3.商業都市ベルカイム

 最寄りの町であるベルカイムまでは徒歩で一日かかるらしい。初めて行く他の町がどんなところか想像も付かずワクワクが止まらない。だが、森の中は思ったよりも静か。獣の一つも現れてくれないのでハイキングしているようでつまらない。


「魔物?あぁ、知るわけねぇよな。フォルテア村は魔女の呪いがかけられていて、この辺りにはとって食べるだけの無害な獣しかいないんだぜ?」


「「「魔女の呪い!?」」」


 聞いたこともない言葉に目を丸くする俺達。フォルテア村は呪われていたのか!!


「なに、たいしたヤツじゃねぇよ。ただそのおかげで、村が魔物に襲われるなんてことはなかったろ?あんまり強い奴には効かないらしいが、その魔女様はどうやら村を平和に保ちたいらしい。そのおかげで旅人が村に来ることはないが、べつに害があるわけじゃねぇから気にするな」


 呪いというよりは魔除、結界ってヤツか?まぁ、害がないのならいい……のか?



 フォルテア村を出たのが昼少し前だったので、今日は野宿をすることになった。夜中に着いても身分証を持たない俺達じゃ町には入れないらしい。


 焚き木を集めて火を起こす。ミカ兄が鞄から鍋を出してくれたので、それで野菜のスープを作るのだ。アルが肉を持って来ていたので、それを少し炙ってから鍋にいれる。塩と胡椒、ハーブで簡単に味付けしたら、美味しいスープの出来上がり。

 っつか、ミカ兄は何処から鍋出したんだ?ミカ兄が持っているのは小さなウエストバッグのみで、とてもじゃないが鍋なんて入るはずもない。


「俺の鞄は魔導具だ。見かけによらず結構な物が入るんだぜ。なに?魔導具?はぁ……まぁな、村には無ぇからな。魔法のかかった便利な道具の事だよ、覚えとけよ?」


 不思議に思い聞いてみると、そんな答えが返ってきた。世の中には凄い物があるもんだ。俺なんか村からもってきたリュック、パンパンだぜ?


「明日、町に着いたらまずギルド登録だな。それから……武器。しばらくは使わないだろうが何があるかわからん、俺がいるとはいえ無しという訳にはいかんだろ。

 ベルカイムは広いからな、ちょっと観光してるとたぶんいい時間になるだろうから明後日から仕事だな」


 ふむふむと今後の予定を頭に入れておく。

いよいよ明日、町だ!



▲▼▲▼



 木で造られた見上げるほど高い壁。フォルテア村には簡単な柵しか無かったが、どんな町にも魔物避けに防御壁が造られているらしい。

 ベルカイムの入り口である門に着くと、ミカ兄が門番をしているガタイの良いおっちゃんに銀色のカードを渡していた。


「今日は子守かい?最近、お前さんが暴れている噂聞かねぇな。どうした?」

「馬鹿言えよ。俺だって好きで変な噂立ててるんじゃねーよ。  こいつ等は俺の舎弟だ。十歳になったんでな、ギルドだよ」

「お前の噂話楽しみにしてるやつ多いんだけどなぁ。まぁいい、早く連れてってやんな。お嬢ちゃん達、迷子になるなよっ」


 親指を立ててウインクしてくる人の良さそうなおっちゃん。

 手を振り別れを告げると『いざ町へ!』と、意気込んで歩き始めたのだが……しかしそこは、今までの常識を覆すほど驚くべき光景が拡がり思わず足が止まってしまった。


 右に左にと行き交う人、人、人……俺達の村は人口八十人、それに対してベルカイムは、なんと一万五千人を超えるそうだ。


 門から町の中心へと続くメインストリートには、村には無かった三階建ての立派な建物が騒然と立ち並ぶ。一階部分の全てが店になっているようで、通りから見えやすいように建物の壁から看板が生えている。どの店も「お祭りですか?」と聞きたくなるほどたくさんの人で賑わい、店の人らしき威勢の良い声がここまで聞こえてくる。


 そんな通りを歩く人々も多種多様で、剣を携える冒険者、何人もの荷物持ちを従える商人、鉄製の鎧を着た衛兵、親子で歩く町人、白いプリムを頭に乗せたメイドさん……メイドさん!?


 俺は自分の目を疑った。貴族のお屋敷にしかいないと思っていたメイドさんがすぐそこにいる。

 思わず見惚れていると視線に気が付いたのか、俺の方を見て ニコリ と笑うと小さく手を振ってくれる。慌てて手を振り返したが少しの違和感、隣を見るとアルも同じ様に手を振っていた……あのメイドさんは俺じゃなくアルに向けて手を振ったような気がして少しだけガッカリした。


 見るもの全てが新鮮で興味を惹かれる。初めて見る光景に目を輝かせ其処彼処に視線を奪われ立ち止まったままでいると、ミカ兄がこっちを向いて ニヤニヤ していた。


「ほらっ田舎者達よ、早く行くぞっ」

「ミカ兄だって同じ村の出身じゃないかっ!」

「そうだが、俺はお前達みたいに顎が外れるほど驚かなかったぞ?」




「行くぞ」と歩き出したので逸れないよう慌てて付いて行く。向かう先は、昨日の打ち合わせ通り冒険者ギルドだ。

 慣れた感じで両開きの押し戸を開くミカ兄。それに続き ドキドキ しながら内に入ると、ちょっと怖い感じのする人が沢山いて騒がしかった。


 ミカ兄がギルドに入ってすぐのこと、それを見つけた銀髪の男が颯爽と近寄ってくる。


「そいつらか?お前の弟たちは。おっ、可愛いお嬢ちゃんだな。どうだい?僕のモノにならないかい?」

「やめろっ!阿保が。おめぇにゃやらねーよっ!あっち行け!しっしっしっ!」

「んだよ、ツレねーな。冗談じゃねーかよっ。お嬢ちゃん冗談だからな。本気にしなくていいよ。でも可愛いなっ!五年後が楽しみだ」

「うっせ!おめーにゃやらんっつったらやらん」

「けーち、けーち、けーち!ミカルの糞けーち。おめーにゃもぅおごってやらねーからなっ!」

「わかったわかった、後で奢ってやるから今はどっか行け!」


 ニコニコしながら軽く右手を上げて去って行く銀髪、なんだったんだ?ぽかーんと見てる俺達を見てミカ兄が笑う。


「アイツのことは気にするな、さっさと登録に行くぞ」



 受付カウンターの前に行くと列が出来ていた。どうやらこれはクエストの受付をする順番待ちらしい。ピークは過ぎているとはいえ、朝のこの時間帯は混むんだそうだ。

 俺達はギルド登録だからと、そことは別の一つ奥のカウンターに向かい中を覗き込めば小柄な眼鏡美人さんがなにやら書物をしている。ミカ兄に気がつくと花が咲いたように表情が明るくなり、途中だろう仕事をそっちのけでこっちに来てくれた。


「コイツらの登録頼むわ。俺の弟達なんだが十歳なったばっかりでさ、色々面倒みてやってくれや。俺はギンジのとこ行って来るわ、さっきからうるさくてよ」

「へぇ、ミカルの弟君達かぁ、わかったわ。まずは登録だけど、字は書けるかな?大丈夫ならこの紙の中の分かる範囲でいいから書いて頂戴」

「っぅ訳でこの姉ちゃんに面倒みてもらえ。終わったら呼べよ?」


 俺達を残して スタスタ とギルドの中の反対側、食べ物屋らしき場所に向かうミカ兄。途中途中で声を掛けられ軽く手を挙げ挨拶してる、ずいぶん人気者なんだな。


 それはさておき自分達のやる事をやろう。さっそく紙を受け取り書き始める。名前、性別、年齢……そんなとこだ。パーティー名ってなんだろ?まぁいいや。

 言われた通り書いて出すと、それを見た途端に渋い顔をされた。なんでだっ!


「う、うん、不備はないわね。それじゃあギルドカード作って来るから、そこで少し待っててくれる?」


 そう言うとお姉さんは、俺達が渡した紙を持って奥へと行ってしまう。すると、それを待っていたかのように俺の脇腹を肘で突つく呆れ顔のリリィ。


「レイ、あんたもっと綺麗に書けないの?アレじゃ読めないわ」


 うっせ!無理だ無理無理っ。精一杯書きました!


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