6.狼に食べられた羊
心地良いお風呂に一日の疲れを流した後、ベッドに座り白結氣を眺めていた。月明かりが差し込むだけの暗い部屋、淡い光を放つ刀身はいつ見ても幻想的で綺麗だ。
不意にユリアーネの笑顔が頭を過る。ジワリと目頭が熱くなり涙が溢れた。目を閉じるとそこには俺に向かい微笑むユリアーネ、ハッキリと見える彼女の姿に胸が痛みを訴え始める。ドクンドクンと鼓動が響く度に波紋のように広がっていく痛み。
「レイさん、寝てしまわれましたか?」
ノックと共にモニカの声が聞こえればユリアーネの姿は掻き消える……泣いていちゃ駄目だな。
涙を拭いながら返事をすれば、少しだけ開いた扉の隙間から恐る恐ると言った感じに覗き込んでくる。
「あ、ごめんなさい。お邪魔でしたか?」
俺が持つ白結氣を見て察してくれたのだろう。「大丈夫だよ」と言えば薄暗い部屋へと滑り込み静かに扉を閉める。
「何回見ても綺麗ですね。柔らかくて暖かな、不思議な光」
部屋の中、ましてや当主の娘の前で武器を抜いて良いはずはないのでそっと白結氣を鞘に戻すと俺の好きな チンッ という音が響く。
「何か用があった?」
俺の隣に座り見上げるモニカは、寝間着なのか、肌着一枚のようなセクシーな格好に目のやり場に困ってしまう。
「泣いてたんですか?」
げ、なんでバレた?涙は拭いたはずだぞ。男の涙なんて恥ずかしいだけじゃないか。女はいいよ?泣いてても可愛いから。男はみっともないだけで駄目でしょっ!
「目が真っ赤です。涙だけ拭いてもすぐバレますよ……理由、聞いちゃダメですか?」
以後気を付けます……理由、か。俺を見つめるモニカを見る限り、興味本位って訳でもないらしい。大体察しは付いているだろうしこんな話し聞いても楽しくもないと思うんだけど、それでも聞いてくるってどういうことなんだろう?
指輪が見えるようにとモニカの前に左手を広げだ。
「俺には嫁さんが居た。俺達は二人共冒険者だったんだ。そしてこの白結氣は嫁さんが持っていたもの、つまりそういうことだよ。
それよりなモニカ、こんな夜更けに男の部屋に一人で来るってどういうことか分かってるのか?」
自分が悪いんだが泣き顔なんて恥ずかしいもの見られた。お返しにちょっと脅かしてやろうと思い、襲いかかる真似でもしてやろうと両手を挙げればポロポロと流れ落ちる涙が目に入ってしまい動きを止めた。
「え、えーっと、あの……モニカさん?どうされましたかぁ?俺、知らない間に何かしました?」
力強く首を振るモニカは両手で顔を抑えて嗚咽まで漏らし始めた。ますます混乱する俺は取り敢えず泣き止ませさせねばと焦り、肩を抱いてみた。すると俺の肩に寄せるようモニカの頭が倒れてきて嗚咽がより一層伝わってくる。
「モニカ?大丈夫?何処か痛いの?」
フルフルと首を振るモニカの頭を撫でてやる──というか、俺にはそうすることしか思いつかなかった。
いったいどうしたというのだろう?俺が狼の真似をしたからか?そんなに怖かったのか?
「モニカごめん。俺、何したか分からないけど、ごめん」
「違うっ、違うのよ……レイさんが可愛そうだと思ったら涙が出てきちゃったの、私こそゴメンね。奥さん亡くなって辛いのに、私なんかの我儘で連れ回してゴメンね。嫌だったでしょ?」
な〜んだそんな事か、びっくりして損したよ。ちょっと安心したら悪戯心が膨らみ始める。
「そうそうモニカが無理やり連れ回すからっ、この借りはキス一つだな。はい、チュウしてくださいっ」
大きく肩を震わせかと思いきや、ゆっくりと顔を上げるモニカ。忙しなく視線を動かしながらも徐々に顔が近づいてくる──む?本気でするつもりじゃないのか?それは冗談では済まなくなるぞ!
「ごめんっ!ストップストップ!嘘だからっ冗談だからっ、ごめんごめん。なんとも思って無いよ!寧ろ色々やってたら辛いの忘れてたし!感謝してますっ」
肩に手を置き、モニカの顔が近付くのを遮り慌てて謝る。するとモニカの顔が見る見る赤くなると同時に怒りの
「冗談ってなによっ!今どれだけドキドキしたと思ってるの!?私のドキドキ返してよ!!もぉ信じられないっ!心配して損した感じっ」
腕を組んでそっぽを向いた。膨らんだ頬は可愛らしいが、耳まで真っ赤なので本当に恥ずかしかったんだろう。ごめんってば。
「ほんの出来心だって、モニカが可愛かったからちょっと悪戯してみたくなったんだよ。ごめん。でさ?最初の話し聞いてた?こんな時間に男部屋にってやつ」
「そんなの……私の勝手でしょっ!」
うわぁ完全に怒ってるよ、これはヤバい感じ。でも出ていかないってことは何かしらしてご機嫌をとれってことなんだろうなぁ、ふむ。
「じゃあ俺も勝手にすれば良いよな?」
少しだけ力を込めた両手でモニカの肩を掴むと『えっ?』と明らかに動揺した顔で振り向くがもう遅い。そのままベッドに押し倒して上に乗りかかる。
レースのような透明感のある布で出来たゆったりとしたワンピース型の服、月の光を受け透けるその下には上品な下着のみの格好でモニカがベッドに横たわっている。
ちょ……これは、駄目じゃね?こんな格好で来たら襲ってくださいって言っているようなもんでしょ?いくら自分の家だからってこれはないぜ。
「覚悟はいいか?」
力が入り固くなった身体を押さえ付けゆっくり顔を近付いて行けば、耳まで真っ赤にしながらも思い切り目を瞑る。あれ?キャーーとか、やめて!とか、無いの?
まぁ……良いか。
両手を脇に滑り込ませると強弱には気を遣いつつも彼女を刺激する事に集中する。ツルスベの服に柔らかな肉の感触、うーんこの服も絹ってやつなのかな?指触りが良く気持ちが良い。
反応を見ながら弱い部分を責め立てると同時に、肌と布の感触を存分に楽しむ。
「えっ?ちょっ!あははははははっ、ちょっとっあははははっあはっあはははっ、や、やめ、あははははははっあはあははっやめてっ、あはははっ、おねがい、あはははっいき、あははは、息がっあははははっ、ハァハァハァハァハァ……」
「まだする?それとも機嫌治った?」
指をワキワキ動かしているのを見せつけ脅しをかけたのだが、それどころではないモニカはハァハァと荒い息を吐きながらグッタリと倒れたままでいる。
ふふふっ、我が奥義みたかっ!泣く子も黙る、いや笑う、こちょこちょの刑だぞ?
少し落ち着いたところでベッドに座ると、乱れた髪を整えるべく頭を撫でてやる。
「ありがとな」
洗いたての髪はとても柔らかく、シルクのように滑らかだった。その感触を味わいつつ感謝の念を込めると、しばらくの間、頭を撫で続けた。
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