27.意外に素直だな
翼を生やしたトパイアスよりは遥かに速度の出る風魔法による飛行は闘技場の上空を飛び回るレッドドラゴン達の比ではなく、俺を狙って吐き出される炎のブレスは擦りもしない。
例え向こうが殺すつもりで襲ってきたからと言っても、わざわざ遠回りまでして何かしらの交渉に来た相手方を返り討ちにするわけにはいかず、一匹ずつ追い付いては人間の頸椎に当たる首根っこに返した刀……つまり刃の無い背中部分を打ち込むと一撃で気を失い真っ逆さまに落ちて行く赤いトカゲ達。
「おいっ!このままじゃただやられるのを待つだけだっ、アレやるぞ!!」
俺が意図的に作った闘技場の半分を占める気を失ったレッドドラゴンの山へとまた一頭追加されると、ゆったりと羽ばたく翼が触れるかと言うほどに近付いた三頭が首を伸ばし合い、息を合わせて同時にブレスを吐き出した。
螺旋状に回転を始めた三本のブレスはやがて一つと成り攻撃対象である俺へと到達するので、ちょっとした大技に興味が湧いたのと避けてしまうと下に被害が及ぶと判断して無限氷壁を展開する。
「「「!!」」」
サラマンダーの収束砲を真似たつもりかは知らないが、三つのドラゴンブレスの合体技なのにも関わらず彼女達が三人で放った収束砲とほぼ変わらないくらいの威力に落胆しながら氷壁を盾に無理矢理距離を詰めると、ブレスを吐き終わった三頭を叩き、地上に築いたレッドドラゴンの山へと順番に沈めて行った。
「おいおい、こりゃなんの遊びだ?別にお前等が何処で何をしようが勝手だが、竜化までするとはおままごととは違うようだな」
ノンニーナを肩に乗せてララとアリシアを引き連れたギルベルトが闘技場に現れたのは自分だけ逃げようとする最後の一頭に狙いを定めた時だった。
「ひぃぃぃぃっ!たっ、助けてくれぇ!!」
仲間がやられたからと言って一人だけ逃げようとは酷い奴だ。せめて一矢報いてやるとかそう言う気概が無い事に、レッドドラゴンという大層な名前の種族なのにチンピラやゴロツキのような者がいるのかと溜息を吐きたくなる。
それでも逃すわけには行かずに追いかけ回していると、数が居た為に時間をかけ過ぎたせいか、ボコボコにした筈の赤い鎧のアイツが地面に手を突きヨロヨロと立ち上がろうとしているのが目に入る。
「大人しくお友達のところで、寝てろっ」
「ぅが……」
三十頭目のレッドドラゴンに白結氣を打ち込んだところで、お勉強の続きをすると言って姿を消したセレステルとクラウスが慌てた様子で闘技場へと走り込んで来ると、地を這うトパイアスと積み上げられたレッドドラゴンの山という惨状に目を見開いた。
「こっ、これは一体……」
「おいっ!!トパイアス!?」
上空からの急降下の勢いに回転による遠心力が加わった上に、純粋に強さだけなら尊敬に値することに敬意を評し、再び取り出した極少量の火竜の魔力による身体強化を施すと全力で朔羅を振り抜いた。
フラつきながらもようやく地面から手を離した所に、無防備に晒された首への一撃が決まり、地面を抉って半身が埋まれば ピクリ とも動かなくなったので気を失ったのだろう。
「楽しかったぜ、おやすみ」
強靭な肉体へと変貌を遂げた奴の事だ、あれだけの打撃を与えても死ぬ事は無いだろうと勝手な解釈で締め括ると、ギルベルトへの言い訳はどうしようかと他の事に頭が回り始める。
その時だ、鬼気迫る怒り顔で観客席を飛び出した一人の男がいた。
「てめぇっ!!トパイアスをよくもぉっ!!!!」
使ったことがあるのかと疑問に思うほどピカピカに磨き上げられた巨大な剣を腰の鞄から直接引き抜き軽々と振りかぶるが、戦闘の熱の冷めやらぬ今の俺からすれば準備運動もなければ竜化すらしていないクラウスなど、どれだけの気合いを入れようとも味気ないモノに見えてしまう。
「ぅぉおおおぉぉおぉぉおおっ!!」
それでも巨大な鉄の塊を重さを感じさせないほどの速さで振り抜いたのは三強の一人だと聞いた彼の実力の片鱗なのだろう。
俺とて人に言えることではないが、怒りに任せてその場凌ぎで剣を振るうのではなく、さっさと竜化したトパイアスのように最初から全力で来ていれば違う結果が残ったカモしれない。
「っ!?」
降って来る巨塊を受け流し、派手な音と共に地面を抉った所を白結氣で抑え込んだまま背を向けて一回転すると、勢いの乗った朔羅をクラウスの背後に叩き込めばトパイアス同様に地面へと突っ伏す事になる。
「くそ……ぅぐっ」
直ぐに起き上がろうとするクラウスの背中を片足で踏み付けると、それ以上動くなと言う意味を込めて首筋へと白結氣を沿わせた。もちろん危険を伴うので刃は逆向きにして、だが、その意図を分かったクラウスは唇を噛みしめながらも素直に従う事にしたらしい。
「悪い、ギルベルト。売られた喧嘩を買っただけとは言えこれだけやらかしたんだ。アリシアとの話し合いは決裂か?」
「はーっはっはっはっはっはっっ!」
観客席で腕を組んで見ていたギルベルトは突然大声で笑い出すとそのまま歩き始め、途中、レジナードと呼ばれていた銀髪をチラ見するが奴はヒラヒラと手を振って『俺は関係ない』とアピールしている。
その場に居合わせる全ての注目を一身に浴びてモニカ達の居る観客席の一番前まで来ると、キョトンとするサラの肩に手を置いてニヤリとしやがったので『俺のサラに触るな!』と心の中で叫びながら平然とした顔を崩す事なくその様子を見守っていたつもりだが、クラウスを踏みつける足が意図せず グリグリ 動いていたのは気のせいだろう。
「癒し姫、すまんがあの馬鹿共を起こしてくれんか?」
ギルベルトが指差すのは俺が精魂込めて……はいないが、先程作り上げたばかりのレッドドラゴンの山。
コクリと頷いたサラは癒しの魔力を練ると空気を撫でるような優雅な仕草で手を伸ばし、遠く離れた目標物へと魔力を飛ばした。
「ぅぁ……あ?あれ?」
「俺達、どうなったんだ?」
「いたたたた……って、痛くない?」
暖かな光に包まれた赤い山は一旦光が収まると今度は赤い光に包まれる。
すぐに収まる光の後にはキョロキョロと不思議そうに周りを見回す三十人の男達。
だがギルベルトがいる事に気が付くと、見てはいけない物を見たかのように目を逸らしたので良くない行いをした意識はあるようだと思ったとき、すぐ近くで地面に埋まったままだったトパイアスが突然顔を上げたのでびっくりした。
「くそ……この俺が完敗かよ、くそっ……」
「いや、そうでもないぞ?一歩間違えれば立場は逆だった、いい勝負だったと思うぞ?」
「うるせぇ、どう言葉を並べても負けは負けだ。竜化までして人間なんぞに負けたとあれば一族の笑い者だな、チッ」
「なんだよ、トパイアスのクセに負けた事をやけに素直に受け入れるんだな」
胡座を描いて座るトパイアスが悔しそうな表情でボリボリと頭を掻くと、踏ん付けていた足を退けた事で同じく座ったクラウスの茶々にそっぽを向いた。
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