15.ギルドランクとはこれ如何に?

「トトさま〜〜っ」


 カミーノ家の屋敷に戻り食堂に向かえば、両手を広げた雪が トトトトッ と駆け寄ってくる。満面の笑みで俺に飛び付くので受け止め抱き上げるとすぐにモニカが寄ってきて俺の腕に ピトッ とくっ付いた。


 にこやかな微笑みから察するに本日の狩り勝負はモニカの勝ちだったようだな。当然と言えば当然の結果、ギルドランクはCだからといえども実力まで一般レベルではないのだ。

 視線をズラせばなんだかお通夜にでも赴くような雰囲気を漂わせるティナが机に突っ伏している。


「ティナ、狩りはどうだったんだ?」


 放置する訳にもいかず声をかけると、机から頭を離さずゴリゴリと重たげに首を回してこっちを見る。ブスッとした如何にも不機嫌な顔、気を利かせたつもりだったが、その時点で声をかけたことを後悔してしまった。


「聞くまでもないでしょぉ?それってイジメ?傷心の私を更にイジメるつもりなの?そこはさ〜ぁ〜落ち込んでる婚約者を慰めるところじゃなぁいぃ?ほら、はやくーーっ」


 仕方がないので隣に座りヨシヨシと頭を撫でてやると幾分か不機嫌さが抜けて行く。


「お兄ちゃん、私とコレットね、ランクBになったんだよ。凄いでしょ〜?」


 得意げな顔で驚き発言をしたモニカ。頬っぺたに褒めてと書いてあったので頭を撫でて「凄い凄い」と目一杯褒めてあげれば、くすぐったそうな顔をしながらも仔犬のように嬉しがる。


 聞けば今日はたまたま試験管が居て狩りの報告の時に昇級試験を受けないかと言われたらしく、受けたらあっさり昇級したそうだ。

 昇級試験はギルドの定めた試験官に実力を見せるものらしく『俺を倒してみろ!』的なやつらしい。コレットさんは無難に体術で圧倒したのだが、モニカの場合は六匹の水蛇を見せただけで試験官が降参したそうだ。


「王都のギルド本部で昇級試験を受ければランクAも行けるんじゃないかって言われたよ?凄いでしょ?エヘヘッ」


 実力が基本だが実績も積まないと駄目なのだそうだが、調べてみればそっちの方は盗賊団壊滅の功績が効いているらしい。なんでも王都の騎士団が出張る予定だった盗賊団を、俺達がたった四人で片付けたのがかなりの高評価なのだそうだ。


 ランクAにもなれそうなモニカとランクBⅢのティナ。冒険者として培ってきたキャリアの差が出たのだろうな。まぁ、仕方がないさ。


「じゃあそれまでにもっと鍛えないとだな。そろそろ簡単な身体強化も練習しないとだし、後は水以外の属性の強化かな。

 ティナは剣技中心なんだろ?後で見てやるよ」


「そう言うレイはギルドランクどうなのよ。ランクB?それともAになっているの?」


「いや〜」と濁してみたが「見せなさい!」と半分ヤケッパチのティナお嬢様。仕方がないので渋々ギルドカードを渡すと ピキッ と音を立てて固まった。

 丁度そこにランドーアさんがクレマニーさんを伴い食堂に入って来たところでティナがギルドカードを持ったまま固まっていたのだ。不思議そうにそれを覗き込み、驚きのあまり二度見するとカードを奪い取って三度見をして目を丸くする。


「レ、レイ君、これは一体どういうことだ!?」

「どうもこうもありません。ただの陛下の悪戯ですよ」

「悪戯というには余りにも……」

「それはご本人に直接お願いします。俺も分不相応だと思ってます」


 それを横から見たクレマニーさんまでいつもなら「あらあら」と朗らかなのに、目を丸くしてカードを見つめる珍しき姿に失礼ながら内心笑ってしまった。


「あなた、ウチの婿様は凄い人だったのねぇ。庶民から貴族に成っただけでも凄いのに、ギルドランクSなんて世界に何人かしか居ないのでしょう?

 陛下の悪戯も少しはあるのかも知れないけどそれだけでは無い筈よ。もう少し胸を張ってもいいんじゃないかしら?」


 アレクは別にしても、本気ではなかったとはいえ近衛三銃士の一人を倒したというのが評価されたのだろうとは聞いた。ある程度評価されるのは嬉しいが、やはりSという特別な枠は少しやり過ぎなのではと思うんだけどなぁ。



▲▼▲▼



 楽しい狩り対決の話しを聞きながら夕食を終えると、明日屋敷を出る旨を告げ部屋へと戻った。お風呂に入っていれば勝負に勝ったモニカが堂々と現れ、当然のように俺の浸かる湯船に滑り込んで来る。


「一人で入るよりお兄ちゃんと一緒のほうが落ち着くわぁ」

「モニカには我慢させてしまったな、ゴメンな」

「ううん、分かってた事だったからいいの。それに思ってたより平気だった。お兄ちゃんは変わらず私の事を好きでいてくれるんでしょう?」


「レイ様、お背中流しましょうか?」


 言葉より態度で、と唇を重ねたタイミングを狙うかのように開けられた風呂と部屋を仕切るカーテン。突然の事に驚きもしたが、それよりも更に驚かされたのはタオル姿のコレットさんがニコニコ顔で立っていたからだ。


「コ、コレット!?」


 モニカがここにいる事をコレットさんが知らない筈がない、つまりこれは警告。ここまであからさまにしてくるという事はそろそろ我慢の限界ですよという最終通告か……。


「あらお嬢様、ここにいらしたのですか?んん〜、ついでにお嬢様の背中もお流ししましょうか?そうね、たまには三人でってのもいいかもしれませんね」

「無理無理、絶対無理っ!今日は狩りでティナに勝ったんだから私がお兄ちゃんと一緒に寝るのっ!コレットは帰ってよぉ」

「あらあら?狩り勝負でティナ様とクロエに勝ったのはお嬢様と私です、私も勝者ですわ。当然私にも権利がありますわよねぇ?」

「えぇっ!?そんなぁ……」


 言いくるめられて涙目になるモニカも可愛いなぁなんて見てたけど、違う!今するべき事は愛でる事ではない。


「コレットさんの気持ちはよく分かった。でも昨日の夜はモニカに我慢させてしまったんだ、今日の所は譲ってやってくれないか?」


 俺の腕の中でコクコクと激しく首を振り必死でアピールするモニカにジトッとした目を向けるコレットさん。タオルに隠されていてもわかる立派な双丘が俺の目を惹くが今はそういうことをしている時ではない。

 しかし目敏く俺の視線を察知したコレットさんは ニコッ と笑顔を浮かべる。


「では、今日はそういうことにしてお嬢様に譲るとしましょう。本当は毎日だと嬉しいんですけどそうもいきませんしねぇ、私は昼間でも構いませんよ?フフフッ。

 レイ様、明日の晩を楽しみにしておきます。それではおやすみなさいませ」


 カーテンがレールを走る音を残しコレットさんは姿を消した。

 嵐は去ったと一安心して湯船に背を預けるとモニカも力無く俺にもたれ掛かってくる。


「疲れた……」


 ポツリと呟く一言がモニカの今の気分の全てを物語っているのだとよく分かる。


「じゃあ今日は大人しく寝るか?」

「嫌っ!」


 即答かよ。それはそれで嬉しいことなのでギュッと抱きしめ、体と心を湯船で暖めると風呂から出てベッドへと向かった。



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