33.フラウはどこじゃ?

 翌朝、朝食の席ですっかりみんなのお姉さんキャラになったリリィ……じゃなくてララが場を取り仕切り、みんなは海へ、何故か付いてくると言うララは俺と一緒にフラウを探しに行く事となった。


「モニカ、貴女も一緒に来た方がいいわ」

「え?私??じゃあ雪ちゃんも一緒に行く?」

「うーん、それは止めといたら?」


「ララちゃんっ、わた……」

「却下ですっ」

「えぇっ!?最後まで言わせてすらもらえない……え〜ん、ライナーツぅぅぅっ」

「お母さん……」


 アリシアが行動を共にするようになってからエレナの溜息が増えた気がする。

 母親は選べないとはいえ夫として彼女のガス抜きも考えてあげなければそのうち爆発しそうだと思いつつ宿を後にした。



△▽



 仲が悪い訳ではなさそうだが、モニカとリリィは未だに打ち解けていない様子。

 でもララはと言うとそうでもなさそうで、気さくに話しかけるララに楽しげに答えるモニカがいる。


 実際にはそんな事は全く無いのだが、要点をハッキリ言ってしまうのでキツイ印象や、効率を重視してサバサバとしていることから冷たい印象を与えるリリィに対し、年の功と言うと怒られそうだが “何でも受け入れてあげる” 的な柔らかな印象のララの方が親しみ易いのは間違いない。


「な〜に難しい顔してるの?……まさか!フラウとイチャイチャ出来ると思ったのにお邪魔虫が付いて来たのが不満なの!?

 ちょっと聞ぃたぁ?奥さんっ!この旦那、こーんな美人な奥さんがいるのに堂々と浮気しに行くんですって!……ぁ痛てっ!」


 相変わらず賑やかなリーディネの町中を両腕に絡みつく二人の妻と共に歩く。

 俺を挟んで楽しげに話しをしていたので一人で物思いに耽っていれば、突然おかしな事を言い始めたので両手が使えない今は頭突きで応戦しておいた。


「アホ言うなっ。それで、フラウには何処に行けば会えるんだ?」


 キョトンとしたララは小首を傾げると、手のひらを上に向け「さぁ?」と言いやがる。

 出掛けにはさも知ってるような感じで話していた癖に、宛ても無く町をブラついていただけかよ!


 全力で溜息を吐くとモニカが「まぁまぁ」と宥めに入った。

 それに乗っかりララまで「まぁまぁ」とか言うけれど、お前のせいで出た溜息だっつっぅのっ!


「ねぇっ、あのお店、何?ちょっと行ってみていい?」


 聞いておきながら返事を待たない奔放さはリリィと変わりが無いように思える。

 腕を引かれてモニカ共々店へと引きずり込まれると、そんなに珍しいお店ではなくともララにとっては新鮮らしく感動の連続のようで、店内に置いてあるものを片っ端から見ては楽しげにしてる。


「この服とかモニカに似合いそうじゃない?あ、こっちの色の方が可愛いかもっ!」

「えー、私はこっちが好きかなぁ。お兄ちゃんはどう思う?」


 これじゃあただのデートじゃね?と疑問に思いつつもモニカとララでお揃いの服を買う。

 そして『しばし待て!』と言われて店の外で待機すること数分……。


「おまたーっ!」


 肩を覆うように三重にレースのあしらわれた袖の無い白シャツに、くるぶしまである洗濯のシワをそのまま残したクシャッと加減が柔らかい印象を与えるロングスカート。

 靴まで買ったらしく、小さなヒマワリが五つ連なったバンドの白いサンダルに、鍔が長くて色の薄い麦わら帽子までお揃いだ。


 唯一違うのはスカートの色。淡い色合いは同じだがモニカは水色、ララはピンクでどちらもよく似合っており、二人共リゾートに遊びに来たお嬢様な感じだな。


「良いじゃん!」


 買ったばかりの服に着替えて登場した二人に思わず親指を立てた。



△▽



 お腹が空いたと言うので少し早めのご飯にとララの指差すパスタ屋さんに入れば、厨房が丸見えの変わったお店。楽しげに料理するシェフ達の顔が見え、活気が伝わってくるという画期的な造り。

 店内自体は落ち着いた感じに整えてあり、充満するニンニクとオリーブオイルの匂いが食欲を誘う良さげなお店だった。


「んっ!このトマトソース美味しいわね。ちょっと食べてみる?」


 聞いた時には既に俺の口へと運ばれて来るパスタの巻かれたフォークに文句も言わずに齧り付くと、トマト独特の仄かな酸味とニンニクとハーブの香りが良く合った美味しいパスタ。


「うん、美味い。美味いけどさ、なんか趣旨違って来てねぇ?」


「そおだっけ?」

「さぁ?」


 にこやかに誤魔化そうとする仲良さげな二人の様子に『まぁいいか』となりかけるが、このまま何も無しに帰ったら他の三人に何を言われるか分かったもんじゃない……いや、待てよ。アリシアも入れて四人になるのか?


「だいじょうぶぅ〜。やっと見つけたから、これ食べたら行きましょう?」


「見つけた?」


「何よ、私だって遊んでただけじゃないわよ? 魔力探知、レイもやってたよね?」


 居場所を知らないと言われてからこの町全部を探ろうと広範囲に魔力を拡げてフラウの気配を探ってはいた。

 魔力探知で拡げている魔力同士が触れれば、その魔力を辿り逆に探知されて術者の居場所もバレてしまう筈なのに、すぐ隣で同じように魔力探知を行なっていたララは魔力などは一切感じさせずに俺より広範囲を探り、更に先にフラウを見つけてしまったというのは驚く他ない。


 確かに広範囲に拡がればそれだけ魔力の穴が出来てしまい探知漏れは多くなるが、それを防ぐために絶えず魔力を動かして満遍なく探れる工夫はしているので、それを掻い潜り魔力同士の接触を避けるのは至難の技ではなかろうか。

 そんな事をしれっとやってのけたララは正に “神の子” を名乗るだけの資格があるように思えた。


「この町全体に魔力を馴染ませてしまえば満遍なく町を監視できる。けど、ここは戦場じゃないのよ?そのやり方だと魔力を浸透させるのに時間がかかるだけだし、近くに居ると分かってるならまだしも何処にいるのか分からない人を探すのなら無駄が多過ぎる」


 俺の魔力にララの魔力が触れると、その魔力が細い紐のような状態である事が分かる。こんなモノで広い町を隈なく探すのは骨が折れるとは思うが、実際にララの方が先にフラウを見つけているという事はやり方次第なのだろう。


 モニカから溢れ出した魔力にもララの魔力が接触したようで、フォークを口にしながら驚いているのがよく分かる。

 食事中に何してるんだかとは思ったが、魔力探知の魔力を避けるなど考えたこともなかった。


 まるで、不可視のはずの魔力が見えているかのような魔力の扱いの凄さにララに興味が湧いて来たのは言うまでもない。



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