28.魔力探知

「そう怒るなよ、ちょっと一緒にやろう。ティナは気配探知は出来るか?」


 キョトンとした顔を傾げる仕草に答えを得ると、キチンとした修練を積んで来た訳ではないので仕方がないかと思い、魔法のあまり得意ではないティナにはモニカの時より丁寧に教えることにした。


「え!?ちょっと……レイ?」


 ティナに近寄り背後から抱きしめた。魔物の襲ってくる場所でいきなりそんな事されて戸惑いを隠せない様子だが、今は魔物なんかより鍛錬だ。


「いいから黙って目を瞑るっ。ティナに俺の魔力を送るからそれを感じるんだ、分かったら返事」


「はーい」


 近付いていた一匹のサルに覚えたての風弾を叩き込んで仕留めると、ティナへとゆっくり魔力を流していくが、それがくすぐったいのか モジモジ と体を動かし始めた。


「何?気持ち悪い?」

「んっ……違うの、なんか背中を指先で撫でられてるような、くすぐったくてゾクゾクする感じがす、んはぁぁぁぁ……するのっ」

「そんなエロい声出してなくていいから、ちょっと我慢して集中しろよ。

 俺の魔力は分かるな?今からそれを空気に混ぜて辺りに拡げて行く。コツは薄い霧状の魔力を作り出して撒き散らす感じだ……って、ティナ、聞いてる?」


  ギュッ と目をつむり体に伝う魔力の感じに耐えてる様子だが、俺の説明は分かったのだろうか──というか、このやり方は不味かったのか?

 一応「聞いてる」と返事が来たので、要らぬ突っ込みが来る前にさっさと終わらせようと実践に移ることにした。


「体の外にある魔力は感じられてるよな?今はティナの体から二メートルの範囲を覆ってるよ、それを伸ばして行ってみよう。

 ずっとずっと進んで行くとほらみんなの居る風の壁にぶつかった」


「あっ!」


 目を開けると首を回し、嬉しそうに俺を見上げる。その顔はさっきまで身悶えしていた異質な魔力の違和感などとうに忘れたようで “分かった” という喜びに満ち溢れていた。


「普通は通り抜けられないんだけどな、これは俺が張った結界だから抜けるぞ?ほら、これは雪だな。すぐ隣にはモニカが居る、分かるか?」


「どれが誰だかはわからないけど、誰か居るのは分かるわ。これは水の魔力、よね?二人ともから水の魔力を感じるのに、それぞれ少しだけ感じが違うわ」


 ティナが言う水魔法を俺も感じて振り返れば、手の上に小さな水玉を乗っけるモニカの姿。俺達のやってる事を理解しティナが認識しやすくする為にわざわざ魔力を強めてくれたのだな。

 こっちを見て小さく手を振っていたので、手を挙げて『ありがとう』を伝えておいた。


「その違いが感じられれば上出来だ。人はそれぞれ魔力の波長が違う。魔力の個性とでも言うのかな。だから普段よく会う人の魔力なら気にして見ていればこの魔力探知でどこに誰が居るのかすぐに分かるよ。

 動物は皆多かれ少なかれ魔力を持っている。だからコソコソ隠れていようが、岩などになりすましていようが、魔力探知をかければ丸わかりになるのさ。


 魔物との戦いの時も慣れてくれば姿形がはっきりと分かるようになってくる。そうなると、この魔力探知の範囲内なら死角は無くなる訳だ。もっとも、戦いながらこれを感じとるのはかなり難しいからまだまだ先の話だけどな。

 それでも今、ティナがこいつを使いこなせるようになれば、暗闇の中からでもどんな奴が何処から襲いかかって来るかは事前に分かるようになる。そうなると対処もしやすくなるよな?


 じゃあ今度は今とは反対の方へ魔力を伸ばすぞ。ほら、もうすぐ照明の届く境界線だ。もう少し伸ばして見ると……ほら居たよな?光に当たらないギリギリのところでこっちの隙を伺ってる奴が何匹いる?」


 俺達が何かやっているのを警戒してか、それとも仲間が集まるのを待っているのかは分からないが、数匹の猿が闇の中で待機している。ティナはちゃんと感じ取れるだろうか。


「ん〜っ、いっぱい居るわね。一、二、三……六匹?」

「惜しい、七だ。右端に三匹、左端に四匹居るぞ。でも初めてにしては良い感じだ、自信を持って良い。じゃあ、あいつらが大人しいうちに次の段階をやろう。

 今はティナを通した俺の魔力で魔力探知をしている。俺の魔力を切るから、今度はティナの魔力で同じ事をするんだ」


 そう言って身を離すと「あっ」と小さな声が漏れて俺を追いかけようとしたが、今はやるべき事があるのを思い出したようで拳を握りしめて思い留まり、クルリと向きを変えると前方の暗闇に集中し始める。


 その様子に『いい子だ』と、ほくそ笑むと、すぐそばでティナの魔力を見守り続ける。

 最初はおぼつかない様子で身体の周りだけを覆っていた魔力だったが、無理矢理感覚を教えたのが功を成したのか徐々にその範囲を伸ばすと、すぐ背後に立つ俺の目の前まで来たのでチョンチョンと自分の魔力で触ってやった。


「ひゃぅっ!?」


 ビクッ としたティナの反応に笑いが込み上げるが、やれと言った俺が集中を乱すような事をしてはいけない。グッ と笑いを堪えて落ち着くと説明を始めた。


「今、ティナの魔力と俺の魔力が触れたのが分かったよな?魔力で相手の魔力を感知する方法なんだ、相手が同じ事をしてこれば当然相手にもティナの魔力が知れる。つまりこの辺に居るよって自分で言っているようなもんだな。便利な魔力の使い方なんだが、そんなデメリットもある事を覚えておくんだ。

 そのまま俺の魔力を感じつつ、もっと前に魔力を伸ばして魔物どもを把捉してみろ」


 始めてのことなのでゆっくり、ゆっくりと、魔力を進めていく。五分、十分と時間は過ぎて行くが、焦らず集中したままでじっくりと、それでも確実に効果範囲を拡げて行くティナの魔力探知。

後ろに居る皆もティナが集中して何かをしているのに気を遣ってか、静かな時間が過ぎて行く。

 時折「キキッ!?」とかサル共の鳴き声が聞こえて来たが、襲ってくる様子は無いので不思議に思いつつも放っておくことにした。



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