49.君の名は……パートⅡ
バンッ!!
「どう言うことか説明してっ!」
突然、何処からともなく現れた机を両手で叩き、サッ とクロエさんが用意した椅子に ドカッ と音を立てて座って足を組んで踏ん反り返ると、ツンと顎を上げて俺を見下ろし、冷たい視線を投げつけてくる。
裁判官ティナ様はとてもお怒りで、正座させられた俺は俯くばかりだ。
だが、そんな俺にも言い分があるので勇気を振り絞り立ち向かう事にした。
「つい出来心で……」
──しまった!言葉を間違えた!
思った時には既に遅く、これまた何処からともなく取り出した白い大きなハリセンを右手にティナ様が立ち上がるとドーム状の広場に響き渡る良い音を立てて俺の頭にクリンヒットする。
「ぐふっ」
ワザとらしい声を上げると頭から地面に突っ伏した俺、何やってんだろ……。
「こ、これには深い訳がですね……」
「まだ言うかっ!反省の心無しとみた、成敗いたす!」
地面に頬を付けたままでハリセンが振り下ろされると、再び スッパーンッ! と良い音が響き渡った。
「かくかくしかじかと言う訳でですね、ちょっとした私の悪戯なのですよぉ。ですからそろそろ許してあげてください」
しばらくの間みんなに代わる代わるパンパンと何度も殴られたが、面白半分でやっているのは分かっているので途中からもういいやとされるがままになっていた。
ハリセンとは良い音を出す事を目的に作られた謎の武器。たぶんルミアから貰って来たのだろうが、それで気が済むのならどうぞやってくださいと投げやりになっていたというのもある。
「でも、やったのはレイの意思よね?悪いのはレイじゃない?」
「そーよ、そーよっ」
スパーンッ!
「それでも触ってみてと唆したのは私ですしぃ……」
「でも、触る決断しただけに留まらず、揉みしだいたのよね?」
スパーンッ!
「ほら、もう皆さん満足されたようですし、そろそろティナさんも……」
「そう?私はまだ足りないわ?」
スパーンッ!
「仕方ないから後一回だけ」
スパーンッ!
あぁこの土、良い土だよ。ほら栄養も豊富そうだし木があんなに密集してるのにちゃんと立派に育っててね……。
「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんってばっ!ティナがもう気が済んだって言ってるから起きていいよ、ねぇ、聞いてる?お兄ちゃんっ!!」
抱き起こされると、俺を覗き込む天使のような可愛い人がそこにいた。
「あぁ、天使様、俺は悪事を働きました。地獄へ落ちるのでしょうか……」
「悪い事ばっかりする奴は地獄へ落ちろっ!」
スパーンッ!
「ぶべっ!おいっ!顔面はないだろ!流石に痛いぞっ、ったく調子に乗りやがって……」
「あぁん?何か言った!?」
「イエ、ナニモイッテマセン」
「そう、なら良いけど……それで、あの人は一体どこのどなたなわけ?」
さっきエレナが説明してなかったか?と突っ込みを入れたくもなったが、今それを言うとまた叩かれるのだろう。俺は学習出来る子なのだ。
「お取り込み中だったようなので自己紹介が遅れましたが、私はここのダンジョンの管理をしておりますベルモンテと申します。以後お見知り置きをお願いします」
「それは分かったわ。でもその管理人が何の用なのよ。最下層まで連れてってくれるって言うのかしら?」
未だにご機嫌斜めなティナ様は謙虚な態度のベルモンテさんに高圧的に話します。イライラを人に当たって解消するのは如何なものかと思いますがねぇ…… ハッ! 鋭い視線が刺さったと思ったらティナ様に睨まれていました……おぉ怖い怖い。
「って、お前いい加減に機嫌直せよ。散々どつき回したんだからもういいだろ?いくらなんでもベルモンテさんに失礼だぞ?」
再び鋭い視線で睨まれたので思わず体が反応してしまったが、それはそれは大きな溜息を吐き出すとようやく気持ちを切り替えたようだ。
「私は人間とは違いますので機嫌を損ねる、という事はございません。ですが一つ、皆様にお願いがあります。
先程も申し上げましたがここまで来られた者達はあなた方が初めてです。ですので、あなた方がどういった方達なのか興味があります。この先、私が同行することを許可して頂けませんか?」
「人間と違うって、本当に造られたゴーレムなの?まるっきり見た目は人間そのものじゃない…………ね、ねぇ、ちょっと触っていい?」
ベルモンテを品定めするように グルリ と一周して見回すと、俺と同じで興味を唆られたのか「触りたい」と言い出したティナをジト目で見てやる。
するとすぐに視線に気が付き「あっ……」って顔をしやがった。
「どうぞ」と伸ばされた手をティナが握ると、待ってましたとばかりにいくつもの手が伸びて行く──なんだよ、みんな考えることは同じじゃないか。
「わぁ、スッベスベ!何よこれっ、羨ましい……」
「本当、気持ちいいですね。私もこんな風にならないかしら」
「サラ、アンタ十分スベスベじゃない。でもこの陶器を作る粘土みたいな滑らかさは凄いわね」
「本当にゴーレムなの?おっぱいも本物みたいだよ?」
「ちょっと、モニカ?いくらなんでも……」
「わぁ、本当ですわね。本物そっくり」
「ティナのより立派ね!プププッ」
「うっさいわね、リリィだってそんなに……あれ?リリィ?こんなに大きかったっけ?」
「アンタと一緒にするんじゃないわよ、失礼ね」
「うぐ……そんな馬鹿な……そうよエレナ!あんたは仲間よね!?」
「ティナさん、女性はおっぱいの大きさではありませんよぉ?」
「そんな事言ってぇ……って、何よこれ!あんたこんなにあったのぉ!?」
エレナの言う通り女性は胸の大きさで価値が決まる訳ではない。ティナだって別にペッタンコという訳ではなく程良い感じで普通にあるのに何故そこまで拘るのか、女心は理解し難いものだと突然始まった女子会をアルと二人で眺めていた。
「胸を触ったって怒ってたのは誰だっけ?人の頭を散々叩きまくったのは誰でしたか?」
「むぐ……それはレイが男だからよ」
「女ならみんなの胸を揉みまくっても許されると、そう言うのかな?」
「むぐぐ……それはその、つい出来心で……」
「ほぉ、俺はそう言ったら張り倒されたけどなぁ?」
「むぐぐっ……どついてごめんなさい」
「分かればよろしい」
項垂れるティナの肩に肘を置いてもたれ掛かり、やり過ぎだったさっきの仕返しを完了させると、揉みくちゃにされて放心してるような感じが漂うベルモンテの前に立つものの反応が無い。
「あれ?大丈夫?」
目の前で手を振ってみると ハッ と人間のような感情の篭った反応で正気を取り戻すと、慌てた素振りで背筋を伸ばした。
「失礼しました。それで、同行の方は許可頂けるのでしょうか?連れて行って頂けるのなら次のフロアの道案内な、ど…………」
言葉途中で目を見開き、一点を見つめて固まってしまった。
皆が一斉に追った視線の先には、一番後ろにいたコレットさんに隠れるように身を潜めているミカエラの姿がある。
「ミカエラ?まさか知り合いなの?」
「そ、そ、そ、そんな訳あらしまへん!だってその姉さんはずっとダンジョンの奥におったんやろ?ウチが知り合う事なんて無理やっ、そうやろ?」
ジトーっとしたみんなの視線をコレットさんを盾にして躱そうとするが、空気を読んだコレットさんは 目にも留まらぬ素早い身のこなしでミカエラの後ろに回り込むと両肩をがっしりと捕まえた。
第三十層までの完璧な道案内は百歩譲れたとしても、地図を買ったとはいえ迷う事なく進んだ第三十五層までの道のり。第四十二層ではあんな分かりにくい目印にいとも簡単に気が付き、挙げ句の果てには一般的ではない土魔法をあんなに上手に操って見せた。
極め付けは産まれてからずっとこのダンジョンにおり、人に会った事の無い筈のベルモンテのこの反応。今から思えば第四十一層でミカエラに魔導車の運転を代わってすぐにボスの部屋に辿り着いたのもそういうカラクリがあっての事なのだろう。
今ここにいる皆の思考が一つのものとなった。
──『コイツが……』と。
「失礼しました。先程も申し上げましたが産み出されて初めてお会いする方達は皆様でございます、そちらの方とも勿論、今初めてお会いしました。マスターと同じく強い土の魔力を持っておいででしたので驚いただけでございます。
話は戻りますが、私を同行させて頂ければこの先の道案内をいたしますが、いかがでしょうか?」
この状況でまだ知らぬ存ぜぬを突こうとする二人に呆れるが、まさかバレてないとでも思っているのだろうか。
「いいだろう、君からは敵意や悪意は感じられない。一緒に行こうじゃないか」
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