28.ワールドオブリリィ⑦素直な気持ち
小さな体のリリィと大人の俺、距離が開けてもそんなものはハンデにもならない。すぐに近くまで走り寄ると肩を掴もうとしたその時、まるで見えていたかのように身を翻してふ振り返った。
涙で頬を濡らしながらも怒りに満ちた顔は、怒りがやや強いながらも喜び、怒り、哀しみ、楽しさの全てが入り混じる複雑な表情。
その顔に見とれて動きを止めてしまえば、それが
ヤバイと感じて身を捻った瞬間、すぐ真横を魔法弾が通り過ぎていく。
「来ないで!!」
「っ……リリィ!待てっ!」
またもや逃げ出したリリィを追いかければ、突然立ち止まってこっちを向き直るので追いかけっこは終わりかと思われた。それ自体は間違ってはいなかったようだが、大人しく話しを聞いてくれるほど甘くはないらしい。
リリィの周囲に浮かび上がる魔法弾の群れ。二十はあろうかという死の玉が今まさに飛び出そうと彼女の合図を待つ。
そんなモノを目の当たりにして思わず足を止めたが、気持ちだけは止めるわけにはいかない。
「リリィっ!俺の話を聞くんだ!俺はお前を迎えに来たんだぞっ!!」
そう言いつつも頭の中で『どうしたらいいんだ』と相棒に問いかける。すると、意外にも余裕のある声で返事がやって来た。
「そんなに怯えないで、魔法使いさん。貴方の魔法は普段使うモノと少し違うだけよ?魔力を持って精霊を行使するのではなく、その工程を省いてみなさい。
魔法を使う時、精霊に意思を伝える時、どうしてた?貴方が自分で得意と言ったモノよ、私をこんな姿にしたのは何処の誰でしたっけ?」
それはつまりイメージしろって事か?イメージって言われてもなぁ……考える間にも数は増え続けている一撃必殺の魔法弾の群れ。リリィの背後を埋め尽くす勢いだ。
「アンタなんか嫌いよっ!消えちゃえっ!」
振りかざした手を俺達に向けたと同時、ソレが一斉に襲いかかって来る。
暗闇を照らす無数の赤色、例え魔法の使える現実であったとしても目を見張るような光景だ。
サラのように冷静ではいられず、焦る思いは思考を鈍らせる。そんな中で明確に残るのは “イメージ” と言う言葉……イメージ、イメージ……何をイメージしろと?
眼前まで迫る魔法弾の向こうに見えるリリィの姿、リリィと言えば……結界魔法!よし、彼女の力を借りよう!
目の前に広がる爆発の嵐。何回の爆発があったのか分からないくらい多量の爆発が起こり、思わず耳を塞ぎたくなるほどの大音響が鼓膜の奥へと入り込む。
しかしそれでも俺達が無事でいられるのはソレを隔てる壁が存在するからだった。
目の前にあるのはリリィが得意としていた結界魔法による透明な板、それが何枚も作られ幾度とない爆発をモノともせずに立ちはだかっている。
爆発が終わり爆炎も収まれば、肩で息をするリリィの姿が見えてくる。
彼女は俺が作り出した結界魔法を認識すると目を見開き驚いた顔となった。
「私のっ、私の魔法!盗ったのね、私の魔法を盗った!」
再び二十もの魔法弾が浮かび上がると、間髪入れずに襲いかかってくる。
俺は結界魔法をその場に残すとリリィに向けて全力で走った。
魔法を撃ち終わり、肩で息をしながら爆発に見とれている隙を突き、背後から一気に距離を詰める。
「リリィ!」
「えっ!?」
予想だにしなかったのだろう、あっさりと俺に後ろ抱きにされるリリィ。「離して!」となりふり構わずもがき続ける小さな体を強引に抱きしめたまま『絶対に離さない』と心の中で呟き力強い抵抗が終わるまでを耐え忍ぶ。
「離してっ!離して離して離してっ!やだっ!変態!はなせっ!!」
変態かぁ……さっきもサラに言われたな。それって傷付くんだけどなぁって、そういえばサラは?
俺の懐に居たはずだけど、こんなにギュッとリリィを抱きしめていたら潰れてやしないかと心配になったのだが、潰れているような感触はないのでたぶん大丈夫だろう……たぶん。
尚も手足をバタつかせ、全身全霊で暴れるリリィをどうしたもんかと思いつつも抱きしめ続ける。
しかしこのままでは話すら聞いてもらえないと思い至り、まずは落ち着かせる作戦に出た。
「リリィっ!リリィ、落ち着け!リリィ!?」
「うるさいっ、離してってば!私なんて居ない方がいいのよっ!消えてなくなるんだからさっさと離しなさいっ!!」
「お前は……少しは話を聞けって!体だけじゃなく頭まで幼くなったのか?馬鹿リリィ!!」
「なっ!?誰が馬鹿よっ!馬鹿レイに馬鹿って言われたくないわっ、アンタ以上の馬鹿なんてこの世にいないんだからっ!」
「馬鹿馬鹿いうな馬鹿っ!死ぬ死ぬしか言えないやつの方がよっぽど馬鹿だろうがっ!悔しかったら言い訳でもしてみろよっ」
「はぁ?言い訳なんて必要ないわっ、要らないモノは捨てる、当たり前のことでしょう?分かったらっ、いい加減っ、離しなさいって!!」
腰に回した二本の腕を小さな手で押し離そうと頑張るが、今この手を離せば二度と彼女が戻らぬ気がして叩かれようが引っかかれようが更に力を強めて離す意思がない事を告げる。
「俺がお前のことを必要って言ってるだろうが!聞いてんのか、このすかぽんたん!人間の言葉すら忘れたのか、馬鹿も馬鹿、大馬鹿じゃねぇか!」
「なっ!?すかぽんたんって何よ!」
「ガキんちょの頭だから何も分からないんじゃないのかっ?大人になってから考えるんだなっ!つってもぉ、大人のリリィだって馬鹿なままだったけどねっ!ハハッ」
「なにおぉっっ!?」
挑発に乗り一気に成長する身体。腕の中で小さな身体がニュニュニュッと大きくなって行く様子はなんとも言えない奇妙な感じだったが、見目麗しく成長した本来のリリィへと戻った。
「だからすかぽんたんって何よっ!」
「んな事はどうでもいいんだよっ!」
「いいってな……」
振り返り、俺の胸を指で突ついてくるリリィの肩を両手で掴み、考える間を与えないよう素早く顔を近付ける。
拒絶されて噛みつかれるのも覚悟のうえではあったのだが、一瞬ビクリとしただけで呆気なく大人しくなり、されるがままに唇を重ねたままでいる。腰に手を回せばリリィも俺の背中へと手を回し、ためらいながらも抱きしめ返してくれる。
リリィとする初めてのキス、リリィの心に入るまでは思いもしなかった状況だ。
彼女の気持ちなどまるで知らなかった、知ろうとしなかった。でも今はこんなにも俺の事を想ってくれていた事に感謝と謝罪の念が湧くと同時に愛おしさが込み上げてくる。
──俺も自分の気持ちを見てなかっただけでリリィの事が好きだったのか?
確かにリリィはメチャクチャ可愛い、黙って座っていれば絵に描いたような美少女だ。口を開けば勝ち気で自信家なのだが……それこそがリリィ!
──そうか、やっぱり俺はリリィが好きなんだ
リリィは気が強い。でもそれは決して我儘なわけではなく自分の思いをストレートに表現し過ぎているってだけ。そんなリリィが羨ましくも感じ、一緒に居て心地が良かった。
生まれてからずっと一緒だったからまるでそれが当たり前のように思っていたけれど「殺して」と言われた時に感じたリリィともう会えなくなる半端ない恐怖。隣にいるのが当たり前だと思っていた、それは未来永劫変わらぬ事なのだと。
リリィを失いたくない、ずっと傍にいて欲しいと思っていた自分をようやく認識した。
「んふっ……んっ」
唇が触れ合うだけのキスじゃ満足出来なくなり、俺の舌が閉ざされていた門をそっと叩く。
戸惑いを見せながらもそれが受け入れられると、正に今、湧き起こったばかりの熱き想いをぶち撒けるようリリィの口の中を思う存分蹂躙し、舌へと絡み付く。
顔を離せば、涙に濡れた頬は朱に染まり、はにかむような乙女の装い。
余韻に浸りうっとりとする彼女を再び抱きしめると耳元に口を寄せ、津波のように押し寄せる自らの欲望を囁きかけた。
「リリィを抱きたい」
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