17.帰ってきたベルカイム

「ティナが居ないと寂しくなるなぁ。たまには顔を出しておくれよ?元気でな」

「ちゃんとレイ君の言うこと聞くのよ?他のお嫁さんとも仲良くするのよ?」


 ランドーアさん、クレマニーさんとしっかり抱き合った後で魔導車に乗り込んだティナ。

 テーヴァルさん以下、カミーノ家のみんなに見送られゆっくりと走り出す中、開いた窓から身を乗り出し指輪の嵌った左手を振り続けていた。


「本当に良かったのですか?今ならまだ戻れますよ?」


 何処かで聞いたようなセリフだがそれは俺が君に言った事じゃないかと微笑ましくも二人の会話に耳を傾ける。


「寂しいのはあるけれど戻る気なんて更々無いわよ?やっと一緒に居られるんだもの、もう離れないわ。ねぇモニカ?」

「そうよねーっ」


 隣に座るモニカが振り返りティナとにこやかに笑い合う。隣がいいと言い張るかと思いきや、あっさりサラの隣に座ったのには拍子抜けしてしまった。


「それで、そういうサラはどうするのよ?レイのこと好きなんでしょ?既に婚約は済ませてるんだしヤル事やったの?」


「ちょっとティナ!?」


 一瞬にして茹でタコのように赤くなるサラを盗み見つつも、街中で魔導車を運転しなくてはならない。前を向かなくてはならないというジレンマに襲われながらも俺の意識は二人に向いていた。

 女子トークってストレート過ぎて怖いな。それはこの三人がそれほどまでに仲が良いからなのだろうか?って言うか、これが聞きたかったからティナはあそこに座ったんだろうな。


「ティナ〜、デリカシーないわよ?ついこの間卒業したばかりなのに、なんでそんなに先輩面してるのぉ」


「身内しかいないんだからいいじゃないっ。サラは奥手なんだから私達が後ろからグイグイ押さないと一歩が踏み込めないのよ?ほら、モニカも親友として後押ししてあげなさいよ」


「だ、大丈夫よティナっ、私は大丈夫だから!」


「なぁにが大丈夫なのよっ!好きなくせにキスの一つもしてないんでしょ?それのどこが大丈夫なのか説明してごらんなさいよっ」


 まぁティナの言い分も分かるけど、人それぞれのペースというものがあるのも判ろうか?


「それ以上サラをイジメるなよ。サラにはサラの考えやタイミングがあるんだ、それをティナの感覚で押し付けるのは良くないと思うぞ?」


 口を尖らせ窓の外を眺めるティナを横目に見ると、この中ではティナが一番の自由人だなぁなどと思う。だが今日の午後にはその更に上を行く自由人がこの輪に加わわり賑やかになるのだろうなと思いつつ、久方ぶりのベルカイムに向けて魔導車を走らせた。



▲▼▲▼



 毎度毎度思うのだが町中に魔導車で乗り込むのは注目を集め過ぎると感じて気が退ける。それが知り合いの多いベルカイムでなら尚のことだ。


 町の門で魔導車を降りるとそれだけで注目が集まっていた。それに加えて降りてくるのは美女、美少女の群れ。そう、あまり気にしていなかったがこのメンバーはヤバイくらいの見目麗しき女性達の集まりだ。王女様に貴族の娘二人、お付きのメイドさん二人も美人ときて、更に俺の抱く青髪の美少女だ。注目されないはずがない。


 門番をしていたのは俺がこの町に初めて来たときから顔見知りの人だったが、その光景に俺の事は目に入らない様子。モニカ達の姿に口を開けて魅入っていたが、それで門番として大丈夫なのかと心配になる。すぐ隣まで近付き、目の前で声をかけるとようやく正気に戻ってくれた。


「お、おぉ……レイじゃないか。この美人の群れはお前の連れなのか?いやはやなんとも羨ましい限りだな、今度紹介してくれよ?」


「やだ」とは言えず「今度ね」と濁して町中に入り、その足でギルドへと向かった。

 言うほど時間が経っている訳ではないのに妙に懐かしい街並みに思え、モニカ達と一緒に周りをキョロキョロと見回しているとティナに冷たい目で見られた。


「レイは地元よね?なんで キョロキョロ してるのよ?不審者みたいだよ?」


 グサリと刺さる一言で元気を失いつつも、到着したギルドに入れば受付で暇そうにしているミーナを発見して嬉しくなる。


「ミーナ!久しぶりっ!」

「おぉっ、レイさんじゃないですか。何処かに飛ばされたって聞いて心配してたニャ。マスター呼んで来るからちょっと待っててニャ〜」


 ぴょんっと椅子から飛び降り、頭の上の猫耳を揺らして奥へと駆けていく少女。久しぶりに見たミーナの微笑みは俺の心に染み渡り元気をくれた。

 すると俺に気が付いたペレットさんが入れ違いにカウンターにやって来る。


「おひさ〜、なんだか知らないけど美人ばかり連れてるわね。そんなところをみるとミカルの兄弟って感じよね。まぁなんにしろ無事でよかったわね、みんな心配してたのよ?ウィリックなんて……」


「僕が何だって?」


「何でも〜」と手をヒラヒラとさせながらそそくさと自分の机に戻っていくペレットさん。ミーナに連れられてやってきたウィリックさんは溜息を一つ吐くと俺に向き直り奥の部屋に案内してくれた。



 時刻は丁度お昼時、ミーナが適当に持って来てくれたのは懐かしのギルド飯だ。ウィリックさんとミーナを混じえてみんなで食べながら、大雑把ながらも今までの事を話した。


「そうか、すると其方がサルグレッド王国第二王女サラ・エストラーダ 殿下なのですね?」


「その通りですがサラで結構ですよ。ベルカイム支部ギルドマスター、ウィリック・ハンセンさん」


「おやおや、私などの名前をご存知とは嬉しい限りですね。それで其方のお二人はレイ君の妻という事かい?師匠が師匠なら弟子も弟子だね、恐れ入ったよ」


 ん?ウィリックさんは俺の師匠の事を知っていたのか?


「あれ?言ってなかったっけ?僕は君の先生でもあるルミアの弟子なんだよ?剣を習った訳ではないが何年かあの家に住んでいた、当然君の師匠の事も知ってるよ。だからと言ってはアレだけど、こう見えても魔法は得意なのさ」


 は!?聞いてないしっ!何それ、ビックリ発言だよ。


 証拠にとばかりに指先程の小さな水玉を一瞬にして十個も創り出すと、それがミーナの周りを縦横無尽に回り始める。水玉を叩き落とそうと「ニャニャニャニャニャッ!」と必死に腕を回すミーナ、うん、微笑ましい。


「先生も珍しく自分の所為だって気落ちしていたからね、早いところ顔を見せてあげてくれよ」



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