23.偶然の出会い
「水着なんて持ってないから、買いに行ってもいいでしょ?」
ウキウキが隠せないモニカの提案で買い物に行く事になった。せっかくの海だしな、楽しめる時に楽しんで何が悪い。
ただ、盗賊団の討伐報告もしなければならないので水着などなんでもいい俺は別行動することにした。
「じゃあ俺はギルドに行ってくるよ。俺の水着はまかせるから適当なの買ってきて。雪の服も見てやってくれよ?コレットさん、そっちはまかせたからね」
言ってから少しばかり心配があることに気が付く、コレットさんはメイドだからと遠慮して海で遊ばないとか……言わないよな?
今も、モニカもサラも馬車旅では着ていなかった白い涼しげなワンピースに白い帽子を被っており、靴も可愛い花を配ったミュールを履いておりリゾート気分満載なのに、雪は着替えが無いので仕方ないにしても、コレットさんは普段通りの黒のケープを纏ったヘソ出し白シャツにハーフパンツ姿。気になっても仕方ないよな。
「コレットさん……」
仲間なんだからと言いかけて思い留まる。それよりも……
「コレットさんの水着姿にも期待してるから」
一瞬の間が空いたがニコリと微笑んだコレットさん。違和感を覚えたのは言うまでもなく、誤解だと言いだしかけて……やめた。
コレットさん、俺が期待したのはコレットさんが水着を着てみんなで一緒に遊ぶ姿であって、決して水着プレイとかそういうのではないんだが……。
彼女からは『分かってるわよ』とウインクが飛んでくるが、彼女はよく俺の心を詠む。
──それはどっちの分かってるなの!?
漁業と交易で栄えたリーディネのギルドは、町の大きさに比例して大きな建物だった。朝食を食べてからゆったりとして出かけたのもあり空いていて、受付には誰も並んでおらず可愛い受付嬢が暇を弄んでいた。
「おはよう、済まないけどギルドマスターに取り次いでもらえないかな?話は来てる筈だから言えば分かると思うよ」
ギルドカードを渡して待ってる間に掲示板でもと見に行けば、海は魔物が多いのか結構な数の討伐依頼が貼ってあるのだがどれもこれも聞いたことのない魔物ばかり。説明を読むと亀だの鮫だのクラゲだの、ほぼ全てが海で漁師に危害を加える奴みたいだ。
見たことの無い奴と戦うのも面白いかもしれないし、モニカには良い経験になるだろうなぁなどと思っていたら人が近付いてくる。モニカ達美人組が一緒ではないので絡まれる心配は……ないはずだ。
「ハーキース様、ギルドマスターがお会いになるそうです。ご案内致しますのでこちらにどうぞ」
やってきたのは先程の可愛いらしい受付嬢。身長が百五十センチあるのか疑わしいほどに背が低くベルカイムの受付嬢ミーナを思い出させた。
元気にしてるかな?思い出すと彼女の愛らしい笑顔が恋しくなる。
俺の隣を歩き執務室の扉を開けてくれる。どうぞと扉を抑えていてくれるので通り過ぎざまに「ありがとう」と頭を ポンポン してしまった。
──あっ、ミーナの感覚でつい……
ポカンと見上げてくる受付嬢に「ごめん」と片手を挙げて謝るとそそくさと部屋の中に入る。
待って居たのは背の低い小太りの男、カットされた髭がよく似合う中年のオッサンだ。
「職務中のナンパは止めてもらえると助かりますな、あれでもうちの看板娘なんです。まぁお掛けください、ハーキース卿。私はこの町でギルドマスターを任されているウィルバーという者です、お見知り置きをお願いします。
早速ですがティナーラの方で盗賊団ブラックパンサーの討伐依頼を受けられたそうですな。それで貴方がここに居ると言うことはブラックパンサーは壊滅したとみてよろしいのですか?」
「奴等も奴等を率いていたボスの魔族も居なくなった。奴等の根城には何人か捕まっている人が居たが、残念ながら息のある者は二人だけだったので保護して連れてきた。今は実家のロンというこの町の商人の元に送り届けたよ。
死んでいた者達は勝手だが根城の入り口に埋葬させてもらった。明日にでも討伐の確認をしてくれ、俺はそのロンという商人の宿に暫く厄介になっているから何かあれば連絡を。ついでに言うと奴等がかき集めた金を貰ったから報酬は要らない。では」
淡々と事実だけを告げると呆気に取られているウィルバーさんを残し席を立った。
丁度お茶を持ってきてくれたさっきの受付嬢が扉を開けたところだったので、せっかく用意してもらったのに悪いと思い頭を ポンポン と撫でると「ごめんな」と一言謝り執務室から出る。
「ふぅぅぅ……」
さっさと用事を済ませたので時間がだいぶ余ってしまった。もう少し喋って来ても良かったのだが、あの魔族のことを思い出すと虫酸が走りそんな気分ではなくなってしまったのだ。今思うとウィルバーさんにも素っ気ない態度で悪い事したな、すみません。
「レイさんっ!」
だいぶ早いが部屋に戻ろうと宿のロビーに入ったところで横から声をかけられる。
振り向けば美人姉妹リンとランが手を振りながらこちらに向かっていた。
「お一人なのですね。よろしければご一緒にお茶でも如何ですか?」
受付のあるロビーの更に奥にはちょっとしたラウンジがありソファーがいくつも置いてあった。そこに座ると宿のお姉さんが紅茶とお茶菓子を置いてくれる。
美人二人に挟まれなんだか落ち着かないままに紅茶を戴くが ニコニコ する二人に何を話していいのか分からず考え込んでしまう。
「えっと、昼からさ、みんなで海で泳ごうって話になってるんだけど良かったら一緒にどうかな?」
「まぁっ!誘ってもらえるんですね。嬉しいわっ。せっかくなのでご一緒させてもらいます。でもぉ……」
俺の腕にピッタリと寄り添うランさん。なになにっ!?なんでくっつくの!?
「お昼まではお時間があるんですよね?」
リンさんも俺に寄り添うようにわざわざ座り直した……なにこれ?なんなのさっ!?
サンドイッチにされ嬉しいと言えば嬉しいのだが、あの……おっぱいが当たってるんですけど!
「レイさん、あの時は助けて頂いて本当ににありがとうございました。感謝してもしきれません」
「なので、何かお礼がしたいなぁなんて思ってるんですけどぉ?何がいいですかぁ?」
おっぱいグリグリ攻撃に晒される俺の両腕。つまりこれは……アレのお誘いなのですか?
「あ、あのねっ。お礼とか要らないって前にも言ったと思うけど?こんな良い宿であんなすごい部屋に泊めてもらってるだけで十分だよ。これ以上は貰えない、気持ちだけ戴くよ」
ランとリンが顔を見合わせた後でため息を漏らした──なんだよ、理由付きで断ったぞ?
「えっとね、レイさん。お礼というのは、それも勿論あるんだけど、ぶっちゃけ建前なのよ。強くてカッコいい男の人って魅力的だと思うのは普通じゃない?そんな人が近くに居れば抱かれたいと思ってもおかしくはないよね?」
「つまりそういうことです。綺麗な人に囲まれているレイさんは私達程度では不満ですか?それとも盗賊に穢された私達ではお嫌ですか?」
「ちょっ、ちょっと待って!落ち着こう。二人共綺麗だしとても魅力的だよ?それに穢されたとか関係ないからっ!
俺にはちゃんとした婚約者がいるんだ。だからその人を裏切る事は出来ないって事だよ」
そんなの関係ないとばかりにより一層おっぱいを擦り寄せてくる二人。
君達、二日前まで盗賊の慰み者になってたと思ったけどトラウマとか無いの?無いに越した事はないけどそれでも既にこれってどうなの?
俺、そろそろ限界なので止めてもらえませんかぁ?モニカぁっ!助けて……。
「今は誰も居ませんわ?」
「バレ無ければ大丈夫だって!」
「レイさんは私達と」
「したくないのぉ?」
「!!!!!!」
ラウンジで美人二人に絡み付かれあわや撃沈かと思われたとき、カウンターで宿の人と話している一人の女性を見て俺の鼓動は跳ね上がる。
薄手の黒いワンピースに身を包み、ツバの長い白い帽子を深く被っているので顔は見えないが、腰まで届くほどの緩いウエーブのかかった長い長い薄藤色の髪。見間違う筈のないソレに俺の目が釘付けになった。
「レイさん?」
「どうかしました?」
ランとリンに「ごめん」と謝ると、二人の拘束から抜け出しカウンターの女性の元へと急ぐ。
高級宿のロビーで走って近付くなどという非常識な行為に女性が振り向けば、あの日から求めていた顔がはっきりと見える。
「アリサ!」
思わず叫んだ俺を見て目を丸くするアリサ。
「レイ!?ど、どうしてここに……クッ!」
「アリサ!待て!待ってくれ!!」
慌てて駆け出し外へと逃げて行くアリサを追って俺も全力で追いかける。せっかく見つけた謝罪の機会、たとえ許してもらえなくとも俺の想いだけは伝えなくてはならない。
俺が外に出たときにはアリサは既に空を飛んでいる。このまま逃がしてなるものかと慌てて魔留丸くんを取り出すと身体強化を施し背中を追いかける。
「アリサぁ!」
「しつこいっ!」
見失わないようにと飛び乗った屋根の上、他所様の家を転々とするが今は緊急時、どうか勘弁してもらいたい。
空中に飛び出した時を狙い飛んでくる火球、町中で遠慮したのか牽制程度の弱い魔法など僅かな時間稼ぎにもならず邪魔なだけだ。
逸る気持ちに焦る心、苛立ちを込めて朔羅を握れば、八つ当たり気味に斬り裂いた魔法が派手な爆発を起こして巻き込まれた。
だがそんなものくらいでやられる今の俺ではない。落下したもののすぐに体勢を戻して再びアリサを追う。
横目で俺の無事を確認するとこれ見よがしに舌打ちして海の方へと飛んで行く。
重力魔法を使うアリサは空だって自由自在に移動出来る。対する俺はカエルのようにぴょんぴょんと跳ねながら移動するので追いつくのですら困難だ。
──だがそんなことは言っていられない。
なんとか見失わないように追いかけて行けば町の外れにある崖の上へと辿り着く。
口を開けていた洞窟に足を踏み入れれば、一番奥にある祠のような物の前にアリサがいた。その隣にはケネスのように細マッチョな男の姿、薄ら浮かべる笑いは気に食わないが今はそれどころではない。
「アリサ!頼む!話を聞いてくれっ!聞くだけでいいから、頼むよ!!」
「貴方と話す事なんて何も無いのよ、人間。ペレ、ここは放棄する、第二目標の砂漠に移動するわよ」
ペレと呼ばれた男は俺から視線を外さず威圧してくる。こいつも魔族だな、恐らく過激派の魔族!
「緊急信号なんて何事かと思えばコイツが例の男だろ?こんな奴、殺っちまえばいいじゃないか」
「わたくしは近付くのを禁止されているわ。殺りたければ貴方が殺りなさい。そうねぇ、もしレイを殺せたのなら貴方と付き合うって話、考えてあげてもいいわよ?」
「マジかよ!!二言はねぇな?」
「ええ」
不敵な笑いを浮かべてペレの顎に指を這わすアリサ。アリサはこんな奴と付き合うのか!?こんな奴と!!
途端に魔族に対する憎しみで心が塗り固められて行く。
──いや、その前にアリサだ!
「わたくしは魔族四元帥の一人、アリサよ。さよなら、人間」
言葉を発するのを見越したかのように姿を消してしまうアリサ。残ったのは彼女の “付き合ってもいい” 発言でヤル気満々になったペレという魔族の男と俺の二人だけだ。
拒絶感半端なかったアリサに近付けたのは突然のことで不意を突けたからだろう。転移して姿をくらました時点でアウト、きっとこの町で再会する事は無い。
仕方なく置き土産のペレへと意識を向ければ心の中の黒い物が再び動き出す。
【魔族を殺せ!】
頭に響き渡る黒い欲望の声。俺はその声に従いペレを殺す為に朔羅を抜き放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます