12.夫婦仲
夜も大分遅い時間になった事もあり、話が一区切りついたところで解散してそれぞれ宛てがわれた部屋に移り休むことにした。
結局毎度のように屋敷のメイドさん達には部屋の用意などでバタバタさせてしまった事を申し訳ないと思いつつ一人で極上の湯船に身を沈める。
そんな癒しの時間を共にするのは俺の胸に光る銀色の指輪。手に取り眺めて見ると思い出されるのはやはりユリアーネの事だ。
彼女の意志通りティナとも夫婦になる事が決まった……だが、ここからだ。
これからはモニカとティナ、二人共を俺と一緒になって良かったと思わせられるように努力しなくてはならない。それが複数の妻を持つ事に対する責任だと自分なりに理解している。
でも、とうとうティナとも恋仲かぁと、少し感慨に耽る。
五年前に盗賊のアジトで出会い、それからずっと想いを寄せてくれていたのに、身分不相応とその想いに応えられないままだった。それでも尚、諦めずに俺の事を想い続けてくれた彼女に、特殊な形とはなってしまったがやっと応えることが出来た。
今まで俺を想ってくれていた分まで応えないといけないなぁなどと考えていると、いつもなら入ってくるモニカが来ないことに気が付いた。
風呂から上がるとモニカが居ると思っていた部屋は灯りが落ちている。不思議に思い部屋を見渡たせば窓際のソファーに座る人影が月明かりで見えた。違和感を覚えるものの近寄って行けば、そこにちょこんと座っていたのはネグリジェ姿のティナ。
「どうしてここに居るんだ?それにその格好……」
聞くまでもない事だったが突然の事で ドキドキ してしまい咄嗟に口から出たのはそんな野暮な言葉。月明かりでも分かるくらい顔を赤らめたティナはぎこちない微笑みを貼り付けていた。
意を決したかのように勢いよく立ち上がったかと思いきや、声をかける間もなく猪の如く飛び付いてきたが難なく抱き留めることに成功。フワリと漂う石鹸の香りと少し甘いティナ自身の匂い、モニカより少しばかり引き締まった感触が背中に回す腕から感じられる。
胸に感じるティナの鼓動は早鐘のように早く、ティナも俺と同じで ドキドキ しているのがよく分かり、心持ちは同じなのだと些細な幸せを感じられた。
「モニカがね、レイはネグリジェが好きだって教えてくれたの。こんな格好、人に見せるの始めてなんだからねっ!
緊張しすぎて息切れしそう。心臓が飛び出しそうだわ…………ねぇ私の事、好き?」
「あぁ、もちろん好きだよ。待たせてゴメンな。これからはずっと一緒にいよう」
「嬉しい」と俺の胸に顔を押し付け泣き出したティナ、出来る限り優しく髪を撫でて彼女が落ち着くのを待った。
「モニカには悪いけど、レイが私を受け入れてくれた事、本当に嬉しい。もう我慢しなくてもいいんだよね?もう私を置いて行かないんだよね?ずっと傍に居ていいんだよね?」
返事の代わりにキスで応えるとティナの腕が首に回りもう離さないとばかりにキツく抱きついて来る。そのまま抱き上げれば顔が離れ、月明かりの下、涙に濡れた薄紅の瞳が揺らぎ無き眼差しで俺を見つめる。
「これでお前は俺のものだぞ?」
顔を赤らめ満面の笑みでコクリと頷くティナのオデコにキスをすると、そのままベッドへと向かい歩みを進めた。
△▽
空に明るさが戻り始める頃、いつもとは違う匂いで意識が舞い戻る。
目を開ければオレンジ頭が俺の胸を枕にしていた。
そうか、これはティナの匂い、昨晩のことが思い出されようやく二人一つになれたことに喜びを感じると共に愛しさが込み上げてくる。
寝ているティナを起こさないように静かにキュッと抱き寄せるとムクリと頭が上がり、ゆっくりと顔がコッチを向く。
しまったと思いつつもそれはそれで仕方がないので微笑みを向けた。
「おはよう、俺のティナ」
目はバッチリ開いており、見えてるはずなのに見ていないボーっとした様子。
突然ハッとしたかと思えばボフッと音が聞こえそうなほど急激に顔が赤くなり、それを隠すように俺の胸へと額を押し付けた。
「お、おはよぅ……」
消え入りそうな声で挨拶をするティナが可愛く思えて悪戯心をくすぐるが、なにせ初めて一緒に迎える朝だ、今日のところは我慢しよう。
たがそれとは別に スベスベ の背中を堪能していれば、指を這わせる度に ピクピク と反応が返ってくるので楽しくなってきて触り続けていると色っぽい声が混じり出す。
「ちょっ、コラっ……あはぁっ、やめ、やめて、はぁぁんっ」
もっと可愛い反応を楽しみたかったが仕方なしに止めてやれば、俺の胸に顔を付けたままジトッと上目遣いで睨んでくる。
「俺のモノなんだから何されても文句ないだろ?」
「意地悪っ!」
布団を被り隠れてしまったがそれでもそこにティナが居ることには変わりが無い。ヨシヨシと頭を撫でているとやがて亀のように布団からニュッと頭が生えて俺の目の前にやって来る。求められるままにキスをすると、再びパタンと俺の胸に頭が落ちる。
「そろそろ起きるか?」
「嫌っ」
まぁいいかとしばらくそのまま二人でまったりしていると扉をノックする音が聞こえきた。
「お嬢様、朝なのです。朝食に遅れないようにちゃんと来るのです」
既にクロエさんにはティナの居場所がバレているらしい。それはそうか、ティナの部屋に行けば居ない事など分かるし何処にいるのか想像すれば判りそうなものだもんな。
そう言えば彼女はティナ専属のメイドだから俺とティナが一緒になると漏れなくクロエさんも付いてくるのか?
そうなると彼女の想い人であるアルと一緒に居られるようにな……まさかとは思うが、そういう打算でティナをけしかけていやしないだろうな?
「ティナ、聞こえたろ?そろそろ準備しないとクロエさんが乗り込んで来るぞ」
「えーっ」と渋るティナに「もう少しだけな」とイチャイチャした後、怒られる前に着替えることにした。
部屋の扉を開け廊下に出ると「おはよーっ」と明るいモニカの声がする。
「おはよ、気を遣わせて悪かったな。モニカは何処で寝たんだ?」
「サラと同じ部屋だよ。私が準備遅かったから先に行ってもらったんだ」
そう言って俺の腕にギュッと抱き着くモニカ。準備が遅かったってワザとだろ?やはり俺がティナと寝ているのを気にして待っていたんだろうな。口では平気とは言うけれど内心穏やかでないのがよく分かるようになってきた。
「モニカ」
「なに?」
見上げてくるモニカの頬に手を当て優しくキスをして「ゴメンな」と謝ると、キスをされ返されニッコリ微笑まれた。
「あーっ!ずるいっ、私にもチュウしてよっ!」
反対の腕に絡みつくティナにもチュッとすると俺の頬に手が添えられグイッとモニカの方に向けられる。
「今度は私にしてよぉ〜」
言われるがままにモニカにチュッとすると今度は反対に顔がグイッと……。
「次は私の番〜」
「なぁ、これ、いつまでやるんだ?」
それでも嫌ではないのでティナにチュッとするとまたまた反対にグイッとされる。
そろそろ首がグキッていかないか?
「ずっとかな?二人もお嫁さんもらうんだから責任はちゃんと果たしてよねっ」
「いや、それはそうなんだが……朝飯は?」
モニカにチュッとすると今度はモニカとティナが示し合わせたように二人して前屈みになり顔を合わせて笑い合った。
「ちょっと遅れるくらいいいじゃないのね〜」
「そうよね〜、こっちの方が大事だわ。ふふふっ」
二人が仲良くしてくれるのならそれに越したことはない。二人共を愛すると決めたのは俺なのだから、俺は俺で果たすべき責任を果たそうと改めて心に誓った。
だが、朝飯は早く食べたいぞ……。
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