15.その指輪、プライスレス

 朝になってもアルは戻らなかった。

「しばらくしたら戻るでしょ」とルミアが言うので、とりあえず探すのは止めにした。


 リリィは心の具合が良くないようで『食こそが人生』というほどに食べる事が好きだったにも関わらず食欲がない。

 食べ終わるとすぐ自室に閉じこもるものだから、外から声をかけてみれば返事はあるものの元気は感じられない……とても心配だ。



 他人の心配ばかりでヤキモキしていても気が滅入るだけなので、しばらくやってなかった冒険者としての仕事をしてこようとユリアーネと二人、ベルカイムに向かうことにした。

 エレナも行くと言い出したが「修行、サボるの?」と怖い先生に睨まれ、またしても泣く泣くのお留守番。


 鼻水と共に涙を垂れ流す彼女に見送られ、微妙な気分になりながらも手を繋いで森を歩く。

 ゆったりとした足取り、特に何かを喋るでもなく、ただお互いを感じながら歩く道のりはそれだけで楽しく、二人とも終始笑顔だった。


「人気のない仕事を片付けてもらえるの、ほんと助かります。気を付けて行ってくるニャ」


 あっという間に到着したギルド、ミーナちゃんに笑顔で見送られ、賞味期限間近の余り物の仕事をこなすために再び町を出る。


 俺達にとっては簡単な討伐依頼なのでユリアーネに魔法を貰うと、二人で身体強化をしてサクサクと仕事をこなした。

 しかし、そうとう頑張ったつもりだったが、四枚目の依頼を終えた頃にはすでに夕方近く。討伐完了の手続きと明日の仕事の受付をして足早にギルドを後にすると、店じまい間近の宝飾店へと駆け込んだ。


「いらっしゃいませ〜」


 王都ほどの規模ではないしにろ、そこは交通の要たる商業都市ベルカイム。店に入れば高価なガラスのケースに並べられた宝石の数々が、極上の笑みを浮かべる店員さんと共に出迎えてくれる。


「わぁ〜綺麗っ。レイっ、これなんて素敵よぉ!あ、こっちもいいねぇ。こんなに沢山あるとぉ目移りしちゃぅぅ」


 色とりどりの宝石があしらわれた指輪やネックレス、ブレスレットといった、男の俺でも目を惹かれるアクセサリー達が照明の魔導具によって光を与えられ キラキラ と輝きを放つ店内と、それに触発されるように輝きを増したユリアーネの瞳。

 宝石もいいけど俺はユリアーネの方が良いと、目的もそっちのけで普段からは考えられないほどはしゃいでいる珍しい横顔を眺めていれば、生返事に気が付いたユリアーネと目が合った。


 リスのように頬を膨らまし、不満げな表情を見せるユリアーネは超可愛い。


「もぉっ、ちゃんと見てるぅ?選んでくれなきゃ買えないでしょぉ?」

「ごめんごめん、つい見惚れてちゃってさ。宝石より、ユリアーネの笑顔のほうが素敵だよ」


 嘘偽りのない思いを告げれば頬を染めて恥ずかしそうにする仕草がなお可愛い。抱きしめたい衝動に駆られるがココは店の中、他に客はなく、全ての店員さんから白い目で見られそうなのでグッと堪える。


「お似合いのお二人ですね、羨ましいですわ。本日は指輪をお探しですか?それならこちらなど如何でしょう?」


 接客を担当してくれた店員さんがオススメしてきたのは一組の指輪。緩く編まれた三つ編みを連想させる細い指輪は、スッキリとしていて指に嵌めてみても違和感を感じさせないのに、それでいてさりげない存在感があり一撃で気に入った。


「コレぇ可愛いわねぇ」


 目をキラキラさせ左手の薬指に嵌めた指輪、手をかざし嬉しそうな顔で色々な角度から眺めるユリアーネもお気に召したようだが、一応の確認をとる。


「俺はコレが気に入ったけど、ユリアーネはどお?」

「うん、私もコレが良い。サイズもピッタリだしぃ、私の為にあったみたいだわぁ」


 指輪の嵌る左手を『もう返さない』とばかりに抱きかかえる姿が微笑ましい。

 すると俺が返した指輪を手に取った店員さんがリングの内側を見ろと指を差す。するとそこには青色の小さな石が一つだけあしらわれていた。


「こちらのペアリングは愛し合うカップルの為に造られた逸品です。デザインも同じ柄になっていますが注目するべきはこの青色の宝石、これはブルーダイヤと言ってとても希少な石なのです。

 この石が選ばれたのには二つの理由があります。

 一つは、石の種類であるダイヤモンドとして。ダイヤモンドとはこの世に存在するあらゆる物質の中で一番固く “二人の愛が永遠に壊れない” ための象徴です。

 二つ目は青い色です。昔からの伝承で “結婚の儀式に花嫁が青い物を身に付けると幸せな夫婦になれる” と言われております。

 その二つを掛け合わせ『永遠に続く幸せ』という願いを込めてブルーダイヤが埋め込まれているのです。

 今のお二人にはピッタリな一品だと思われますが、いかがでございましょうか?」


 両手を合わせて店員さんの話を真剣に聞いていたユリアーネの目は、ここにあるどの宝石よりも キラキラ と輝いており眩しかった。

 その瞳を俺へと向けてくるユリアーネ……分かった、何も言わなくてもいい、コレにしよう。


「あぅぅ……」


 オモチャを取り上げられる子供のような悲壮感溢れる目をして指輪を外すのを躊躇うが、ちゃんと後から渡すと言い聞かせて用意された箱に入れてもらった。

 二つの指輪が収まる小さめの箱はそれだけでも商品になりそうなほど綺麗な装飾が施されており、店員さんが言うには、箱の中にある指輪台を外すと小物入れとして使えるようになっているらしい。

 アクセサリーを入れておけるのでまた他の物を買いに来るようにとの耳障りの良いセールスを受けた後でお会計をお願いした。


 俺達が買った指輪はびっくりするほどの値段。普通の人では返却を余儀なくされる数字に思わず聞き返しそうになったのだが、そこはなんとか気合いで回避してメンツを保つことに成功。

 しかし手持ちではまったく足りなかったので魔石払いでお願いし、緑の魔石を四つも支払った。



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