16.呪いの儀式
その足で向かったのは普段は行かないお高いレストラン、受け取った少しのお釣りでちょっと贅沢なご飯を食べ終わると、いつもとは一味も二味も違うお高い宿へと足を踏み入れる。
流石は受付で場違い感を感じるような高級宿、普段使いのありふれた宿とは違い フカフカ で触り心地の良い布団の感触を確かめると自然と笑みがこぼれる。
ただ残念なことに、カミーノ家にお世話になっている俺達にとってそれは感動出来るほどのものではなかった……慣れって怖いよね。
それでも嬉しかったのはウェルカムドリンクとしてワインが一本用意されていたのと、猫足の付いた白い陶器のバスタブが置かれていたことだ。
ワインを開けて少し飲んだ後は仲良くお風呂、ユリアーネを抱っこするように並んで入れば、ちょっと狭いが二人で一緒に入ることが出来た。
湯船に浮かぶ大きなお胸様に ドキドキ してしまい、我慢できずに手を回せば可愛らしい声が聞こえてくる。その反応に快感を見出し、もっと触りたくなって……もっともっと触ったった!
暖かなお湯を堪能しつつユリアーネの身体も満喫する、汗も流せて一石三鳥。
しばらく湯船の中で乳繰り合っていると手がふやけてきたので仕方なく出ることにした。
「いいからここに座って」
用意してあったバスローブに身を包むとベッドの端に座ってもらった。
不思議そうな顔をするが俺が指輪の箱を持ってきたことでこれから何をするのか感付いたみたらしく、緊張と嬉しさとを隠そうとしてたが隠しきれていない。
彼女の前に跪くと胸の前に箱を持ち、用意してあった言葉を並べる。
「ユリアーネ、キッカケは最悪だったね。
その事については今でも申し訳なさと謝罪の気持ちで一杯だ。 けど、その事で俺はユリアーネへの気持ちに気が付く事が出来た。
大好きだよ、ユリアーネ。
ずっとずっと思いを寄せていてくれてありがとう。
全然気付いてあげられなくてごめん。
まだまだ君より遥かに弱い俺だけど……守られてばかりの俺だけど、君を守れるように強くなる、いつかきっと君より強くなる。
だから、俺に君を守らせてくれ。
鈍感で、弱くて、良い所の見当たらない俺だけど、君への想いだけは誰にも負けない。
だからどうか、ずっと側にいて欲しい。君の隣に居させて欲しい。
俺の……生涯の伴侶となってくれないか?
愛してるよ、ユリアーネ。
俺と……結婚してくれ」
緊張のあまり考えてあったはずのセリフが頭からすっぽ抜け、想定していたはずの形とは違うモノとなったが思いの丈は十二分に伝えられた。
今にも崩れそうな顔を必死で笑顔にしているユリアーネ、その頬を一粒の涙が伝う。
「レイ……私……わたしっ」
ベッドから倒れ落ちるように抱きつくと同時、溜められた雫が溢れ出てくる。
背中に回された手には痛いと思うほどの力が込められており、それが彼女の想いの強さなのだと噛みしめながらそっと抱きしめ返した。
無言のまま伝え合う互いの想い。 しばらくして落ち着いたのか、小さな声で話し始めたユリアーネ。
「わたし、今、とってもとっても幸せよぉ。大好きな人にプロポーズしてもらえたんですもの……こんなに嬉しい事は他に無いわぁ。
ねぇ、レイ……私でいいの?……私なんかで本当にいいのぉ? ティナちゃん、エレナ、それにリリちゃん、レイの周りにわぁ沢山可愛い子がいるじゃない。戦う事しか能の無い、こんな私なんかがレイの傍にずっといてもいいのぉ?迷惑じゃない?」
「馬鹿な事を言うなよ、ユリアーネ以上の女なんて他にいない。それにユリアーネじゃなきゃ嫌なんだ、ユリアーネ意外じゃ駄目なんだよ。
ユリアーネ、もう一度言うよ。俺と結婚してくれ」
ゆっくり身体を離すと残っていた涙を手で拭う。真っ直ぐに見つめてくる琥珀色の瞳、その顔が満面の笑みに満たされると深く、深く頷いた。
俺の中で一番の笑顔。生涯、この時のこの顔を決して忘れる事はないだろう。
「はい、喜んで」
気持ちを、想いを、存在を繋ぐために重なり合った唇。二人が一つになった瞬間、お尻の辺りから頭のてっぺんまでを痺れるような心地良い感覚が駆け抜け、言い知れない幸福感が身体を満たしていく。
それはあたかもユリアーネが “幸せ” を流し込んでくれているようだった。
頭の片隅には『俺だけがこんなに幸せでいていいのか』との疑問が過りながらも感極まる想いは目頭を熱くし、ほどなくして幸せの結晶を産み落とした。
顔を離したユリアーネがそれ気付き、丁寧に手で拭ってくれる。
「どうしたの?」
「ごめん、なんか幸せすぎて」
二人で一頻り笑い合うとベッドに座り、膝の上にユリアーネを座らせ左手を取った。
取り出した指輪が細い薬指を進み、さしたる抵抗もなく一番奥まで入り込む。
最初からそこに在ったかのような一体感、心の中でもう一度『愛してる』と告げて視線を向ければ、はにかむ顔に胸が高鳴る。
その様子を凝視していたユリアーネは嬉しそうに手をかざしてそれを眺めている。
「これでユリアーネは俺の物だな。もう逃がさないぞ、覚悟はいいかい?」
薄暗い静かな部屋の中、僅かな光を反射して輝く誓いの指輪。一見すると綺麗ではあるが裏を返せば『呪いの指輪』、そう、これは呪いの儀式、ユリアーネを他の男に渡さないよう……俺から逃れられないようにするための束縛の呪い。
軽い口付けの後、もう一つの指輪がお返しとばかりに俺の薬指へと嵌められる。互いを縛る呪いの術具、これで俺はユリアーネのモノ、ユリアーネだけのモノとなった。
だがこれで良い。いや、これを互いに望み、心から欲したのだ。
「これでレイシュアは私の物ね」
そう言うと肩をすくめ、悪戯チックに小さく舌を覗かせる。
その顔の可愛いこと可愛いこと……『惚れてまうやろー!』と心の中で叫び声をあげて悶絶していれば、唇を奪われベッドに押し倒された。
押し入ってきた舌は想いの強さを主張するかのように執拗に俺を求めて絡みつく。
お互いがお互いを求めての濃厚な口付け、唇が離れると俺に覆い被さるユリアーネのバスローブがはだけ、豊かな胸が見え隠れしていた。たまらず手を伸ばせば漏れ出る嬌声、俺だけが聞ける特別な声を堪能しつつ身体を入れ替えベッドに寝かせると、ユリアーネを求めて再び唇を重ねた。
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