39.隠された村

「護衛メイドは非常に厳密な審査を経て我々が商品として世に出している存在です。育てる事の難しさから一年で僅か二、三人しか排出出来ないのですが、ご希望される方々はそれよりも遥かに多くおられ後を絶ちません。


 しかし、だからと言って我々の基準に満たない者を世に送り出そうものなら、今まで努力を積み重ねて護衛メイドとして巣立って行った彼女達の名前や名誉を汚す事になってしまうのでそれも出来ないのです。


 そこを踏まえて、ここに他所からの偵察が来るなどして育て方が外部に漏れると、紛い物が世に出される恐れがあり、結果として彼女達の立場を貶める要因になり兼ねません。


 そこにいるコレットを含め既に護衛メイドとして活躍する者達、そして今必死になって勉強中の彼女達の努力を無駄にしない為にも、この村の所在を含めここで見た物の全てを貴方様方の心の中だけに留めておいて下さるようお願いします」



 説明を終えた村長に連れられ食堂へと案内されると、メイド服に身を包んだまだ十歳くらいの女の子達が慌てた様子で並べ直した机にテーブルクロスを引いて食卓の準備をしていた。


「ほらほら、慌てない。急な事態でも慌てず急がず平然と作業に当たりなさい。焦りは見た目も悪い上に失敗に繋がります。いつでも平常心で、しかし手早く仕事をこなす事が大事ですよ」



「「「「「はい、ご主人様」」」」」



 村長がご主人様?と疑問に思うが、そこは彼等の教育体制なので受け止めるしかないだろう。

 彼女達の仕事ぶりを眺めながらコレットさんに視線を向けると、ニコリといつもの笑顔を見せていたもののそれは明らかに無理をしているのが一目瞭然。

 彼女から過去の話を一切聞いたことが無かった事を思えばここには来るべきではなかったと思わざるを得ないが、今更帰るわけにもいかず後の祭りと言えよう。


 テーブルの準備が整い席に着くと、先ほどの子達とは別のグループがオードブルを片手に代わる代わる訪れては食事の準備をしてくれる。

 年には似合わず丁寧な手捌きで、一端のメイドさんのようにキビキビと働く姿に関心していると、俺とティナの担当らしき茶髪でショートカットの女の子と目が合い ニコリ と微笑まれた。



 村長の説明だと、見込みの有りそうな身寄りの無い孤児……早い話が子供の奴隷を毎年六人ずつ買い取り、五歳から十五歳になるまでの十年もの時間をかけて順次教育を施しているらしい。

 コレットさんを見ていればその優秀さは分かるのだが、テーブルの用意から配膳、調理に至るまでを十一歳から十四歳までの女の子達だけで行ったと言うから関心してしまう。


 普段泊まる高級な宿の食事と遜色ない料理と接客。挨拶に集まった二十四人の女の子達にその旨を伝えたのだが、多少なりとも喜んでくれるかと思いきや一斉に頭を下げただけで感情を露わにする事は無く、ただ平然と聞いていただけだった。



 食事が終わり一人ずつ付いた女の子にそれぞれの部屋へと案内されると「風呂の用意をします」と言われ、ベッドと小さなソファーがあるだけのそんなに広くはない部屋の隅に置かれたバスタブへとお湯を張り始める。

 俺の担当となったのは奇しくも食事の時に微笑まれた茶髪の女の子、シュリと言う名のあどけない顔の少女だったがもうすぐ十三歳になるという妹感漂う俺好みの女の子だった。


「毎日の訓練は大変なの?」

「はい、覚えること、慣れる事が沢山で大変ではありますが、やり甲斐のある仕事だと思っております」


「やっぱり辛い時とかあるの?」

「辛い……時、ですか?私は後二年ちょっと頑張れば立派な護衛メイドになれるだろうと言われておりますので、例え今が辛くとも頑張れます」


 バスタブへ片手を突っ込みお湯を注ぎながら俯いたシュリだったが、すぐに気持ちを切り替えたようで再び笑顔を向けて来る。

 五歳から十五歳になるまでの十年にも及ぶ長い教育生活で時には辛い事もあるのだろう。それでも六人居る同期の内の半数は護衛メイドには成れないと言うから、そのハードルの高さには驚いてしまう。


「こちらへどうぞ」


 お湯を張り終えると、その場から動かないシュリに呼ばれたので若干嫌な予感がした。


 俺がソファーから立ち上がってもにこやかな顔のまま動こうとしない。

 すると躊躇している俺の前へと歩み寄り、あろうことか服のボタンを外し始めるので、予想通りの行動に内心溜息を吐きつつその手を取った。


「そんな事までしろと教わっているのか?」

「え?すみません、何処か至りませんでしたか?」

「そうじゃなくて、俺は冒険者から貴族になった言わば初心者貴族だけど、貴族だからってそんな事までしてもらわないと思うぞ?」

「そう、なのですか?お嫌でしたら止めますが、ご主人様への奉仕は私達の仕事の一つだと教わっております」


 丁寧に断りを入れると部屋から出てもらい、一人で風呂に浸かりながら思い返してみるが、そんな奉仕を受けたのは何処かの暴走キツネだけだぞと呟いてみた。




 彼女は特別だったと一人で納得してぼんやりしていると、部屋の扉がゆっくり開かれオレンジの頭が顔を覗かせる。


「まだ入ってたの?お風呂好きね」


 自分の家や、貸切にしたフロアでならまだしも、こんな宿でもない所でバスローブにスリッパという『それで廊下を出歩くな!』と言わざるを得ない格好で堂々と入ってきたのは我が妻であるティナ様。


「一緒に入るか?」

「なに?待ってたの?す・け・べっ」


 口ではそんな事を言いつつもバスローブの留め紐を解きながら近寄って来ると、バスタブに手を突き前をはだけさせながらも熱い口付けをくれる。



コンコンッ

「お邪魔かしら?」



「!!!」



 慌てて離れつつ前を隠したティナと二人して扉に視線を移すと、顔を覗かせていたララを見てまだ他にやる事が残っている事を思い出す。


「いいわね、夫婦って。私もたまには誰かに抱かれたいなぁ……なんて、ね。

 二人の事情が終わるのを待つのは嫌だし、先にモニカを寝かしつけてからにしてもらっていい?」



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