19.心の持ちよう
「またここか」
気が付くと真っ暗な闇の世界にポツンと立っていた。ここは夢の中、目が覚めると忘れるくせにその事はすぐに認識出来た。
仕方なくお決まりの光る木を探して走って行くと……見えて来た、見えて来た。
真っ暗な闇の中にある唯一の灯り。結構走ってるつもりだが、なんだか歩いていても変わりがないくらいに近付くのが遅い。
それでも早く辿り着きたい衝動に駆られて急ぎ気味に走り続けると、光る木の前に立っている黒い人影が目に入る。
「朔羅!」
思わず叫んでしまった。
確かにここに来た時から彼女に逢いたいという気持ちが湧き起こり逸る気持ちから走り出したのだが、名前を叫んだ後で自分で自分に驚いた。
──俺ってそんなにまで朔羅を求めていたのか?
微笑みながら大きく手を振る朔羅は、じっと俺が到着するのを待ってくれている。
やっとのことで辿り着き朔羅を抱き抱える。なんだかまた成長しているようで、つぶらな瞳の可愛い顔も幼さの中に美しさが表れ始めていた。
「お前また大きくなったのか?成長早くない?」
「何よぉっ、大きくなったら駄目なの?レイシュア、もしかしてロリコン?幼い僕が好みなの?」
プクッと膨れる朔羅はやっぱり可愛い。思わず頬にキスをするとくすぐったそうに、だが嬉しそうにしてくれたのだが、なぜか不満気な顔になり目を瞑ると、んっと唇を突き出してくる。
しょうがないなぁとにやけつつチュッとしてやるとニヘッと笑ってくれた。その顔もまた可愛くてついつい力が入ったまま頬ずりをしてしまった。
「レイシュア、もう少しだよ。もう少し大きくなったら僕を抱いてね。約束だからね?」
朔羅の腕が首に絡みつき、俺の気持ちを確かめるかのようにジッと見つめている。間近で見る黒い瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えると同時に朔羅が顔を寄せて唇を重ねて来た。
小さな舌が唇を突つき、それを受け入れれば甘い吐息が漏れる。怪しく蠢く舌を堪能していれば俺の我慢が効かなくなってくる。貪るように朔羅の口の中を蹂躙すると口を離し首筋に何度もキスをした。
「ちょっ、駄目だよ……んんっ!レイシュア待って!んはぁぁっ……」
首筋から鎖骨へと夢中になって順番に下って行き、服へとかかろうとした時になってようやく甘い吐息に混じり朔羅の止める声が耳に入った。
「ご、ごめん。つい……」
目を合わせれば真っ赤に染まった顔で呼吸の乱れを治すように大きく息を吐き、微笑みを浮かべてキスをくれた。
なんで急にこんな気分になったんだろう?眠る前、裸の女性を見たからか?それとも変な考え事をしていたからか?
「ばか……もう少しの我慢よ。でも僕を求めてくれるのは嬉しいかな。浮気しちゃ駄目だからね、いい?僕のレイシュア」
再びくれた朔羅のキスで俺の意識が遠くなって行く……またしばらく朔羅とはお別れか。
それにしても浮気って?
でも、そんなこと言われたってモニカは俺の婚約者だぞ?あぁ、サラも婚約者だったな……。
▲▼▲▼
「お兄ぃちゃんっ、お兄ちゃんってば!」
珍しく寝坊したらしく目を開けば朝日が眩しかった。目の前にはペタンと座り込み俺を起こしに来たモニカの姿。なんとなくモニカとキスがしたくなり ガバッ と起き上がり抱き付くと前触れなしに唇を重ねた。
「んーっ!んーっ!」
珍しく止めてと俺の胸をトントンと叩き抗議が入る。モニカが嫌がるなんて珍しい……というか初めて?
仕方なしに顔を離せば何故か視線を下に逸らして照れるモニカ──おや?今日はどうしたんだ?
ふと視界に青い影が見え、目を向けてみれば雪の青くクリクリした瞳が俺達の様子をジーっと見ていた。
なんだ、そういうことか。
「トトさまとカカさまは仲がよろしいんですね。安心しました」
無邪気に微笑む雪には苦笑いしか出てこない。仕方なしに雪を抱き寄せオデコにチュッとキスをして誤魔化す。
「朝御飯は食べた?」
「はい、コレット姐様が美味しいスープを下さいましたので沢山頂きました」
よしよしと頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めてくれる。
──なんて可愛いんだっ!
思わず抱き上げるとモニカと手を繋ぎ馬車へと歩き出した。
馬車はすでに出発の準備を終えて俺待ちだったようだ。コレットさんに「ごめん」と謝ると不思議そうな顔をしていたが気にせず馬車を発車させた。
走り出したところでコレットさんがサンドイッチをくれたので遠慮なく頂く。気を遣わせてすみませんなぁ。
「あのっ!助けて頂いてありがとうございました。それに私達に気まで遣わせてしまって……すみません!」
馬車の奥から届く聞きなれない声。ん?そういえば女性が二人居たなと思い出し、コレットさんに手綱を渡すと馬車の中に顔を覗かせた。
あの時はあまり見ないようにしていたが、こうしてみるとなかなかの美人さん二人。スタイルはとても良かった……おっぱいがね、おっぱいが……すみません、少しだけ見ちゃいました。仕方ないだろ?あの時は裸だったんだから!
「言い方悪いけど、ついでだったから気にしないでいいよ。君達の方が災難だったね。リーディネまでは送って行くからそこからの身の振り方は考えておいてね」
言いたいことだけ言うとなんだか顔を合わせるのも悪い気がして彼女達の顔すらろくに見ずにすぐ前を向いて座り直した。
「そこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ。レイ様が悪さしたわけではないでしょう?」
コレットさんがフォローしてくれるが、違うんだ。
「なんて言うか、その……男ですみません」
「ぷっ、あはははははっ。レイ様、それは無いでしょう?あはははははははっはははっはははっハァハァハァ、あぁ可笑しっ」
一瞬の間の後、目の端に涙を溜め思い切り笑うコレットさんはなんだかとても新鮮で可愛く見えた。きっとこれが彼女の素なのだろう。
珍しいコレットさんの大笑いに何事?と馬車の入り口を閉ざすカーテンから亀の親子のように縦に並んで顔を出すサラ、モニカ、雪。君達座ってないと危ないぞ?
「レイ様はこの世の全ての罪を背負うおつもりなのかしら?」
「い、いや。そうではないけど……さ」
「それなら無闇矢鱈と罪の意識に追いやられるのはどうなのかしら?レイ様が犯した罪ならまだしも、それを罰した立場でしょう?何故貴方が罪の意識に苛まれているの?これほど可笑しなことがあるのかしら?それとも、私を笑い殺す気でいらっしゃるの?」
目の端に溜まった涙を指で拭いながら未だにヒーヒーと笑いが込み上げている様子。そこまで可笑しなこと言ったかな……。
「二人とも貴方に感謝はすれど、恨むなんて事は絶対にないですよ?」
「うん、まぁそうなんだろうけど……ね。わかったよ、俺が間違ってた」
「あ、雪ちゃんっ」
モニカの声がしたと思ったら俺の背中に小さな手がかかり、次の時には膝の上に何者かが滑り込んでくる。
「トトさま、お姉ちゃん達は殺されなくて良かったと、とても感謝してました。トトさまは良い事をしたのですよ。胸を張ってください」
下から見上げる青い瞳はとても綺麗で、太陽の光を浴びて キラキラ と輝いていた。
俺は頷くと雪の頭にポンポンと手を置き感謝の意を伝える。確かに二人の言う通りなのだか、何故か知らないが俺の心にひっかかるんだよ。まぁ、なるべく気にしないようにしておこう。
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