21.復活の儀式
「アリサって……誰なの?」
枕を胸に抱き、ベッドの上でゴロゴロ転がって遊んでいたのは聞こうか聞くまいか迷っていたからなのかも知れない。
「気になる?」
「気にしちゃ駄目?」
即答したモニカは『聞く』という決断をしたらしい。
「私ね、お兄ちゃんが他の女の人の事を好きでもいいの。私の事をちゃんと見てくれるのならそれだけでいいの。でもね、お兄ちゃんがどんな人のことが好きなのかぐらいは知りたいなぁなんて思っただけだよ。それはイケナイ事?」
枕を盾にソファーに座る俺を見つめていたモニカを手招きで呼べば、昨日の風呂のように背中を預けてくる。
漂ってくるモニカの匂いが鼻腔をくすぐれば、それだけで心が癒された感じがした。
「もしさ、俺がコレットさんの事が好きだって言ったらどうする?嫌じゃないのか?」
「ちょっとショックだけど、それでも私を好きな事に変わりはないのよね?それなら大丈夫」
「なら、俺がコレットさんを抱いていたらどう思う?やめて欲しくならないのかい?」
「はぁ……お兄ちゃん、私が知らないと思ってるの?毎晩毎晩朝までしてたでしょ?今更何言ってるの?」
「ゔ……なんでそれを……と、とにかくだな、嫌じゃないのか?」
「それでもお兄ちゃんは私の事をちゃんと見てくれるじゃない?」
勝てない……俺はモニカ
「お兄ちゃんは自分の事ちっとも分かってない。カッコ良くって、強くて、優しくて。そんな人、誰だってすぐ好きになるわ。だから私がお兄ちゃんを独占出来るなんて思ってない。例え本当に妹としてしか見てなくても、ちゃんと私を好きでいてくれるならそれでいいわ。誰と何しててもいいの、何人彼女がいても平気よ?
私ね、一つだけ秘密があるの。お兄ちゃんは光の中から突然現れたって言ってたじゃん?その時『空から降って来た!』って思ったの。見に行ったらカッコいい王子様が寝てたわ。もしかしたらって思って……凄いドキドキしたけど、キス、したの。ほらっ、物語の王子様ってお姫様のキスで目覚めるじゃない?私のファーストキス、血の味がしたわ。オマケに王子様は目覚めるのに三日もかかった、笑えるでしょ?」
モニカのファーストキスかぁ。なんだか嬉しいな。今はモニカのことが凄く好きだ。けど、他の誰かを抱いたらまたその人を好きになりそうだよ。そんな俺でいいのかい?俺には君が勿体ない気がする。
それにもうすくお別れになるだろう。離れていたらこの気持ちも薄らいで行くんじゃないのかな?モニカはそうならないのか?
疑問がいっぱい、不安がいっぱいだよ。
「アリサは魔族の女、俺の事を好きでいてくれた人だった。けど、俺は彼女を魔族だからってだけで突き放したんだ。酷いと思わないか?当然だよね、彼女は泣いていた。その涙を見てようやく自分のしてしまった事に気が付いたんだ。
俺はたとえ許してもらえなくても彼女に謝りたい。だから彼女に会いたいんだ」
「お兄ちゃんでも誰かを泣かせる事があるのね。それで、その人に謝ってどうするの?その人が許してくれたら付き合うの?」
「分からない。そうなるかもしれないし、そうはならないかもしれない。第一、許してもらえるかすら分からないよ。
ただ、このまま逃げるのだけはしたくないんだ」
「そっかぁ。許してもらえるといいね……ねぇ、お兄ちゃん。私の事、好き?」
コレットさんのように身近でよく知る人ではなく、いくら強がってみせても見知らぬ女に対しては不安になるんだろう。
こんな俺を好きだと言ってくれるモニカ、愛しき者を抱きしめる腕に少しだけ力を入れ「勿論」と耳元で囁く。
「よかった。ねぇ、このままお昼寝していい?ちょっと眠くなっちゃった。お兄ちゃんも一緒に寝よう?」
目が覚めると辺りは夕闇に包まれていた。
モニカはまた俺の腕の中でスースーと寝息を立てている。俺が動くと起きてしまいそうなので夕食までの間、もう少しこのままでいる事にした。
どうせならと静かに魔留丸くんを一つ取り出し、モニカに入れてもらった魔法で身体強化の訓練をする。体内の魔力移動だけなら身体を動かす必要はないので、これならモニカを起こさないで済む。
三属性の魔法を俺のイメージに合わせ身体の各場所に強めたり弱めたりと出来るだけ素早く展開出来るように魔力を巡らせる。
ユリアーネとの訓練でも魔法の展開の速さが鍵となっていたので、これが一番必要な鍛錬だろう。必要な時だけ素早く強く、要らない時にはすぐに弱く。魔力の消費をなるべく少なくする為、魔法発動の瞬発力を高める為の訓練だ。
しばらく体内魔力のコントロールに集中しているとモニカが身を捩る。目を開けるとすぐ間近で心配そうな顔が覗き込んでいた。
「あれ?起こしちゃった?」
「うなされてるような顔してたからビックリしたよ。起きてたの?」
理由など分からない。だが、妙にモニカが愛しく思えてきたので前触れもなしに唇を奪うと嬉しそうな顔をする。そのままほっぺに耳に首筋にとキスを重ねて行けば、もっと聞きたくなる艶っぽい声が漏れてきた。
このまましたい気分になってくるが残念ながらそんな時間はない。
「お兄ちゃん……エッチ」
「知らなかった?でももうすぐご飯だよ」
「知ってたよ。また一緒にお風呂入っていい?」
今夜のお風呂の約束をしてもう一度だけキスをすると、二人仲良く手を繋ぎ食堂へと向かった。
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