニカの太腿を堪能しながらも魔力探知でティナの様子を観察していたが、俺の光玉の照らす灯りの下はティナの魔力が張り巡らされ、その中に入るものはキチンと把握されているようだ。
──ティナ、凄く上手だよ。その調子。
もともと余裕のある狩りだったが更に余裕が生まれ、戦いに集中している様子に安心すると居心地の良さから眠気が襲ってくる。
──ごめん、みんな。おれ、寝るわ……。
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