30.復興作業
目の前の瓦礫に魔力探知の為の魔力を巡らせ、右手に握る外壁の欠片と同じ物を探すと思惑通りに行く予感がした。
感じ取れた外壁だった物に風の魔力を纏わせてゆっくり空へと引き上げるが、ガラガラと大きな音を立てて建物を形造っていた内側の壁やら床の破片が落ちて行くので、それはそれで別に固めて浮かせておく。
せっかく綺麗に片付けられたメインストリートだったが、少しばかり場所を拝借して後に残った机や食器などの残骸を風の絨毯で移動させると、外壁の塊を薔薇の交響曲跡地に降ろし土の魔力を流し込む。
「まさかとは思うけど建て直すの?」
ティナの声に振り向けば周りに居た人達が指を指して空中に浮かぶ瓦礫の塊を見つめているのが目に入り、こんな事をしてれば注目を集めるのは当たり前だと気付かなかった事に少しだけ後悔した。
記憶にあるはずの薔薇の交響曲を思い浮かべて『こんな感じだった……はず!』と大きなガラスの嵌る筈の穴が空いた四階建ての白い建物を造りあげれば歓声と共に拍手が巻き起こる。
壁床の破片にも土の魔力を通して一先ず四階分の床を造ると、ごちゃ混ぜの残骸からガラスの欠片の一つを探し魔力探知と風魔法で残りを集めて土の魔力を通し、開いたままの窓へと嵌め込んだところでミツ爺を見ると、厳格そうなイメージがあったのに ポカン と口が開いた間の抜けた顔をしている。
「レ、レイシュア様、これは……」
「外観も変える予定だった?違うのが良ければ直すから遠慮なく言ってくれ。中はまだなんだけど……」
「レイっ、こっちこっち」
手招きする偽リリィの元へ行けば、地面に描かれた間取り図を指差して「よろしく」と言われる。この通りに造れば良いのかと土の魔力が満ちた瓦礫へとイメージを流し込み、一階、二階、三階、四階と内壁を整えて行く。
「偽リリィ、ミツ爺、一応出来たから中を見てきてくれるか?」
「偽じゃないっ!リッ、リッ、イッ!」
わかったわかったと意外な能力を発揮した偽リリィを新・薔薇の交響曲へと押し込んだところで一組の中年夫婦が申し訳なさそうに俺の元へとやって来た。
「あのぉ、私達は交響曲さんの隣で服屋を営んでいた者なのですが……その……大変言い難いのですが、ウチの店も貴方様の魔法の力で立て直していただけないでしょうか?
もちろんタダでとは言いません。私達に出来る限りのお礼は差し上げますのでどうか聞き届けてはもらえませんか?」
二人はとても困った顔をしているので、お隣さんとあらばこの程度の手伝いくらい二つ返事でやりましょうと思っていると、その背後に居た綺麗なお姉さん三人が ペコリ と頭を下げるではないか。
「痛って!」
「何デレデレしてんのよっ!それくらい無償でやってあげればいいでしょっ!?」
ただお姉さん達を見ただけ、そう、見ただけなのに手加減無しに頬を摘んで来たティナは、来る途中にみんなで寄ってたかってお仕置きしたのを根に持っているようだ。
「いい加減機嫌直せよ……建物を直すのに報酬はいりません。ただ一つだけ、現在この町には貴方がたのように困っている人達が沢山いる。町がある程度復興するまでの間はその方達の手伝いをしてあげることを約束してください」
「もちろんですっ!ありがとうございます!!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
簡単な店の間取りを書いてもらっている間に外壁と内壁の欠片を受け取り意識を集中させれば瓦礫の山が再び宙に浮かび上がる。
残った残骸を退けた更地に一先ずの外壁を造ったところで偽リリィが新・薔薇の交響曲から出て来くると「何してるの?」と首を傾げながら寄って来る途中、地面にガリガリと間取りを書くおじさんが目に入りその横で立ち止まった。
「おじさん、これはこの方がいいんじゃない?」
「え?そうなると、コレはここにした方がいいのかい?」
「うーん、そうなるかな。それで階段はこっちの方が……って、先に向こうを片付けるからちょっと待っててくれる?」
そう言い残して俺を引っ張って行くので慌てて瓦礫を地面に降ろすと、新・薔薇の交響曲の修正作業に取りかかった。
「あ、あのぉ……」
改装が終わり、後は机や調理器具などを入れれば営業も可能な状態に仕上げて建物から出ると、眉根を寄せた申し訳無さそうな顔とは裏腹に期待に胸を膨らませた十人以上の人達が俺を待っていた。
本来なら瓦礫を一つずつ手作業で取り除いてから大工さんに頼んで建物を建ててもらう事になるのだが、ものの数分で建て直しが終われば「ウチも!」となるのは当たり前だとは理解出来るし、断る理由もこれといって特にない。
「分かった、言いたいことは分かったから順番にやるよ。ただし、自分の所の片付けが終わったからと安心しないで共に住む同じ町の仲間の為に片付けの終わってない人達を手伝ってあげると約束してくれ、いいな?」
口々に「もちろんです!」と言う人々に書くものを渡すと、建て直したい家の間取りを好きなように書いてくれと伝えてから後ろを振り返った。
「トトさまはお優しいですね、そんなトトさまが大好きです」
抱っこしていた雪が突然そんな事を言い始め、俺の頬にキスをしてくれたので、嬉しくなってお返しにグリグリと頬を擦り寄せると満足そうな顔をしている。
「ミツ爺、頼まれ事を聞いてくれないか?」
「レイシュア様、我々の店を建て直してくださった大恩ある貴方の願いを聞き入れないなどどうして出来ましょう?なんなりとお申し付け下さい」
「大したことはしてないからそんなに気にしないでくれよ。それでさ、今サザーランド邸の庭には家を失った人達が大勢避難してきている。その人達の為に今夜食事を振る舞いたいんだけど、食材の確保って難しいかな?」
「お忘れですか?このカナリッジはシルクロード始まりの町、例え町が破壊されようとも各地から続々と物資が運び込まれます。食材の確保など問題にもなりはしません」
俺の希望に添えるのが嬉しいのか、笑顔で答えてくれるので安心して任せられる。
サザーランド邸の広い庭は難民とも言える人達の張るテントでごった返しているのが出掛けに気になっていたのでお決まりのバーベキューでもしようと目論んでいたのだが、仕方がないとはいえ町の人達に捕まってしまった今、後で行こうと思っていた食材調達に行けなくなってしまったのだ。
「エレナ、コレットさんとミツ爺を連れてサザーランド邸へ一旦戻ってくれるか?
コレットさんはコック達にバーベキューをするから手伝ってくれるように頼んでくれ。焼き台は後で作るから下準備を頼む。
時間が無くて悪いが、ミツ爺は必要な食材の量を把握したらすぐにかき集めてくれ。あと、出来たらでいいけど鉄が手に入ったらうれしい」
三人がエレナの風魔法で空を飛んで行くのを見送ると、サラに肩を叩かれた。
「ここに居てもやれる事はないからティナと二人で医療院へ手伝いに行ってくるわ。モニカはどうする?」
首を横に振るモニカと見つめ合っただけで何も言いはしなかったが、面倒見の良いサラの事だ、たぶん二人の間では『リリィと仲良くしなさいよ』などという意思疎通がされていた事だろう。
二人を見送ると偽リリィが最初のおじさんとまだ話しをしていたので、モニカと手を繋いで歩きながら仕事の分担を決めた。
「偽リリィが間取り図を直してくれるから、それを元に俺は建物を造るよ。モニカは俺が何処の建物を造ったらいいのか指示してくれ。雪の仕事は俺に元気をくれること、いいか?」
笑顔で頷く二人に笑顔を返したところで偽リリィの元へ到着すると、彼女達の話し合いも丁度終わったらしく再び「よろしく」と言われた。
「偽リリィ、家の建て直しを要求する人が沢山いるぞ」
「そう……じゃあ、私がこの町を造っても良いって事ね?望むところよ、レイこそ頑張りなさいよ?
それと “偽” っていい加減止めなさいってばぁっ!」
リリィ本人じゃないんだから “偽” だろうと声に出さない突っ込みを入れつつ、俺と偽リリィの独断と偏見によるカナリッジ修復作戦が幕を開けたのだった。
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