20.愛の力
ガンッ!ガガガッ!
人が幸せに寝てるのを妨害するのは誰であってもムカつくもんだ。睡眠とは心と身体を休め、次の日も元気よく生きていく為に必要不可欠なもの。それを妨げるのはよろしくないし、ましてやその理由が理由ならば許すことなど出来はしない。
「……ん、どうしたの?レイ……」
仕方なく、仕方な〜く起き上がると隣で一緒に寝ていたサラも目を覚まし、きっとまだ眠いのだろうに消え入りそうな声をかけてくる。
俺だけでなく、サラの安眠も妨害しやがった、お仕置き確定だな。
「お客さんのようだ。風の結界も残しておくし、すぐに戻るから、サラはこのまま寝てていいぞ」
頬に手を当ててキスをすると素直に目を閉じた。銀の髪を撫で布団をかけ直してやると、ガウンだけを羽織り朔羅を手に取る。
「んだよっ!入れねぇじゃねぇかっ!くそっ!なんなんだよっ、これは!さっきはこんなもんなかったぞ!」
こんな事だろうと寝る前に俺達のキャンプ全体を包み込むように張った〈どこでも安眠くん〉。ルミア特製の結界はその役目をキチンと果たし侵入者を拒んでいた。
透明な壁を蹴り、それでも駄目ならと剣で斬りつけていたが歯が立たずイライラしている様子の十五人もの男達。その中心には先程現れた優男がおり、当然その横には下衆男の姿があった。
「入れなくする為にソレはあるんだが?」
さっきは偵察に来たのだろう。テントを六つも張れるような金持ちの集団、それに加えてメンバーが女ばかりときた。顔と同じで性格もやはり下衆だったようだな。
寝静まった頃合いを見計らい、集団で襲えばやりたい放題だと思ったのだろう。冒険者とは名ばかりで野盗と何も変わらないな。
「てめぇ!これはなんだっ!何で入れねぇんだ!」
「うるさいなぁ。みんな寝てるんだ、静かにしろよ」
「やっぱり来たか」
安眠くんの結界に俺の風の結界を張って音を遮断しようとした時、アルが俺と同じくガウン姿に愛剣だけ持って外に出てきた。
「まぁ、来るだろうな。
それで?一応、要件を聞こうか」
「要件だと?お前、この状況見て分かんねぇのか?頭イカレてるんじゃねぇの?ガハハハハッ」
下衆男に釣られて ドッ と笑いが起こる。どの男も ニヤニヤ といやらしい笑いを浮かべており、胸糞が悪いとはこの事だろう。わざわざ確認の為に聞いてやったのに、野盗とは粗野なものだな。
「まぁ、待て。貴族の坊ちゃんか何か知らんが、状況ぐらいは説明してやろう。
君達は今、その不思議な物に守られていて安心してるんだろうが逃げ場が無いところに追い込まれているんだ、分かるかい?
そこに居れば安全だと思ってるのかも知れないが、実のところそうではない。君達の食料はやがて尽き、いずれはそこを出なくてはならなくなる。迷宮を出るには俺達の後ろの魔法陣まで行かないといけないからねぇ、分かるよね?
そうなると君の大事な美人の仲間達が酷い目に遭ってしまうかも知れない、そこでだ。どうだろう?君達の持つ金を俺に預けてくれれば、俺がコイツらを説得しようじゃないか。どうするね?」
どう考えても嘘だろう、金だけじゃなく女も戴きに来ましたって顔に書いてあるぜ?根こそぎ全部持っていく気満々じゃないか。
「一つ聞かせろ、このフロアには他にもキャンプを張ってるヤツが居たはずだ。そいつらにも同じことをしたのか?」
「そうだな、彼等は平和的に交渉に乗ってくれたからねぇ、賢明だったよ。
一応言っておくが俺達の中には五人ほどギルドランクがBの者がいる。変な正義感に囚われない方がいいと思うよ」
コイツらは日常的にこんなことをしているのか……完全に野盗じゃないか。こんな事をする奴等がいるから、昨日のキャンプの時に会った男の子のように馬鹿みたいな金額でも金を払おうとする奴がいるのかもしれないな。ここはそういう場所なのだろうか?
「アル」
「なんだ?」
「お前、ギルドランク何だっけ?」
「あぁ?ランクCのままだな」
「じゃあ、お前よりアイツらの方が強いって事か?」
「んん?ん〜まぁ、一般的に言えばそうなるな」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさとコレどけろよ!俺は銀髪のあの子とヤリてぇんだよ!あんな可愛い娘見たこと無いぜ、早くヤラせろよ!!」
「俺は兎ちゃんがいい!居るんだろ?獣人となんて、滅多にヤレないからなぁ」
「ちげぇねぇ、俺も兎ちゃんだな」
「おお、いいな。賛成だ。誰からヤル?」
本性丸出しの野党共、どうせならもう少しマシに演技でもしてればいいのに。しかもよりによってさっきまで一緒に寝ていたサラをご指名とは、アイツはただじゃおかない。
だがおかげでコイツらをどうするか決めることが出来たよ。
「レイさん……」
そんな時、野党共の話題に上がっていた兎ちゃんが登場してくる。彼女は耳がとても良い。のほほんとした性格にも関わらず、獣人として、人間から逃げ隠れしながら生活していたからか警戒心も強く、寝ていても俺達の会話が聞こえて起きてきてしまったのだろう。
「うひょー!かっわいいねぇ!」
「マジかよ、これは上玉だな」
「あいつ捕まえて売れば、すっげー金になりそうだな」
「待て待て!まずは楽しんでからだろ?」
「そうか!ちげーねぇな」
しかも着ている服は白とオレンジの縦縞模様の可愛いパジャマ、少し大きめのサイズなのか手が隠れてしまうくらいのブカブカ感がまた堪らない可愛さを演出しており、極め付けは先端に兎の尻尾のような白いボンボンの付いた黄色のナイトキャップ。ぴょこんと白い兎耳が生えてるのは市販のナイトキャップに自分でウサ耳用の穴を開けたのだろう。
こんな姿は初めて見たが、これはこれで良いものだな。とても気に入りました。
トコトコと俺の傍まで歩いて来ると、いつもなら飛び付いて来るところを邪魔にならないように気を遣ってなのか服の袖を キュッ と握った。
「パジャマ可愛いな、今度一緒に寝るときはそれでよろしくっ」
「あ、ありがとうございます。でも、一緒のときは……」
俯いて恥じらうように口籠るエレナに キュン ときてしまい、顔を覗き込んでキスをした。
「ヒューっ!見せつけてくれるねぇ!」
「ああ、羨ましいぜ!」
「俺達の番はまだかよ?」
野暮な野次馬がうるさいのでそろそろ黙ってもらおうと思い、どうするか少しだけ考えてみた。
「なぁ、アル。大変な事を思い出したぞ」
「なんだ?」
「寝床に財布を忘れて来たから、コイツらに払う金が無いんだ。どうしたらいいと思う?」
「そうだなぁ、それは困った。じゃあ、踏み倒すってのはどうだ?」
「おおっ!名案だなっ!よし、それで行こう。
っつ〜訳で金は払わない。代わりに違うものをあげようじゃないか」
金は払わない宣言に呆れた顔をする優男とその一味。ニヤニヤと下衆な笑いを浮かべているがエレナに向けられたそのウザい視線にもそろそろお別れを告げる時間だ。最後に可愛いエレナが拝めて良かったな。
「エレナ、ちょっとばかり怖いから手を握っててもらえないか?」
少しの戸惑いを見せたが「じゃあ……」と小さく呟くと背後に回り抱き付いてきたので、全身でエレナを感じられるこっちの方が嬉しく思えた。
「おいっ、聞いたか?アイツ、俺等が怖いんだとよっ」
「おうっ、聞こえたぜ。ギャハハハハッ」
「まぁ仕方ないだろ?兄貴の面が怖ぇからなっ」
「ちげぇねぇっ、ガハハッ」
「おいおい兄ちゃん、そんな格好で何するつもりだ?女侍らせても怖いのは変わらないんじゃねぇのか?ほぉ〜ら兎ちゃん、こっちにおいで。俺達と一緒に遊ぼうぜっ」
エレナが べーッ と小さく舌を出している姿に笑えたが、それを横目に朔羅の柄に手を掛け、エレナに当たらないように注意しながらゆっくりと抜き放つと ゲラゲラ と笑いが起こる。
「兄ちゃん兄ちゃん、まさか俺達と殺り合うつもりじゃねぇよな?目ぇ見えてるか?この人数に二人で挑むつもりか?大人しくソイツを渡せば痛い目みなくて済むんだぜ?なぁ、みんな」
お前ら金寄越せって言ってなかったか?と思いつつ、欲望塗れの下衆共に天誅を下すために朔羅に黒い魔力を込めると フワリ と刀身を黒い霧が覆い尽くす。
「おおっ!兄ちゃん、その剣カッコいいじゃないか。俺が使ってやるから金の代わりにソレ寄越せば許してやるよ。兄ちゃんには過ぎた武器だろ?ギルドランクBの俺様が使ってやるからありがたく思えよっ」
朔羅を寄越せと手を差し出す最初に俺達のキャンプに訪れた下衆男。そんなに欲しいのなら分けてやるよと、
【殺せ!殺してしまえっ!俺の女を狙う輩を根こそぎ殺せ!殺せ!殺せ!殺せぇ!】
膨らんでいく黒い霧と共に頭に響く ドロドロ とした気持ちの悪い声。それとは対照的に『大丈夫?』とばかりに心配そうに覗き込んでくる愛くるしいばかりのウサギさん。
ふぅっと一息吐き出すと腰に回されたエレナの手に指を絡めてそっと握りしめた。すると二人の愛の証である指輪同士が触れ カツッ と小さな感触がする。それが波動となり身体に染み渡れば、まるで浄化でもされたかのように黒い声は小さくなっていった。
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