51.不人気投票1位のヤツ
艶々としたピンク色の肉壁は朔羅の切れ味を持ってしても僅か数ミリの傷を付けるのみで斬り裂く事は叶わなかった。
その直後、仕返しとばかりに身体の至る所から小さな穴が開くのが目に入ってくる。
「あ、やべっ」
空中にある足元に小さな風壁を作ると、それを蹴り急いでその場を離脱する。途端に茶色い液体が発射され、地面に着くと同時にヤバ気な音と煙を上げて穴が開いた。
「うぉぃっ!地面が溶けるって何!?」
「ブフォォオォォッ」
鳴いているのか息を吸っているのかよく分からないが変な音を立てたタリロンブリスは大きく伸びをすると、先端にある口を花のように開き俺を目がけて上から落ちて来る。
開いた口は四メートルにもなり、ギザギザとしたノコギリの刃のような小さな白い歯で縁取りをされた赤い壁にボツボツとコブのようなものが無数に付いており、そこから先程の茶色い液体が染み出しているのが見て取れた。
「うへっ、気持ち悪っ」
別段早い動きという訳ではないので避け分には何の問題もない。素早く飛び退くと俺の居た場所で口が閉じられ、頭から地面へ突き刺さったかと思いきや、そのまま地面の下へと潜って行く。
後に残ったのは脈打つように蠢くピンク色の肉壁。タリロンブリスはアーチを描くように出て来た穴から頭を突っ込んだ穴へと器用に身体をくねらせ移動をしている。
隙だらけじゃん?と思い斬りかかろうと動きかけたその時、直感に従いその場を飛び退けば上から茶色い雨が降って来るので更にもう一歩後ろに飛び退いた。
接近戦は危険だと判断し距離を取ると同時に、火と風魔法でそれぞれ三メートルの槍を創り出し蠢くピンクの壁に撃ち込んでみる。
しかし魔法の耐性も高い、そう言われるだけの事はあり火槍は体表に焦げを残したのみ、風槍に至っては跳ね返されて終わりだった。
悪寒がして飛び出せば、地面を割って再び頭を出したタリロンブリス。地上に出た瞬間に大きな口を開けて俺を丸呑みにしようとしてきやがったのだ。
そのまま上空で身を捻ると反転し、茶色の雨と共に俺を目掛けて降って来る。避けても同じ事の繰り返しだと判断し、口を開ける瞬間をその場で待つことにした。
奴も俺が何をするつもりなのかを分かっているのか、十字に裂けた口の頂点が動いたのは俺との距離が僅かに三メートルの地点。
口が開き始めたのを確認すると火槍を三本作って撃ち込む。それと同時に、すぐ後に降り注ぐであろう茶色の雨対策にと風壁を三重に張り、身をかがめて地面スレスレを全力で飛び退いた。
地面を転がる俺の耳に届く奇妙な破裂音。作戦は成功、結果は?と振り返ると動きを止めてそそり立つピンクの壁。
外がダメなら中からと、口の中に撃ち込んだ火槍は見事にタリロンブリスの頭部を破壊したようで、口のあった先端部分はすっかり無くなっており、ダラリと垂れた分厚い体表の中から茶色の液体がドロリと流れ出ていた。
「終わり?」
ティナの声がみんなの思考を代表した時だ。
ディュリュリュッッ
ジュボボッーーーッ!
「えぇっ!?うっそぉっ!!」
「うぇ、キモいキモいキモい……」
「おいおい、反則じゃねぇ?」
我が目を疑う光景がそこにあり、嫌そうな目で見ていたみんなの視線に更に嫌悪感が増した瞬間だった。
なんと、破裂した先端から新しい頭部が生えて来たのだ。
「ブフォォオォォッ」
新たな口を全開に、再び音を鳴らしたそこに間髪入れずに火槍を叩き込むと、先端から五メートルほどが膨れ上がり破裂したのだが、またすぐに気持ちの悪い音を立てて次の頭部が生えてくる……。
ちなみに、また口を広げたのでもう一度同じ事をやってみたが結果は同じで、少しばかり短くはなったようだ。
「うわぁ……短くなったけど、アレって何回も同じ事やってちっちゃくして行くのかなぁ?」
「うそぉ?めちゃくちゃ長いよ?何回やるの?」
「斬れない、魔法も効かない、とあればそれしか方法がないのかもしれませんね」
「二つに切れたら切れたらで、二匹になりそうですねぇ」
エレナさん、変なこと言うの止めてください……
っつかコレ、一体何時間かかるの?
──んなもんやってやれるか!
「サラっ!」
「……はいっ!」
突然呼ばれて戸惑ったのか、一瞬の間が空いて返事が来る。
「サソリの時の奴だっ!」
返事の代わりにコルペトラの嵌った杖を両手に持つと、すぐに赤い光が溢れ出す。
ちょびちょびちょびちょび削って行くなど性に合わない。一撃で消し去る事にした俺は砂漠のボス〈モラードゾンガル〉を焼き払ったサラの魔法に頼る事にした。アレなら当てる事さえ出来ればドラゴンをも骨だけに出来そうな威力がある。
──そう、当たりさえすれば……
サラの準備が出来るまでの僅かな間、俺は俺で準備しなければならない事がある。
頭部を破壊されても再生してくるタリロンブリス、部分的に破壊したらエレナの冗談ではないが本当に分裂しそうで怖いし、それでなくともまた再生されかねない。
──ならば全身を一気に!
と、いうわけで土の魔力を全開に地面に向けて解き放ち、ボス部屋全体の土の中深くまで魔力を浸透させる。そうして分かるのはタリロンブリスの異様に長い全長、少なくとも百メートル、下手したら二百メートルありますか?と聞いてみたくなる程の長さだ。
土を流動させタリロンブリスの身体を徐々に押し上げると、ピンク色の長〜い身体が地表に露わになってくる。
「ギャーーッ!きーもーいーっ!」
「あれはちょっと……やだね」
「でも、これの小さいものは畑にいっぱいいるんですよ?ミミズさんがいないと畑が元気になりません」
「じゃあアンタがアレ飼いなさいよ」
「えぇっ!?……ごめんなさい」
ヌタヌタと蠢き地表を嫌うピンクの艶々とした気色の悪い物体、百メートル四方の広い部屋に所狭しと全身を表すと、再び地下に戻ろうと頭を高く持ち上げて地面へと振り下ろした。
「くぅっ、なんてパワーだ」
やはりと言うかなんと言うか、俺の支配下にあるこの部屋の地面に奴の頭を通して土魔法が干渉して来た。振り下ろされた頭も勢いと重量とで凄まじいパワーとなっているのだが、それに加わるのが見た目に反して強い土の魔力だ。
地上に全身を曝け出すのは不味いと感じているのか、必死になり何度も何度も地面へと加えられる衝撃に、あまり得意では無い土魔法を気合いで集中させると俺も必死になって地下に潜ろうとするのを阻止する。
部屋全体にのさばっているタリロンブリスをもっとコンパクトに纏めてやらないとサラの魔法の範囲に入りきらないのだが、予想以上の抵抗を受けてしまい、地面にかけた土魔法の維持だけに手一杯で他に手が回らない。
その時、ボス部屋の中心付近に炎が現れ、十メートル程の円を描くのが目に入った。
「サラ!ダメだっ!ヤツの全身を入れるくらいの大きさにしろっ!」
驚いた顔をした後で口を噤むと、右手に持った杖を突き出し左手をコルペトラに向けて魔力を更に注げば、赤い光が強さを増し、その中に少量の白い光も混ざり始める。それに呼応した魔法円は グンッ と二十メートルまで拡がると、そこからジワリジワリと大きくなって行くが部屋全体となるとかなり足りない。
──ダメだ、やはりタリロンブリスをもっと小さな範囲に押し込めないと……
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