17.事件です!
そういうわけでティナは “働かない” と言うので代わりに俺が現れる魔物の全て処理することになる。だが、ただ倒して行くだけでは何の練習にならないので、また思いつきを形にしてみることにした。
真っ直ぐ放つのは貫通したときに危険な魔法なので、角度を付けて放ち、貫通しても壁に当たるように対策をしておく。これなら後ろから文句を言われずに魔法の実験が出来るはずだ。
以前、白結氣を介して光の玉を攻撃手段として放ったとき、想像より遥かに凄まじい威力に危うくアルを天へと誘う所だった。恐らく白結氣を介したからあんなに凄くなったと考えられるので、それなら普通に魔法として使ってみたらどうなんだというわけだ。
現れたのは目つきの鋭い狐ちゃん。特に目立った特徴はないし名前は知らないけど、この階層に出てくるという事はそんなに強くはない魔物のはず。
単体で現れたソイツに向けて、照明用に天井付近に飛ばしてある光玉から攻撃用に分離させた小さな光玉を発射した。
三メートルある天井から床までを目で追えるか追えないかの超早い速度で移動する光玉、見事に頭を撃ち抜かれた狐ちゃんはパタリと静かにその場に倒れた。
それは良かったんだ……そこまでは。
そう、つまり、問題が起きたのだ!
頭を撃ち抜いた光玉は床に当たっても止まらなかった。それどころか床で跳ね返り天井まで飛ぶと、今度は天井で跳ね返り床へと向かった。
カカカカカカカカカッ…………
超高速で何度何度も往復し、光の帯が天井と床を繋ぎながら通路の奥へと消えて行くのを呆然と見ていたのだが、やがて床と天井を叩く音も小さくなって行った。
恐る恐るゆっくり振り返ると、そこにあるのはやはり非難の顔。
嫌……やめて、見ないで……ごめんなさい。
「し、仕方ないだろ?跳ね返るなんて聞いてないし……」
「そういえば、よく天井も床も壊れなかったね」
言われて初めてそういえばと気が付く。試しに風の刃を作り天井に放つが、跳ね返るとかそんな様子はなく、普通に一筋の線が入り消えて無くなる……だよな?これが普通だぞ?アレは何なんだ?
「……シッ!」
理由を考え込む俺にリリィが人差し指を立てると口に当て『静かにしろ』と合図を出すので全員が動きを止めて耳を澄ました。
…………カカカカカカッ
すると聞こえて来る先程の反射音。まさか!と思った時には遠くから通路を目一杯使って四角形を描きながら近付いて来る光の線が見えてくるではないか……恐らく通路の曲がり角で壁に跳ね返されて戻って来たのだろう。
「うそぉっ!レイ!貴方が出したんでしょっ!?なんとかして!」
俺の腕を折れんばかりに強く握り締めながらティナが叫ぶ。
飛ばしてすぐの魔力が繋がっている時ならば自分の意思で消す事も不可能ではないけれど、魔力が離れた今はもう、操作なんて不可能な状態。
──ど、どうしよう……
相殺するしかないと思い連射性の良い風の刃を光玉に向けて可能な限り撃ちまくるものの、高速で移動し続けている小さな的に当てるのはスペシャルな難易度、ぶっちゃけて言えばほぼ不可能。それでもめげずに、連射性重視で小さな風の刃を放ち続ける。
しかし現実とは無常なもので、一秒間に十枚という離業を披露しているにも関わらず、こっちの必死さなど知らぬとばかりに我関せずとどんどん距離を詰めてくる光玉。
「レイ!早く早く!」
「こっち来る!こっち来るよぉっ!!」
「兄さん!兄さん!兄さんっっ!」
相殺しようにも当たりもせず、躱すにも一か八か。とてもではないが、ここに居る全員がそれを成せるなどという奇跡を起こせるとは思えない。
焦りが焦りを呼びパニックに陥る。ただひたすらに必死になって風の刃を撃ちまくっていたが、もう駄目だと諦めて撃つのを止めた瞬間、透明な板が通路を塞ぐ壁のようにして現れると、光の四角形は俺達とは反対、通路の奥へと方向を変えて移動して行くではないか。
「アンタが撃ちまくるから結界張れなかったじゃない。死にたいの?」
「お兄ちゃん、リリィさんのおかげでみんな怪我しなかったんだよ?ありがとうは?」
「ありがとうございます、リリィ様。皆さま、すみませんでした」
カクッ と項垂れた俺の頭を雪の小さな手がヨシヨシと撫でてくれる。まさか自分の魔法でみんなを危険に晒すことになろうとは思わなかった……。
「でも、アレ、消さないと、ダンジョンに居る人に迷惑だよね。どうするの?」
消す……か、それなら可能だな。
「リリィ様、お願いがありますが……」
「あによ、面倒くさいのは聞かないわよ?」
「アレを結界で閉じ込めて頂けませんでしょうか?」
「ん〜っ」と言って顎に指を当て視線を天井に向けて考えた様子を見せたリリィ様は ニヤリ と口角を吊り上げると「貸し一つね」と言ってくださいました。
…………カカカカカカッ
再び音が聞こえ始め、光の模様がやってくるのを眺めていれば、一歩前に出たリリィが通路を塞ぐように大きく結界を張ると光玉の到着を待った。
カカカカカカッ
次第に近付く光玉を感情の消えた薔薇色の瞳が見つめる。通路の奥から吹いてくる少しばかりの風に靡き、色の薄い金の髪が フワフワ と揺れている様子に “美しい” と感じつつ眺めていると、リリィの魔力が一瞬膨れ上がり ホッ とした表情で振り返る。
「これでいいの?」
透明な壁で光玉の行手を前後から挟み込むと、その幅を縮めて動きを抑制。上下左右からも動きを阻害するように更に縮まれば、箱に閉じ込めらることとなった光玉が『ここから出せ』と暴れ回る。見惚れていた俺に気が付いて少し照れたような顔を見せたが、早く終わらせろとばかりに今出来上がったばかりの結界の檻を顎で刺してくる。
後始末をせねばと思い出し、朔羅の柄頭に手を乗せると俺固有の黒い魔力を呼び起こす。
【殺せ!壊せ!殺せ!壊せ!】
途端に聞こえてくる
──こんなものには負けはしない!
リリィの張ってくれた結界に閉じ込められ、その中を高速で飛び回る光の玉。恐ろしい物を作り出してしまった……威力は凄そうだが、次はこうならないように対策を考えないと。
結界内に黒い霧が現れると、飛び回っていた光の玉はその中に吸い込まれるようにして消えて行く。
「リリィ、ありがと。もういいぞ」
「ったく、世話がやけるわね」
面倒をかけた自覚はある。しかし、特にそんな事も思ってもいないクセにリリィの口から飛び出た言葉に少しばかりの反論をしてみたくなった。
「夫の失敗をフォローするのも妻の仕事だろ?」
「つ、つま……そうね、そうよね」
長いまつ毛を見せつけるように目を伏せ、軽く握った拳で口元を隠す。照れた素振りを見せるリリィなどあまりお目にかかれない。
その様子をもっと見ていたかったが「早く行こう」と背中を押すモニカに急かされ再び歩き出した。
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