18.再開と再会
「だぁーーーーーーっ!わぁーった、わぁーった!俺の負けだよ。二十年経った今でも衰えぬお前の美貌に惚れ込んだ、そう言えばいいんだろ?くそっ……俺様にそんな事を言って許されるのはお前くらいだぞ。
もういいだろ?お前との話は終わりだ。今は女より男の気分なんでな、分かったら怪我をする前にそこを退け」
一度こっちを見たアリシアは再びクラウスに向き直ると、口に手を当てワザとらしく目を丸くする。
「女より男ですって!?あらやだ……長く生きると段々おかしくなって行くのね。不老不死とか憧れた時もあったけど、変態さんになってまで生きたくないわねぇ」
観客であるサラマンダー達に大きくも静かな騒めきが拡がりヒソヒソ話がヒートアップし始めると、俺と戦いたいばかりのクラウスとて無視する事は出来なかったようだ。
「おいっ!そういう事じゃないのは分かってるだろ!?喧嘩売ってるのか?いい加減にしないとお前と言えども容赦しないぞ?さぁ、そこを……」
「ひゃぅっ!?!?」
またしても邪魔が入りとうとう青筋を浮かべたクラウスだったが、眉間に皺を寄せ「大概にしろ!」と睨みつけるつもりで動かした視線は常識を逸脱する光景に大きく見開かれる事になった。
「ちょっ、モニカっ!?何考えてるの?やめなさいって!!」
身を捩り逃れようとするサラを背後から拘束しつつ、サラマンダー達には遠く及ばないが、彼女の豊かな胸が作る谷間へと手を滑り込ませたモニカ。
「あれれ?無いよ?」
何かを探して胸を弄る手に翻弄されながらも振り解こうと身を揺するが、獲物に絡みついたタコのようにモニカの強靭な束縛からは逃れること叶わなかった。
「無いって何が……」
「サラのおっぱいって大きいよね。どうしたらこんなになるの?」
何を探していたのかは知らないがソレがない事を知ると、解放するかと思いきや標的を変え、服の中から外から御構い無しにサラの胸を揉み始めたではないか!
「あっ……止めなさい!モニカ!!ちょっと!あんっ……お願い、止めて……はぁんっ」
なんの前触れも無く始まったモニカの奇行にその場にいる全員の視線が集まる中、背中に飛び乗り自分の欲求に従って容赦無い攻めを続けているが、訳もわからず餌食となったサラからしたら堪ったものではないだろう。
(貰った後、お兄ちゃんとの間接キス、楽しんでたよね? あの笛、何処にやったの?)
「!!!!!!」
満足したからなのか、おんぶの姿勢はそのままに服から手を引き抜いて動きを止め、今度は耳に手を当てたモニカが何やら囁くと、女ばかりとはいえ大勢の前で辱めを受けて紅潮していたサラの顔がもう一段赤くなる。
「なっ、何の事だかサッパリ分かりませんわ!」
「ふぅ〜〜ん。隠せているつもりだったの? サラの性格と態度からすれば……」
「わーーっ!わーーっ!わーーっ!思い出しただけで恥ずかしいからそれ以上言わないでっ!アレなら鞄に入ってますっ!!」
「っっ!!」
背中にしがみ付いたままサラの取り出した鎖に繋がれた銀色の小さな筒を見ると「てっきり首からぶら下げてると思ってた」と笑いながら軽い感じで指をさしたが、動揺と言う言葉が相応しいほどに劇的に表情を変えたのはクラウスだった。
「おいっ!銀髪……うっ……」
モニカに言われるがままに笛へと思いっきり息を吹き入れたサラだったが、貰った時同様、音が鳴っている様子はない。
しかし、クラウスだけが眉間に指を当てて頭を軽く振る姿に『奴等にしか聞こえない笛なのか』と少しだけ納得するが、取り出した剣を置き去りに肩を揺らしてサラへと近付く男に只ならぬ気配を感じた。
「止まれ!それ以上近付く事は許さない」
サラの前に立つと持っていた白結氣を向けてクラウスを止めようとするがあっさり無視される。突き付けた鞘尻が奴の胸に当たった所でようやく足を止めると左手で掴まれた。
「女、何故ソレを持っている?何処で手に入れた?誰から奪った? 今ここで殺されたくなかったら正直に答えるんだ」
背中越しに感じる視線が「どうする?」と聞いてくるが、俺に任せて答えるつもりはないようだ。
「コレが何なのか知っているのなら言わなくても分かるんじゃないのか?」
「答えたく無いのであれば別に構わんさ。但し、それはお前達が持つに相応しいモノではない。今この場で謝罪と共に返すと言うのであれば、心の広い俺様だからこそ穏便に済ませてやると約束しよう」
レッドドラゴンは最強の種族と謳われるだけあり個々の能力が非常に高いという話。そういう理由なのは理解出来るが、ここに居るサラマンダー達のボスであるリュエーヴよりも目上の存在のようだ。
だがそれはサラマンダー族と奴との事情で俺達には関係の無い事。自分に自信があるのは結構な事だが、完全に見下されているのは正直カンに障るというか、遺憾であるというか……平たく言えばムカつく。
「コレはサラが貰ったモノだ。サラの物をお前に返すなど道理が通らない。それでも尚コレが欲しいと言うのであればお前が頭を下げるべきだろう?」
「……何?」
「レイ君!駄目よっ!止めて頂戴」
奴から溢れ出した殺気を感じ取りもう止まらないと理解しながらそれでも叶うならばと制止を試みたアリシアだったが、白結氣から手を離し一歩退がると地面に刺した訳でも無いのに上手い事立っていた巨大な剣がひとりでに宙を舞い、伸ばした奴の手に収まった。
「お前、誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか?」
「さぁ?誰だろうと関係ないだろ。自分の婚約者に手を出されるのを黙って見てる程お人好しではないんでな」
「ハッ!婚約者ねぇ、随分と綺麗どころに囲まれてるが女に現を抜かす野郎がこの俺に勝てるとでも思ってるのか?俺は世界最強種レッドドラゴンの中でも三強に数えられるほど強ぇぇぞ?その俺に逆らって生きていられると……思うなよっ!!」
巨大な剣を一息で抜き放ったクラウスから感じる闘気に、自分に楯突く者へ向けられる怒りがひしりしと伝わる。
こうならないようにとお膳立てをしてくれたアリシアは溜息を吐いて視線を晒してしまったが、後で怒られるんだろうなと思いつつもレッドドラゴンの長だと言うギルベルトとどっちが強いのだろうと好奇心が芽生えてくる。
俺の好奇心に薄々気付いたらしく “しょうがない者を見る目” をしたモニカへと抱き上げたばかりの雪を名残惜しく思いながら渡すと、その気持ちからプニプニとした柔らかほっぺへと手が伸びた。
「もぉっ。お兄ちゃんは私と雪ちゃんとどっちが大事なの?」
自分にはないのかと微笑みながらも頬を膨らますモニカの髪を撫でて「どっちもだよ」と笑顔を返すと、お決まりの如く、ティナもエレナもサラまでもが何か言いたげな顔で俺を見てくるのでみんなの愛を実感させてもらった。
「俺はみんな事を等しく愛すると誓った。だから誰が一番とかは無いよ、みんなが一番だ」
その言葉で満足してくれた五人の笑顔は俺の力の源だ。
俺達のやり取りを何も言わずに待ち続けるクラウスは実は良い奴なのかもしれないが『早くしろ』と言わんばかりに苛々した様子で小刻みに足をトントンしている。
これから戦闘になるというのに肩に座ったままでいるヘルミに退いてもらおうと首を回せば、空を見上げたままスクッと立ち上がり、机だとでも思っているのか、人の頭をぺんぺんと叩き始めた。
「来たよ」
小さくも信じられないほど良く通る声はクラウスにまで聞こえたようで「あ?」と眉を寄せたが、そのすぐ後には言葉の意味を理解させられるソレに気付いた俺達同様空を見上げる事となった。
その場にいる全員へと影を落としたのは一頭のレッドドラゴン。
地面に降り立つ直前で翼を一煽りしてわざわざ風を巻き起こしてくるので自分達の周りに風の魔力を散らして相殺してやると『ざまぁみろ』と鼻で笑ってやる。
「あの時より更に力を付けたようだな、暫くぶりだ、闇の皇子」
現れたレッドドラゴンはゴツゴツとした強面な厳つい顔ながらもそれが機嫌良さげな笑顔だと分かる雰囲気を纏わせ、こちらに向けて馴れ馴れしく言葉を発して来た。
クラウスより二回りは大きな三十メートル級の巨体を持つコイツは先程思い出していたレッドドラゴン族族長ギルベルト。
恐らくララの指示だとは思うが、モニカが連れて来たサラが吹いた銀の笛は『何かの時に』と渡されたギルベルトを呼び寄せる為のモノだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます