11.第一回 水玉戦争
「なぁモニカ、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな? この玉の中を目掛けて魔法を使って欲しいんだ。生活魔法レベルの凄く弱いヤツでいいから、火と風、それに水魔法を一回ずつやって欲しい」
鞄から魔留丸くんを二つ取り出しモニカに渡した。もう一つはユリアーネが入れた魔法が入っているがアレは彼女の形見だ、使うことはないだろう。
不思議そうな顔してマジマジと見つめると「綺麗ねぇ」と貴族令嬢ならぬ物欲しそうな顔をしている。しかしそれは俺の切り札的な物なのであげるわけにはいかない。
「一つずつでいい。転移石を使うような感じで、玉の中に魔力を込める代わりに魔法を込める感じでよろしく。まず火魔法からやって中を覗いてごらん」
言われた通りに魔留丸くんを握って中に火魔法を入れる。すると中に灯った小さな炎を見て目を輝かせる──そんな顔してもあげないから。
風と水魔法も入れ終え、頼み通り三属性の魔法が入った魔留丸くん。中心でゆらゆらと揺れる小さな三色の炎、綺麗だよね……早く返して?
「それって何なんですか?綺麗なんですけど?私も欲しいんですけどっ」
「魔導具だよ。今モニカが使った魔法がこの中に閉じ込められている。この魔法は魔力を使わなくても好きな時に取り出せるんだよ」
首を傾げるモニカ、意味は分かったけど使い道が分からないんだろう。それはそうだ、普通の人には魔力の温存くらいにしかならないからな。
ならばと水魔法を取り出せば、魔留丸くんの上に現れる小さな水の玉。その水玉の魔力を分け、モニカに向けて一条の水として飛ばしてやる。
「えっ? ちょっと!?」
慌てて避けようとするが、その姿があまりにも必死でなんだか楽しくなってきた。
連続で魔法を分けながらある程度間隔を開けて、そら豆ほどの水玉を何度も飛ばした。「ひゃーーっ」と言いながら逃げ惑うが、やがて命中を始めるとお高い服に染みが付いていく。
「そんなんじゃ当たりませんよ〜っ。あっかんべーっ!」
頬を膨らませた可愛い顔を笑って見ていれば、モニカも真似して水玉を放ってくる。しかし残念ながら当たらず、避けながら再び水玉を放ち始めた。
「くっそぉ、ずるいっ!ずるいっ!ずるいっ!大人しく当たりなさい!」
何度も何度も水玉が飛んでくるが間隔があり過ぎていて簡単に避けれてしまう。昨日の蛙のようにこちらの動きを予測して飛ばして来てはいるものの単調な動きをしない俺にはまったく当たらない。
「モニカ、同時に三つ飛ばしてこいっ!なるべく間を開けて飛ばすんだ」
指示通りに三つ同時に飛んでくる水玉。これがすぐさま実行に移せるのは素晴らしいと褒められるが、さほど間隔を空けることなく固まって飛んでくるので、これなら一つと変わらない。
「もっと間を開けろ。俺が避けられないように工夫するんだ。それが出来たら次は一つ一つ微妙に時間差をつけて飛ばしてこい」
左手に浮かぶ水玉から同じ大きさの水玉が分裂し、モニカを目掛けて飛び出していく。ひたすら走りながらの乱れ撃ち、これ、魔法分割の練習に良いな。
逆にモニカは魔法を操るのに集中しているのか、さっきより動きがない。これ幸いと更に水玉をぶつけベタベタにしてやる。
「ほらほら、早く俺に当てないと下着まで見えちまうぞ」
大分魔法の扱いがマシになってきたところで辛そうな表情を浮かべるようになった。弱い魔法とて数撃てば魔力も消費する、そろそろ限界なのだろう。
終わりを告げて服を乾かしてやろうと近付いたのに諦め悪く水玉を飛ばしてくる。慌ててしゃがんで躱すと、そこを目掛けて時間差でのもう一発、良い狙い方だ。
別に問題なく避けられる──が、ここで避けてしまうと練習の成果を味合うことなく終わってしまうと思い留まり、そのまま当たってやることにした。
「ふふふっ、やっと当たったわ。これでレイさんもびしょ濡れね」
「ズルイのは誰だよ、まったく。でも最後のは良かったぞ。ほらっ、乾かしてやるから大人しくしろ」
モニカの隣に立ち、火と風の魔法も取り出すと温風を作り出し服を乾かす。びしょ濡れ過ぎて乾くのに時間がかかったのはご愛嬌、なんでもやり過ぎは良くないな。
「レイさん、魔法使えないって言ってたのに使えるじゃない。どうして嘘ついてたの?」
「あ〜、分からなかった?これはモニカの作った魔法だよ。モニカがこの玉の中に入れた魔法を俺が貰ったのさ。そうすると俺も魔法が使えるようになるんだ。ほら見てみろよ。玉の中の炎が無くなってるだろ?今使っちゃったからもう一回入れてくれるか?」
ふ〜んとよく分かって無いような返事をしながらも素直に魔法を入れてくれた。さっき取り出した魔法は三つとも俺の手にまだある。ちょっと悪戯心に火がつき、久しぶりの身体強化を施した。
「魔法はな、ただ武器として使う他にも使い道があるのを知ってるか?身体強化と言って身体能力を高めるのにも使えるんだぜ?でな、強化されるとこんなことも出来るんだ」
俺はモニカの腰をしっかりと抱き寄せるとビックリさせてやろうと強めに力を込めて地を蹴った。予想を超えて高く飛び上がる俺とモニカ……あれ?こんなはずじゃ……
「キャーーーッ!ひっ!たっ、高いっっ!怖いよレイさん!早く降ろしてぇ〜」
俺の服を握りしめる手には若干の震えがある。それもそうだろう、目測で二十メートルは上っている……おかしい、こんなに高く飛ぶつもりは無かったんだけどなぁ。
「ごめん、加減を間違えたみたい。俺が一緒だから怖くないよ。ほら、風魔法でゆっくり降りて行くだろ、風魔法は凄いぞ?俺は出来ないけど慣れた奴は空を自由に飛べる。モニカも頑張ってみたら楽しいかもしれないぞ」
「もぉっ、レイさんの馬鹿。でも、良い景色ね」
風魔法を纏いゆっくりと降下していく最中、はしゃぎ始めたモニカの指差す方には、レピエーネの町並みの向こうにヒルヴォネン家の屋敷が見えていた。
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