45.信頼
目を開けば黒いレースの天蓋。目覚えのあるソレに頭を巡らせ記憶の中で合致すると、いつもと違う事に違和感を感じ『アレ?』と横を向けば、人、一人分の間を空けて横たわるソノ人がいた。
立てた膝に片肘を突いた手で頭を支え、以前より豊かさの増したお胸様を隠すシーツをもう片方の手で押さえるセクシーな格好ながらも、わざとらしいブスッとした半目でいる朔羅だ。
いつもの笑顔とは違い、その態度や俺との距離からも分かるように “不機嫌です” と訴える様相に尻込みするが、本当に不機嫌ならば同じベッドになど居はしないないだろう……しかも何故か裸で。
再び頭を巡らせると昨日の夜のルミアとのやりとりを思い出す。そして今日の昼間に実行した事、恐らく朔羅に言わせればあれこそが “浮気” なのだろうと予測が着いた。
何も言わずに、ただ俺に視線を送り続ける朔羅。俺の出方を待っているのだろうとは分かるが、どう切り出すかが難しいところだな。
「よぉっ!」
軽く手を挙げた俺に無反応を突くが明らかに不機嫌さが増した感じがする。その確たる証拠に手を挙げた瞬間、ほんの僅かにだけ眉尻が動いたのだ。
──な、なんだか怖い……
一度目の失敗は見逃してもらえたようだが恐らく次は無いだろう。彼女を怒らせたらどうなるか分からないが、だからと言って俺が悪いわけではないので謝るのも何か違う。
──さて、どうする?
両手を伸ばして頬に添えると、ゆっくりと顔を近付けキスをした。そのままゴロンと朔羅を転がすとその上に乗り、少しだけ顔を離す。
鼻が触れ合うほどの至近距離。彼女の黒い瞳が俺を見つめており、どうやら言葉を待っているようだった。
「俺は浮気症だ。あっちでも妻にしたモニカの他に婚約者が沢山増えた。だけどお前を必要とする気持ちは変わらないし、お前が俺のモノであることも変わらない。何より変わらないのはお前への愛だ。
だからお前は今まで通り俺を愛してくれればいいんだよ」
「どんな言い訳だよ。それ、最低じゃない?僕を何だと思ってるのさ。それで納得しろとでも?あれだけ浮気はダメって言ったのにも関わらず平気で浮気した癖にっ!馬鹿っ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!!」
いや、浮気は駄目って言われたのは一度きり……それは関係ないか。普通に考えてそういうのは駄目なモノなのだ。
でもな、朔羅。君の言う浮気って、他の剣に魔力を与えるなって事だろ?人間とは感覚が違うのかも知れないが、魔力を流してあげないと白結氣の中の精霊が育たなくなってしまう。そこはすまないが我慢してもらわないと俺も困ってしまうのだ。
「ごめん、ごめんってば。でもルミアからも聞いたんだろ?必要な事なんだ、分かってくれよ。
白結氣に魔力は通したけど、その分朔羅にだっていっぱい魔力を通したじゃないか。俺、頑張ったよ?なぁ、機嫌直してくれよ」
「分かってるよ、そんな事。でも浮気したことには変わりないっ!僕の気持ちも変わりないっ!
この落とし前、どう付けるつもりなんだいっ!?答えてよ、レイシュア」
女の癇癪って面倒くさい、初めてそう思った。頭では理解しているのに気持ちが追いつかない。俺の説得も追いつかない。じゃあ他の事で気持ちを誤魔化すのが一番?
色々とうるさい朔羅の口を塞ぐと、今度は舌も入れて朔羅の中を蹂躙する。嫌がる素振りも無くくぐもった吐息と甘い声を漏らしながら俺を受け入れてくれる朔羅はやっぱり俺の朔羅だった。
口下手な俺は、言葉より行動で示した方が想いが伝わるらしい。それならばと口を離し、今度は彼女の弱点の一つである耳に舌を這わせた。
「はぁぁっ、レイシュアずっこいぞ。そうやって誤魔化すんだ……んぁっ!コラッ、やめ……あはぁんっ」
言葉だけで怒ってる態度を突こうとするが、寧ろ身体は受け入れ態勢を整え始める。自由なはずの手は妨害するどころか俺の背中に回され、拒否する素振りすら全くもって感じられない。
じゃあ、と言う事で俺も欲望の全てを解放する事にして朔羅への愛を注ぎ込むことにした。
「レイシュア、無理してアノの魔力を使うのは止めてよ?僕はレイシュアとここでこうしてるだけで幸せなんだ。これ以上成長しなくても構わない。虚無の魔力は使えば使うほどレイシュアの心を責め立てる。それに耐えきれなくなってしまったらお終いなんだよ、分かってるの?
仕方がないからあの女への魔力提供は許してあげる。けど、僕は今まで通り戦いの中で必要な時だけで良いよ。
だってレイシュアは僕の事を愛してくれるんでしょ?あの女に心を許しても、僕への愛は変わらないんでしょ?」
俺の胸に頭を預け、指で身体を撫で回すのは “浮気” に対する不安からだろうか?いくら “大丈夫” だと分かっていても不安が常に付き纏う。それは一途に愛しても、多人数でも一緒だろう。所詮相手は他人なのだ、完全に理解することなど出来はしない。
だが、そこを繋ぐのが “信頼” と言う言葉だ。
いつか好きでなくなるのではないか、いつか捨てられるのではないか……不安に感じるのではなく、この人なら何処で何をしてても大丈夫だと思ってもらえるようになる事こそが、愛を深める近道だと俺は思う。
朔羅は俺を信頼してくれてない訳ではなく、ただもっと自分を見て欲しい、愛して欲しいと訴えたかっただけだと今なら分かる。
だがきっと不安が無かったと言えばそれも違うだろう。より一層、朔羅の信頼を得られるように努力が必要なのだと考えさせられた。
「分かったよ、朔羅。君の言う通りにする。
愛してるよ」
満足気な顔で受け入れられたキスは俺の考えに同意してくれた何よりの証。抱きしめたまま唇を合わせ続けていると意識が薄らいでいく感じがし始める。それが朔羅とのしばしの別れの合図なのだと、起きても朔羅の事を忘れなくなった今ならよく分かる。
心の中でもう一度「愛してる」と告げると、朔羅の唇の感触を感じながら意識を手放した。
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