36.第四十一層ぶらり旅
みんなの修練の為にサボりを決め込んだ俺は運転席へと座り、二列目に一番の問題児と見込まれるティナを挟むようにサラとコレットさんが座って指導に当たる。
三列目には飲み込みの早いエレナを真ん中にモニカと雪が、お決まりの四列目にはアルを真ん中にしてリリィが隣で指導に入っているのにも関わらずクロエさんはベッタリとくっ付いている。
「クロエっ!アンタも練習しなさいよ!アルの邪魔してんじゃないわよ」
あぁん?とガンを付けるような目で チラリ と見ると、知らん顔で再び至福の時を楽しむクロエさん。段々と態度がおかしくなってきているのは気のせいではないよな……メイドの立場はどうなった?
「私はある程度出来るからいいのです。お気になさらず指導に励んでくださいなのです」
一人だけ幸せ気分に浸る姿を見せつけられ カチン ときたのか、拳を握りしめて プルプル と震えだしたリリィ。
ふわふわの金の髪が怒りと共に溢れ出た魔力を受けて浮き上がり始めると、ただならぬ気配を感じたクロエさんが目を開け現状を知ったと同時に何事もなかったかのように サッ と座り直した。
「アル、教えてもらう方なんだから、あんまりリリィを怒らすなよ?」
「俺じゃねぇしっ……クロエ、頼むわっ」
「反省しておくのです」
「しておくぅ!?」
「したのです……」
「リリィもあんまり怒るなよ、じゃあ行くぞ」
「せやねっ!早ぉ行きましょか〜っ」
居場所が無くて俺の隣に座るミカエラは、初めて乗る魔導車にワクワクしている上に一番前の席で前方が良く見えるからか、今までにないハイテンションだ。
ノリノリで右手を上げると『早く行け』とばかりに人差し指で前を指した。
「ちょっと!あんた何してるのよっ!お触り禁止!!」
そんな微笑ましい様子にそろそろ出発しようと操作球に手を置くと、真似して手を重ねてくるのでティナから物言いが入った。しかしその瞬間、ミカエラの手から驚くほどに強い魔力が流れ出し、俺の手を通り越して操作球へと流れ込んだので魔導車は急発進することとなった。
「わわわわっ!ちょっと、お兄ちゃん!?」
「びっくりしましたねぇ、急にどうしたんですか?」
「そんなドッキリはいりませんよ?」
「いや待て、俺じゃないからっ!」
「かっ、堪忍してやぁ。興奮してついやってもうたんよ……許したってな」
波乱を予感させるドタバタ発進だったが一先ずは順調で、車内で魔法の実習が行われつつ砂埃を巻き上げながらも砂しか無い砂漠を疾走して行く。
魔導車が近付くと気配を感じてか、砂の中から黒光りする人の顔程もある虫がいたるところから何十匹と湧き出て来たが、魔導車の移動速度は馬とは比較にならないくらい速いのだ。
普通に歩いていれば足場の悪い砂の上であんなのを相手にする事になるのかと思いつつも、せっかく出て来た彼等には悪いがスルーさせていただいた。
「上から来るぞ、モニカとサラで倒してくれ。リリィは何かあった時の対処を頼む」
「任せといてっ」
「はい、わかりました」
「わかったわ」
上空から接近してくる何かの狙いはどうやら魔導車ではないらしい。振り返ると先程地面から湧いて来た黒い虫を目掛けて飛び込んで行く人間より大きな鳥が十羽ほどいた。
皆、急降下して一様に虫を咥えると、トンボ帰りで空へと帰って行っては再び襲いかかるのを繰り返しているようだが、虫は虫で食べられては敵わないと慌てて砂に潜り始めているように見えた。
俺が振り向いて見ていたので、釣られて皆も振り返り俺と同じ景色を共有する。魔物は魔物同士で食い合わないと生きていけないのだと弱肉強食の世界を考えさせられてしまった。
「ダンジョンが作り出した魔物ではないのでしょうか?」
「それもそうね、なんで食べるのかしらね?」
「作られた魔物でもお腹は空くってことですかねぇ」
「なんだか不思議よね」
そうこうしている間にも魔導車は進み、すぐに鳥達も見えなくなったのだが、今度はまた下から何かが飛び出してくる。
ボシュッ
ボシュッボシュッボシュッ
次のお出迎えは砂とよく似た黄土色をした細長い蛇のような魔物。細いと言っても人間を丸呑みに出来るくらいの太さはありそうで、見えているだけでも七メートルは優に超えそうな程の長さがある。ティリッジに向かう途中で魔導車を飲み込みやがった奴の小さい版だろうか?足元から突然現れて一飲みにされては堪ったものではない。
ここの魔物は群れでいるのがお決まりなのか、一匹出て来たかと思ったら後から後から飛び出して来る。しかし魔導車の速度には付いてこれないようで、空振りを悟りある程度まで伸びると砂の中へと引っ込んで行く。
「アレはサンドワームやな。ティリッジ周辺では割とポピュラーな魔物やねんけど、あんなでっかい奴は初めて見たなぁ。あんなのが足元から出てきたら一飲みにされてまうわ、えろぉ恐ろしゅう魔物がぎょうさん出てきはるなぁ」
魔物の説明をしてくれたミカエラに俺達が出会った超デカイ奴の話をすると目を丸くして驚いていた。
結局その後も魔導車の速度に付いて来れる魔物はおらず、砂の中から出て来ては空振りで帰って行くのが繰り返された。黒い虫とサンドワームの他には、サソリに、トカゲ、蛇なども チラリ と見えたが何も倒していない。空から襲いかかって来た大きな鳥だけはサラとモニカの魔法の餌食となったが、とても快適な砂漠の旅になった。
しかし、魔物は驚異ではなかったのだが、草木すら生えておらず目印となるものが一切見当たらない広大な砂漠。どっちに進んで良いのかサッパリ判らずに闇雲に魔導車を走らせていた。
「なぁ、相談なんだけどさ……どっちに行けばいいと思う?」
振り返り、魔法の練習をしていたみんなに聞いてみるが明確な答えなど返って来るはずもなく一様に首を傾げるばかり。
「ほんならウチに運転させてくれへん?」
意外な所から声が上がりどうしようかと思わず見つめてしまったが、この状況では誰が運転しても同じだろう。
それに障害物もなければ歩いている人なんている筈もない。何の問題も考えられなかったので、やりたければどうぞと操作方法を教えて運転を交代した。
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