第六章 ダンジョンはお嫌い?
1.おそろい
「レイ、エアロライダーだっけ?乗らせてくれよ」
ベルカイムへと向かう森の中、アルが恐ろしい事を言い出す。
俺達が乗ったウェーバーは何の障害物も無い海の上だったので良かったが、ここは沢山の木が生える森の中。木と木の間隔が広いこの森と言えど初心者がエアロライダーに乗るのは危険過ぎる。
「馬みたいなもんなんだろ?」
「慣れてしまえばそうかもしれないけど、操作に慣れるまでは広い場所でやった方がいいと思うぞ。乗りたいのは分かるけど、もうちょっとだけ我慢しろよ」
「そういうもんなのか?」
「エアロライダーは乗った事ないが、ウェーバーって水上専用のコレと似たような物はそうだったぞ?」
仕方がないといった顔で渋々諦めてくれた。そりゃ俺もどんなものなのか乗ってみたいが、ルミアに魔改造されたモノだ。ウェーバーで少しは慣れたとはいえ、俺ですら森の中では怖くて乗れない。
「なら、私が運転する後ろに乗る?」
腕を絡めてきたティナがそんな事を言うが、今までの物とは違う物だと考えた方が無難だろう。遊びで怪我でもしたら元も子もない。
「出力が上がってるって言ってたろ?慣れてるティナでも勝手が違う筈だ。危ないからやめておこう、な?」
「そっかぁ」
残念そうな顔をしたまま腕にくっ付いて歩くので道無き森の中ではちょっとばかり歩きにくい。それ以外に特に文句は無いのでされるがままにしていると、それを見過ごすあの人ではなかった。
「うぉっ!」
唐突な衝撃に躓きそうになったが踏ん張ってどうにか堪える。すると、そんなことはおかまいなしに首に回される腕。背中に当たる柔らかなお胸様の感触と共に フワリ とエレナの匂いが鼻をくすぐった。
「ティナさん、抜け駆けはズルいですっ」
「はぁ?抜け駆けじゃありません〜っ、空いてたから捕まえただけですぅ〜っ」
「私も捕まえたっ!」
今度はティナとは反対の腕にモニカがくっ付いてきて益々歩きにくくなったが、それでも俺は幸せな気分になったので問題は無い……たぶん。
「リリィとサラとモニカ、それと雪にコレットさんで食材の買い出しを頼むよ。人数が人数だから結構な量になるけど大丈夫だよな?
残りは俺とパーティー登録をしにギルドに行くぞ」
保冷庫を渡して二手に別れると「とうとう私も冒険者ですかぁ」と嬉しそうにするエレナの手を引きギルドの扉を開いた。その足でカウンターへ向かえば奥にいたペレットさんが俺達に気が付きニッコリ微笑み軽く手を振ってくれる。
「レイさん、いらっしゃい……そちらの方は誰なのニャ?」
俺達がギルドに入った時からいつもより大きく開かれた目で追っていたミーナ。なんだか緊張した面持ちでエレナを見つめているけど、同じ獣人だから気になるのか?
「はじめまして、エレナと申します。この度レイさんのお嫁さんになる事になりましたぁ。今後ともよろしくお願いしま……ぁ痛っ!な〜んで叩くんですかっ!挨拶してただけじゃないですかっ!酷いっ、酷すぎるっ!こっ、これがDVってやつなのですね、暴力はんた〜いっ!」
嬉しそうな顔をしながらこれ見よがしに指輪を見せつけるという、なんだかエレナっぽくない様子だったので正気に戻って欲しくて叩いてみたけど、よくよく考えてみればごく普通の挨拶だったな。いや〜、すまんすまん。
「お嫁さん!?ご、ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いするのニャ、エレナ様。
それで、今日はどのようなご用件でしたニャ?」
ちっこいくせに何故か椅子から立ち上がり丁寧に挨拶を返すものだから ひょこひょこ と見え隠れする頭がカウンターから出ているだけ。フワフワと揺れ動く猫耳が上下するのを見てると癒されるが、覗き込んだら必死になってエレナを見上げて爪先立ちになっていたので吹き出しそうになった。
「エレナも冒険者登録って出来るのか?あと、ティナとクロエさんも俺のパーティーに入れて欲しいんだけど、良い?」
「おやおや?その子が噂の白兎ちゃんですね?なかなか連れて来ないから見せてくれないのかと思いましたよ。可愛いらしい方ですが、うちのミーナの方が可愛さは上ですね、あははっ。
もちろん獣人の冒険者登録は可能ですが、人間の字は書けますか?」
わざわざやってきたウィリックさん。この人、ギルドマスターの筈なんだけど俺達が来ると結構な確率で顔を出してくる。ギルドマスターっ……暇なの?
ミーナの頭をポンポンして「うちの子が一番」と豪語するが、俺にとってはエレナの方が上だ!
対抗してエレナの腰を ギュッ と抱き寄せると頬に手を当てて キャッ とか言いながら可愛く照れていた。
──確かにミーナも可愛いんだけどね〜
「ごふっ」
突然背後からタックルされたので、カウンターに着けていた腹が圧迫されて苦しい。腰に回された手、肩に乗っかって来た顎、振り返るまでもなく犯人が声を上げるのでティナだと判明した。
「パーティーに人数制限って無いの?」
「ええ、基本的にはありませんよ。ただ常に行動を共にする集団の事をパーティーと呼ぶので普通は多くても八人ぐらいまでですかね。
だから今後のヴァルトファータは人数が多い方になりますね」
「この紙に登録する人の名前を書いてギルドカードと一緒に提出してニャ。あ、リーダーのレイさんのもいるのニャ」
渡された紙を受け取ったティナは俺から離れると、すぐ横に並び立ち名前を書きはじめた。ティナも流石はお嬢様、リリィのように綺麗な字を書いているのを眺めていたら、書き終わって顔を上げたところで目が合った。
一瞬の後にはティナの方からキスをされていたのだが、なかなかに素早い動きと、良い判断力だったと言わざるを得ない。
それを見たエレナも『あっ!』って顔をしていたのが目に入ったので同じようにしてやれば嬉しそうな顔をする。
それを目の前でじっと見ていたミーナがウィリックさんの袖を掴み恥ずかしそうにしていたが、もしかして二人はそういう関係だったのか?
「私、字は書けません。代わりにレイさんが書いてください」
「え?俺!? ティ、ティナ〜……」
「はいはい。私がやるわよ、旦那様っ」
俺の字の芸術性を知っているティナは呆れた装いをしながらもどこか嬉しそうな顔で代わりに書類を書いてくれる。
「情け無いのです」
「まぁ、レイだからな」
「レイさんも字が書けないんですか?」
「誰にだって得て不得手はあるんだぞ?」
「じゃぁ〜、お揃いですねっ!」
口々に貶されたがエレナは嬉しそうにしていた。だがしかし、お揃いなのではない。単に字が汚すぎてなるべくなら書きたくないだけなのだが、たったそれだけで嬉しがるエレナの顔を見ているとお揃いという事にしておこうと思った。
書けても書いたものが読めなければ書けないのと一緒だしな。
「ペレット、よろしく頼むよ」
「はいは〜い」
机で書類整理をしていたペレットさんがティナの書いた紙と二人のギルドカードを持って行った。
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