24.初めての魔物狩り

 クロエさんの案内のもと町の外に出ると、依頼書にあったハングリードッグが潜んでいるとされている草原にやって来た。そこは他と違い、草の丈が俺達の胸近くまで伸びていたので小さめの獣が身を隠すにはもってこいの場所。


 俺とリリィ、アルとクロエさんが二人一組で草を掻き分けゆっくりと歩いて行く。内心ドキドキしながら慎重に進んで行く先、不自然に草が揺れた。

 手で合図をして立ち止まり、息を殺して様子をみれば、草の揺れが左方向に動いて行く。


 剣を抜き無言で合図を送るとアルもリリィも戦闘態勢に入る。クロエさんも小さな黒い武器を取り出したようだが、普段と変わりない様子でアルの背後で暇そうにしている。元々彼女はただの案内、狩るのはあくまで俺達三人なのだ。


 二方向から草の揺れていたポイントにゆっくり近付き挟み撃ちにする作戦、だいぶ近付いたところで黒い影を視界に捉えた。間違いなくハングリードッグ、二匹いる。

 討伐依頼は五匹なので数は足りないが初めての魔物との実戦、自分達がどれくらいできるのか小手調べにはちょうど良かった。


 アルに合図を送ると、リリィと並び同時に駆け出す。

 草を掻き分ける音と共に俺とリリィがハングリードッグに向けて走り出すと、当然のように気が付いた奴らも迎撃するため飛び掛かって来る。


「ガルルルッ、ガゥッ!」


 それに向かい振われる剣、しかしそれぞれのハングリードッグに咥えられてしまった!

 勢いはあるが重さはない。そのまま力任せに振り回すと、途中で剣を離して草の中へと姿を消してしまう。


 その一方で、噛まれた短剣を飛びかかってくる勢いに合わせて引き寄せると、逆の手に持っていたもう一本の短剣を首元へと突き立てたリリィ。流れるような鮮やかさで最初の一匹を仕留めるのに成功する。


 姿こそ見えないが、残りの一匹が移動するのは草の波を見れば一目瞭然。近くまで迫ったハングリードッグを迎え撃つべくアルが姿勢を低くする。

 俺と同じように飛びかかるハングリードッグに降り出したロングソードが受け止められるかと思われたが、噛まれることなく口を通過した刃が頭の半分を宙に舞わせた。


「結構すんなり終わったな」

「ああ、つまらんな」


 言葉を交わした直後に背後から ガサガサッ と草の音が聞こえたので振り返ると、俺達に向けて迫り来る四本の草の波。剣を構えると同時、飛び出してくる黒い影。


「ガゥッ!ガッッ!!」

「ガゥゥゥッガガッゥッ」


 俺に迫る二匹の内の一匹に向けて剣を振ると、またしても咥えられてしまう。だがそれは予測済み。剣の勢いを落とす事なく飛びかかって来たもう一匹に打つけてやると、二匹は地面に落ちて転がるもののすぐに体勢を立て直し起き上がる。

 しかし、それより早く切り返した俺の剣が一匹のハングリードッグを捕らえると、鈍い肉の感触と共に首元を斬り裂く。


「キャゥッ……」


 小さな断末魔を挙げて動きを止めた黒い犬。残る一匹は素早く横に飛び退くが、その背後から迫るリリィの双剣。

 しかし流石は身体能力に優れた動物、持ち前の反射神経で二つの剣を見事に避け切り草の中に逃げ込まれてしまった。



 アルに飛びかかった一匹もロングソードに噛み付くものの、アルのパワーで剣ごと振り回されて草の中へと姿を消す。もう一匹はアルの足元を狙いに行ったが、遠心力の乗った足に顎を蹴り上げられ、空中で一回転すると鈍い音を立てて地面へと落ちた。


「ギャウッ!」


 脳震盪でも起こしたのか、覚束ない足で立ち上がろうとするハングリードッグ。アルのロングソードが頭を突くと力無く倒れて動かなくなるものの、ここぞとばかりにもう一匹が横から飛びかかる。

 だが、更にその横からリリィが体当たり気味に突撃すると同時に黒い身体に短剣を突き立てる。トドメにもう片方の短剣も首に突き刺したのだが、今度はリリィに飛びかかる黒い影があった。


 それを察して振るった俺の剣がハングリードッグの口に咥えられる。だが流石に三度目ともなれば対応にも慣れてくるというもの。


 剣を通して重みを感じた瞬間、力任せに方向を変えると、今度は地面に叩きつける。体勢を崩して起き上がろうと踠く黒犬、力強く踏み込んで腹を蹴り上げれば、狙い通りアルの方へと飛んでいく。

 「おいでやす〜っ」と言わんばかりに大上段に振りあげられたロングソード。渾身の力を込めた一撃は背骨すら断ち切り、地面に落ちたときには二つの肉塊へと成り下がっていた。


「もういないよな?」


 ハングリードッグの討伐証明部位である細長い尻尾を切り取り、全部纏めてリリィのポシェットに入れてもらおうと渡したのだが、物凄く渋い顔をしたのは見なかったことにした。


 記念すべき初仕事が終わったので町に戻ろうと草の中を歩いていれば ガサガサ と嫌な音が聞こえて来る。


「またぁ?」


 立ち止まって様子を見ていたのだが一向に襲ってくる気配がない。

 不思議に思って足を強く踏み込み大きな音を鳴らしてみたら一目散に逃げて行ったようなので、もしかしたらもっと小さな獣だったのかもしれない。




 その後は何事もなく順調にギルドに戻り、討伐完了の報告のために受付へと向かう。

 カウンターに居るのはどこでも可愛いお姉さんなのかな?ベルカイムのミーナも言わずとも知れずなのだが、ここのお姉さんも文句のつけようもなく可愛い。尻尾とカードを置きながらもついつい見惚れてしまった。


「ハングリードッグ五頭の討伐完了と追加分の買取ですね、直ぐ処理しますのでちょっと待ってくださいね」


 あ、間違えて六本出しちゃった。でも尻尾なんて買い取ってくれるの?何に使うんだろ?


「依頼を受けていなくても害獣に指定されている魔物を狩ったときは討伐証明を持って来てください。依頼ではないぶん報酬は少なくはなりますけど、ギルドがストップしない限り幾らでも買い取ります。

 理由はですね、どれだけ狩ってもちっとも減る気配がないので、危険だと判断されるまで放置するよりも未然に数を減らしておく方が安全だからです。ですから、何かのついでで倒した魔物の討伐証明についても皆さんが働いてくださったことに対する報酬をお支払いしますので忘れずに持って来てくださいね」


 なるほど被害を未然に防ぐ、か。ならガンガン狩っていいんだな。今度から頑張ろう。


 お姉さんが手渡してくれた小さな皮袋、そこには銀貨が十一枚入ってた。三人で狩ると一日のご飯代と宿代で全部消えてしまう。

 流石は入門編の魔物、これはもっとたくさん狩らないと、だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る