21.報酬

 俺達のような若い冒険者に頭を下げて感謝の言葉を何度も告げるランドーアさん。貴族の人にそんなことをされるとは思わなかったけど、それだけティナが心配だったんだろうな。


「いえ、頭を上げてください。実はですね、ティナを捕まえた盗賊団はスネークヘッドって言うのですが、その盗賊団に俺達も捕まっていたのです。それで俺達が逃げ出す時に一緒に逃げただけで、そこまで感謝されるほどの事は何もしていないのです」


「しかし君達がいなければティナは無事に戻れなかったんだろう?だとしたら、今ここにティナが居るのは紛れもなく君達のおかげだよ」


 ティナと同じ薄紅色の瞳で俺をじっと見つめるランドーアさん。これはまた、俺が間違っているパターンだなと悟る。はぁ……


「偶然が重なっただけとは言え、そうかもしれません」


「ふふふっ、君は謙虚だな。貴族の娘を悪党から助け出したんだぞ?またと無いチャンスではないのかね?もっと大きく出て、金でも何でも踏んだくったらどうなんだ?」


 口元は笑っているが目は真剣だ、いきなり何を言い出した?踏んだくるとか無理無理。そりゃ……ね、出来ればお金は欲しいですよ、出来ればね。沢山あっても困りませんからね。でも踏んだくるって、それは詐欺じゃないですか。身代金取るつもりだった盗賊団と何の違いがありますの?ありえませんわぁ……


 返答に困り横目で見れば、小さく溜息を吐いて申し訳なさそうに俺を見ているティナがいた。俺は試されてるのか?


「お父様……それはレイさんに失礼ではありませんか?レイさん達は私の命の恩人なのですよ?その方達に向かって、それはあんまりです」


 むくれる娘と苦笑いの父。俺達の事はいいから喧嘩はしないでくれよ……。

 ランドーアさんは俺に向き直ると、今度はすまなさそうな顔をする──コロコロと表情が変わるお人だな。


「いやぁ、すまんすまん。貴族という立場柄どうしても人を疑ってしまってね。人間というのは醜い生き物で他人の足元ばかり見るんだよ。人の弱みに付け込み自分の私腹を肥やす、私の周りはそんな人間ばかりなものでね。ティナが信用する者達だ、悪い人間なわけがなかったな。本当にすまない、許してくれ。

 それで話しは変わるが、ティナを救い出してくれたお礼と、君たちの都合を踏まえずここまで連れて来てもらった報酬を支払いたい。何か希望する物があったりするかね?」


 希望?なんだろう?特に金に困ってるわけでもなければ欲しいものがあるわけでもない。豪華報酬があるとは聞かされていたけど、欲しい物なんて考えてもみなかったな。

 リリィとアルに視線を送ったがアルは知らん顔。リリィはお茶請けのクッキーに夢中……え?なにしてんの君!俺、ランドーアさんと話してて紅茶ですら一口飲んだだけなんですけど!?


「あ、あの……リリィさん?話し聞いてました?」

「んん?なに?」


 聞いてなかった!予想通り!!


「ぶはははははっ、ここまで無欲な者達は初めてだなっ!クロエ、お茶請けのおかわりをお嬢さんに頼むよ。アル君だったか?紅茶のおかわりはどうかね?」


 アルとリリィの空っぽのカップにメイドさんが紅茶を注ぎ終わる頃には、部屋を出たクロエさんが再び銀の台車を持って戻ってくる。その間に紅茶を口にしクッキーも一枚戴いたのだが、リリィの前にケーキが乗ったお皿が三つも置かれて目を丸くした。ずるいぞリリィ!!


 ケーキを ジーーッ と見てたらクロエさんがそれに気が付き クスリ と笑うと、なんとなんとっ、俺の所にも持ってきてくれた!ラッキー!

 俺にも三つくれたのでティナに『食べる?』ってジェスチャーすると、苺の乗ったのを小さく指差して微笑むのでそれを取ってあげる。ティナって苺好きなのかな?アイスクリームも苺だったよね。


 そんな俺達を朝食の残りを食べながら見ていたクレマリーさん。口元に手を当てフフフと上品に笑われたが、見られてると分かるとなんだか小っ恥ずかしい。


「二人は随分仲が良いのね。まるで恋仲みたいだわ」

「ななななにっ!恋人だとっ!ティナっそんな仲なのか!?」

「あなた?ティナだっていつまでも子供じゃないんですよ?好きな殿方の一人や二人や三人、いるわよねぇ?」


「お母様……」って呆れてるティナと「三人も!?」っと勢いよく立ち上がったまま驚愕した顔で固まるランドーアさん、お父さんは娘愛が凄いな。ティナがお嫁に行く事になったりしたら号泣しそうだ。



「でさ、報酬、何がいいんだ?」


 気を取り直して二人に聞いてみる。

アルはちょっと考えてるみたいだけど、リリィ!ケーキは逃げないからっ!!


「なんでもひひよっ」


 口っ!口に物入ってる!!女の子ぉぉっ!

もぉ疲れてきたよ、トホホ……


「旦那様、一つ提案よろしいですの?」

「どうしたクロエ?」

「報酬の件ですが、彼等は冒険者なのです。旦那様がよろしければ我がカミーノ家の鞄などいかがでしょう?」


 フムと顎髭を撫でながら考えている様子のランドーアさん。しかし直ぐに答えを出したようでクロエさんへと頷けば、主人の意を察して部屋から出て行く。


「君達は冒険者という事だが、空間魔法のかかった鞄というものを知っているかね?」


 それはもしかしてティナのポシェットのことかな?あれはとても便利そうだな。


 ランドーアさんが話し始めたタイミングでクロエさんが戻ってくる。その後には一人の男がついてきており、二人の後ろを通って俺達の正面の席に着く。


 白いシャツの袖には幾重もの布が花のように縫い付けられ、動かす度に ヒラヒラ と揺れては目を惹く小洒落た服。緩く波打つ紺色の髪に、優しそうな銀の瞳。見るからに貴族のような感じだが線が細く、ランドーアさんとは体型からして似てない上にクレマリーさんとも似ていないように思える。


「私はテーヴァル・シュパードといいます。このカミーノ家で鞄を作っている空間魔法師です。以後お見知り置きを」


 空間魔法師!?名前からしてなんだか凄そうな職業を名乗った貴族風イケメンさんだけど……空間魔法って、なんだ?


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