12.棚ぼた報酬の確約
順番にお風呂に入り、サッパリして落ち着いたところで朝ごはんを食べる。もちろん一緒に捕まっていた女の子も一緒だ。
「お前等の事は分かった。俺の方はだな……日が暮れても、ちっとも帰ってこない馬鹿共がいてな。しょーーーっがないんで森まで探しに行ってやった優しい優しい兄貴なんだけど、森の中を一人で探すなんて到底無理だろ?それでも走り回っていたんだが、そこにあの残念兎が来てよ、俺をあの場所に連れて行ったってことだ。お終い」
「なんであの残念兎は俺達の居場所を知ってたんだ?なんか聞いてないの?ミカ兄」
「それな。なんでも剣が打つかる音が聞こえたんだとよ。見に行ったらお前等が戦っててどうしようと思ってたら、俺が走る音がしたから呼びに来たって言ってたぞ?頭おかしいな上に変態なんだな、どんな耳してんだか。まぁ、今回はあいつのおかげで助かったがな」
音が聞こえた!?静かだとはいえ広大な森の中、すっげーなあの残念兎。でもミカ兄を連れて来てくれてマジ感謝だわ。ミカ兄がいなかったら死んでたもんな……。
それはそうと、あと一つ問題があった。
「それで、だ。そのお嬢ちゃんは誰なんだ?」
皆の視線がサンドイッチをハムハムしていた女の子に集まる。え?私?みたいな顔してるけど、君の番だよ。
「えっと……まずは助けて頂き感謝いたします。私の名はティティアナ・カミーノ、五日ほど前になるのでしょうか?町を散策していたらあの者達に誘拐されてしまったのです」
「町中で誘拐とは大胆だな。喋り方といい仕草といい、お前さんは貴族の娘だな?」
「よくわかりますね。私はレピエーネという町を統治するカミーノ家の娘です。
あの……皆様に折り入ってお願いがあります。私を家まで連れて行ってもらえませんか?きっと父も心配してるはず、なるべく早く無事な顔を見せてあげたいのです」
薄紅色の瞳を憂いで陰らせるティティアナ。貴族の娘さん、きっと箱入り娘なのだろう。家族と離され遠い町に一人きりにされては不安になるのも頷ける。汚れてしまった服は替えられ、今はリリィのを借りている。乱れていた髪も整えられ、オレンジのショートボブが活発そうな印象を与えるが、残念ながらその表情には元気がない。
娘が居なくなってしまい親父さんもさぞ心配だろうな。俺の母さんは元気にしてるだろうか?急に心配になってきた。
「ミカ兄……俺は出来れば送って行ってあげたい。レピエーネって遠いのか?」
「隣町だからな、馬車で四日ってとこだ。捜索依頼とか出てるかもしれねーから取り敢えずギルドだな。連絡だけならギルドを通した方が早いぜ?その後の事はまた後で相談だな」
食事が終わり、何はともあれ眠る事にした。昨夜から寝ていないし、いろいろあり過ぎて精神的にも疲れが溜まっている。
ミカ兄が借りっぱなしにしている部屋、いつものように横になり床で眠る。ティティアナはお嬢様でお客様なのでベッド、その代わりミカ兄は俺達と一緒に雑魚寝だ。横になるとすぐに睡魔に襲われ、五秒と経たずに意識が遠退いた。
昼くらいには起きる予定だったのだが、起きてみたら日が傾きかけていた。みんなまだ寝てる、と思ったら、ティティアナはベッドに座り窓の外をぼーっと眺めていたのでその横に腰掛ける。
「起きましたね、よく眠れましたか?」
向けられた薄紅色の瞳が優しい光を反射している。昨日はあんな状況だったからまともに向き合っていなかったが、ほころんだ顔はとても可愛い。
ぱっちりした目、高くはないがはっきりとした小鼻にバランスの整った形の良い桃色の唇。まだ幼さの残る顔立ちながらも綺麗という言葉がよく似合い、身に纏う穏やかな雰囲気が彼女を大人びて見せる。リリィも負けず劣らずの可愛さではあるが、これで俺達と同じ十歳だというから貴族ってすげーって思う。
「流石に寝過ぎた、一日が終わっちまうよ。ティティアナは体調どお?あんなとこに長い時間捕まってたんだから、何処か調子悪かったりしない?」
「大丈夫ですよ」と笑うティティアナだが、すぐに暗い顔になった。遠慮して言わないだけでどこか調子悪いのか?
「助かりはしました……でも、その為に貴方が怪我を……ごめんなさい」
腫れ物に触るようにそっと触れる俺の腕、盗賊に斬られた左手は包帯でグルグル巻きだ。
「あぁこれ?大丈夫大丈夫。大した事なかったし、俺が弱かっただけだからさっ。ミカ兄みたいに強ければ怪我なんてしなくてもパパパッとやっつけられたんだけどなぁ。まだまだ頑張らないとってことだな。ティティアナのせいでもなんでもないから気にするなっ」
「でも……ごめんなさい」
まったく悪くないティティアナに謝られても返答に困る。左手にそっと触れたまま俯く彼女は、今にも泣き出しそうだ。まだ精神的に不安定なのかな?まぁ、あんな事があれば仕方ないわな。
「みんなを起こしてギルドに行こうぜっ、親父さんに連絡するんだろ?」
オレンジ色の綺麗な髪を撫でてあげるとビックリしたのか、急に顔を上げたかと思いきや目を丸くして俺を見つめる。夕日に映る彼女の顔が少し赤い。あれ?何か悪いことしたかな……
「おおーいっ、みんないつまで寝てるんだ?もう夕方だぜ?腹減ったよーーっ!飯行こうぜ、飯っ」
「ご飯?」とむっくり起き上がるリリィ。頭はまだ寝てるのか、寝ぼけ眼で周りを見渡す仕草が可愛い。アルもミカ兄も起きた。
「んぁ〜、よく寝た!っつか寝すぎたな。夕方じゃねーかよ。イチャイチャしてないで起きてたんならさっさと起こしやがれ。ギルド行くぞっ、早く行かないとミーナが帰っちまう」
イチャイチャってなんだよ……なんか俺、怒られた? ミーナちゃんいなくなる前に早く行こう。
ギルドに行くとミーナちゃんはいつもの受付に座り暇そうにしていた。俺達が顔を見せると奥の個室へと案内してくれる。
四人掛けのソファーに座る俺以外。あぶれた俺は……簡易的な椅子が部屋の隅にあったので勝手に持ってきて座る。仲間ハズレは寂しいが定員オーバーなので仕方ない。
持ってきた椅子はソファーより座る位置が高い。リリィの後ろに陣取ると俺の胸あたりに彼女の頭がくるので、金色の糸のようなサラサラの髪を弄って遊んでみる。
毛先をリリィの鼻の下に……
「はい、お髭っ」
「ちょっと!何してんのよっ」
リリィの眉間にシワが寄る。
ティティアナは吹き出しそうなのを堪え、口に手を当て笑いを押し殺していた。うん、良いねぇ〜。
今度は頭の上に二つに分けて乗せてみる。
「はい、鬼の角っ」
「やめなさいったらっ!」
振り向いて抗議するリリィは頰を膨らましている──が、あんまり怒ってる感じではない。
自らの手で口元を塞ぐティティアナの目尻には、堪えきれない笑いで溢れた涙が光る。そんなにも面白いのか?ならば……
両手でむんずっと後ろ髪を束にすると頭のてっぺんに「はい、ふんすい。わさわさ〜っ」
よりリアルな噴水に見せるため、ゆさゆさと揺らして水の流れる様子を再現してみせる。
「はぁ……もういいわ、好きにしなさいよ」
ため息まじりに呆れ顔で言うが、頬が綻んでいるのは何故なんだ?リリィ、実はもっとやって欲しいのか?ティティアナは笑いが堪えきれず、とうとう声が漏れ出してしまっている。
そのタイミングで扉を開けたウィリックさん。噴水をしている俺を見て「何してんの?」って顔で固まってたので、更にわさわさを増量してアピール。
「君達は仲が良いな、羨ましい限りだよ。
それで現状ね。朝、ミカルから報告を受けて事実確認を行い、盗賊団 《スネークヘッド》の壊滅を確認した。あの逃げ足の速い奴等を完膚無きまでに叩き潰してくれたこと、ギルドマスターとして感謝する。
奴等は誘拐、強盗、殺人、何でも有りの凶悪な組織だったんだがボスが頭のキレる奴でね、巧妙な手口で何年も尻尾を掴ませてくれなくて此方も手をこまねいていたんだよ」
そんなに凄い奴等だったのか……でも、俺達でも倒せるくらい弱かったぞ?それにしてもミカ兄は、いつの間にウィリックさんに報告してたんだろ。
「俺も以前、奴等を取り逃がしててな。今回、全部ぶっ殺せてスッキリしたよ。お前等、お手柄だったな」
ニカっと良い笑顔を浮かべるミカ兄。へへへっ、褒められたぞ!
「スネークヘッドに関しては、また後日で申し訳ないが報奨金が出る。楽しみにしててくれ」
まじかっ!やったぜっ!捕まった時はもう駄目かと思ったけど、終わってみたら報奨金、ラッキーっ!でも、本当に生きるか死ぬかだったな。たまたま運が良かっただけ、次は実力で報奨金をもらうぞっ!
「それで、そちらのお嬢様だが……」
話の矛先を向けられ緊張したのか、姿勢正しく座っていたティティアナがさらに ピシッ と背筋を伸ばす。俺達とは違う凛とした姿を見ると良いとこのお嬢様なんだなぁってしみじみ思う。
「今朝、カミーノ家には連絡を取らせてもらった。失踪事件で大騒ぎしていたようだが、安否と所在が分かりひと段落したようだ。ゆっくりで良いから落ち着き次第、家に戻るようにとのことだ。
当主からの要請で、家までの護衛は君達にしてもらう事となったが良かったよね?貴族からの指名依頼だからね、報酬はたっぷり出るよ?」
ニヤニヤするウィリックさん、そんなに金が貰えるのか!?って、金なんて貰わなくても連れて行くけどな。いまさらティティアナを放り出すわけないじゃない?だって、やり出したことは最後までやらないと、だろ?
護衛依頼を了承するとウィリックさんが立ち上がった。これで話は終わりのようだな。
「報奨金の方は明日の午前中には用意をしておくよ。駆け出しの君達にとっては結構な額になるからね、何に使うか考えておくといいよ」
軽く片手をあげ笑顔で出て行けば、部屋に残されたのは俺達のみ。三人顔を見合わせて頷くと、思いっきり手を挙げて喜びを表現した。
「「「やったーっ!」」」
「ミカ兄!やったねっ。何に使う?パーっと美味い飯でも食べようぜっ!あぁ、でも武器も無くなっちゃったから買わないとだなぁ。どうしようどうしようっ」
「ぷっ!お前ら浮かれ過ぎだぞ?まぁ初めてのでかい仕事の後だ、飯食って飲んで騒ぐに限るな。取り敢えず今夜は俺の奢りだ。お前等の華々しいデビューだっ!さっさと飲みに行こうぜっ!」
ミカ兄もすっごく嬉しそうな顔をしてる。俺は立ち上がりティティアナに手を差し出した。
「行こうぜっ!お腹空いてるだろ?何食べたい?」
「え、でも……わたしは」
「一緒に奴等から逃げ延びた仲間だろ?ほら行くぞっ」
「仲間……わたしが、仲間……」
見上げるティティアナは不安そうな顔、『私も良いの?』みたいにどこか迷ってる感じだ。構わず手を引っ張り立たせると、腰に手を回し歩みを促す。
「飯、行ってみよーっ!」
握り拳を振り上げ戸惑うティティアナを引き連れ、半ば強引に歩き始めた。彼女の顔が真っ赤になってるのは気のせいだろう。
「ティティアナはお酒飲めるの?」
適当に話しをしながら食堂へと連れて行く。小難しいことなんて考えなくていいんだよっ!やりたい事やろうぜ?俺はみんなと、ティティアナとも飯が食いたい。だって生死を共にした仲間だからっ!
共に生還したんだ、今生きていることを一緒に祝おうじゃないか!
▲▼▲▼
「なぁ、あいつ……女口説くの上手いな。いつからあんなんになったんだ?」
部屋から出て行く二人をジト目で見るミカル。
「私が知るわけないでしょっ!」
ムクれ顔に怒り足で床を踏みしめ ドスドス と派手な音を立てて歩き始めたリリィ。
「そうか、ああいう手もあるんだな。覚えておこう」
顎に手を当て何やら頷くアル。
三者三様、個性的な人間模様だね。
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