18.変わらない村
ベルカイムから帰って数日後、成人の儀を受けるべく、俺、アル、リリィの三人でフォルテア村に向かった。
冒険者なんていつ死んでもおかしくない職業だから少しでも安心してもらいたくて、村には最低でも一年に一度は顔を出している。とはいえ久しぶりの帰郷、村の景色を目にすると懐かしさに胸が踊る。
「母さん、ただいまっ。元気してた?」
「お帰りっ!私達は元気そのものだよ。あんたこそ怪我なんてしてないだろうね?ほら、そんなとこ立ってないで早くお入り」
「お帰り、レイ。元気そうね〜、ほら座った座った」
二人の母の暖かいお出迎えで我が家に招き入れられる。二人とも元気そうで少し安心した。まぁ、それはお互い様だろうな。
しばらく三人でたわいも無い話をして近況報告会が行われた。
「それで?彼女は出来たのかい?」
「な、なんだよ突然。まだ出来てないよ」
「あんた鈍感だから心配なんだよねぇ。ほら、去年連れてきたユリアーネちゃんはどうなのよ?あの子なら綺麗だしあんたに気がありそうだったけど、進展してないの?」
なんだそれ……ユリ姉はユリ姉だからな。俺も気になる存在だし恋仲になれたらうれしいけど、何も無いぞ。ユリ姉、俺に気があるの……か?いつも一緒に居る俺には分からないのに、何日か泊まっただけで何でそんな風に見えたんだろ。
「その点ミカルは要領いいからね。そのうち子供でも連れて帰って来そうだわ、ねぇプリエルゼ」
「あははっ、そうね。あの子ならあり得るわ、なんにしても無事でいてくれればいいわぁ。
最近帰ってこないけど、レイは町で会ってないの?」
俺達がユリ姉に連れられて師匠のところに居候するようになって暫くしたら、知らない間にギンジさんと二人で何処かに行ってしまっていた。
最初の内は度々帰って来てて一緒に酒を飲んだりもしてたけど、ここ三年くらいは帰ってこずギルドを通して手紙だけくれている。無事ではいるみたいだけど、たまには直接会って、ようやくまともに飲めるようになった酒でも酌み交わしたいもんだ。母さん達も会いたいと思うのは同じなんだろうな。
翌日、日課の鍛錬もお休みして少しばかりゆっくり寝た俺は久しぶりの村を散歩していた。時間がゆっくり進んでいる感じさえする穏やかなフォルテア村は相変わらずだった。
村を一望できる秘密スポット、各家々から朝食の為に上がる煙をただなんとなく眺めていると、本当に長閑でなんだか俺の心まで平和で暖かな気持ちになってくる。
気持ちのいい日差しの中、故郷の風景を満喫していると後ろから人の気配がした。
「やっぱりここに居たのね、アンタここ好きねぇ」
すぐ隣に腰を下ろしたリリィと二人、特に何か喋るでもなく暫くボーッと村を眺めていると、またしても誰かがやってくる。
まぁ、こんな所に来る奴なんて知れてるけどな。
「お前等ここしか居場所がないのか?」
「お前もだろ?」
「ふふふっ。ここ、眺め良いしね」
結局揃ういつもの三人、アルも俺の隣に腰を下ろすと平和な時の流れるフォルテア村を穏やかな眼差しで見つめる。
二人が何を感じているのかは分からないが、この村がずっとこのままでいてくれる事を願う気持ちは一緒だろう。今は師匠の家に居候しているが、俺達の故郷はここなのだ。
「いよいよ明日、成人の儀だな。やっと子供卒業って言われてもなんだか実感ないんだけど?」
「既に自立してるからだろ?俺達、今の所順調だしな。大した怪我もないし、そこそこ金も稼げてる。師匠の家っていう立派な住処まである」
「居候だけどねっ!」
リリィの一言に三人で笑い合う。自分達のやりたい事をやり、何不自由ない暮らしを今は出来ている。だがこの先はどうなるのかは分からない、それが冒険者だ。もしかしたら次にこの場所に来るときにはこの中の誰かが居なくなっている、そんな事だってありえるのだ。
「いつまでもこの村が平和だといいね」
「その為に俺達が頑張るんだろ?」
「そうだな」
俺達はこの村の生活を豊かにしたいという目的を持ってこの村を出た。今はまだ帰郷の時にちょっとしたお土産を持って帰るくらいしか村の為になることなんて出来ていない。これからもっと頑張っていかないとだな。この村が平和で居続けられるように、母さん達がもっと楽に暮らしていけるように。
「よし、ちょっと母さん達の手伝いでもしてくるわ、女二人じゃ力仕事は大変だろうからな。また夜にな」
「あぁ、わかったよ。せいぜい働いてこい」
「お前らも少しは親孝行しとけよ?」
「はいはい、わかったわよ。たまにしか会わないんだしね、そうするわ」
その日の夜はミカ兄の時と同じで村人総出で宴会だ。みんな元気そうで俺達三人の成人を祝って飲んで騒いでの楽しい宴会になった。
久しぶりの宴会という事もあっただろうが……少々元気すぎるくらいだった。俺達が買って持ってきた酒が結構な量で有ったはずだったんだが、気が付いたら殆ど無くなってて驚かされる。
だって普通に飲んだら三ヶ月くらいは持つ予定で買ってきたんだぜ?エール一樽が一晩で無くなるとかどんなけ飲んでるのさ!まぁ、みんなが楽しんでくれたのならそれはそれでいいんだけどさ。
幸せそうな顔で所々に転がる酒に潰れた屍を放置し、家に帰って寝ることにした。暖かいとはいえ外で寝て、みんな風邪ひくなよ?
▲▼▲▼
俺達の前に座る長老──俺の爺ちゃんは、なんだかいつもと違う雰囲気だった。妙に真剣味があるというか、もしかして若干緊張してる?自分の孫に話しをするだけで緊張……変な爺ちゃんだ。
「お前達三人もこれでようやく一人の大人として認められた。この村の最後の若者として、これからもこの村の為に尽くしてくれたらワシ達としては嬉しい。だが、お前達の未来はお前達のものだ。決してこの村に縛られることなく、自由に、そして幸せに生きて欲しい。これはこの村に住む全ての者の願いだ、しかと心に留めておくが良い」
まかせてくれ爺ちゃん、俺達自身も幸せにもなるけど、この村も世界で一番豊かな村にしてみせるぜ!
「さて、これで成人の儀は終わりだ。無事大人の仲間入りを果たした三人にはこの村の真実を知ってもらう、心して聞きなさい」
突然何を言い出した……真実?爺ちゃんの様子がおかしかったのはコレのせいか。でも、真実ってなんだよ。
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