47.相棒の名は朔羅
「さて、最後。レイ、これを」
机に置かれた俺用に作ってくれたという刀は、全身が白い
その刀を手にした瞬間に感じた、手を通して何かが吸い込まれるような不思議な感覚。高鳴る鼓動を抑えて目の前まで持ってくると、鍔を指で軽く押して鯉口を切る。
仄かに溢れ出す黒い光、露わになった刀身さえもが黒色をしており、刀の特徴である刃紋ですら遠慮するかの如く刃の淵を僅かに彩るのみ。
ゆっくりと両手を広げていけば全てを曝け出す魅惑の刀身、その全てが闇に紛れたら見失いそうな艶のない黒であり、漆黒の
そして不思議なのは刀身から発する黒い光。白結氣も同じように白い光を仄かに発しているのだが、陽の光にボカされ普段は気にならない。
しかし黒い光はそうはいかない。
まるで霧を生み出しているかのようにモヤモヤとした黒い光が滴り落ちる様子は意識せずとも目に入り、怪しげな雰囲気ではあるものの美しい様相を魅せている。
「シャロ、これはカッコ良いなっ、カッコ良すぎだろ!これ本当にもらっていいのか?」
「貴方の為に作った私の自信作よ。昨日も言ったけど、今使っている刀と交換ならかまわないわ。
ただし一つだけ条件がある。王都に来たら必ず私に見せに来ること、それが守れるなら譲ってあげるわ」
嬉しさが隠せない俺をにこやかに見つめるシャロ──げへへっ、そんなことで良いなら毎日でも見せに来ます!へっへっへっ、返せって言われてももう返しませんからねぇっ。
今まで愛用していた刀を机の上に置くと、入れ替わりにシャロが造ってくれた刀を腰に差した。心なしかこっちの方がしっくりくる気がする。
なにより気に入ったのは柄頭に紐でぶら下げられている親指サイズの黒色の勾玉。白結氣にはこれの色違いの白色の勾玉がぶら下がっており、ユリ姉とお揃いなのだ。
「その子は “
シャロとヴィクシスさんに別れを告げて家を後にすると、女性陣の強い要望により服屋に連行される。
うきうきした気分が抑えられなかったらしく、腕に絡んでくるエレナなど気にもかけずに終始柄頭に置かれた手が勾玉を弄り続けていた。
外のベンチという定位置に座ると我慢出来ずに朔羅を抜いてみる。
前の刀よりほんの少しだけ長い刀身がしなやかに反り、妖しくも美しい黒いボディに惚れ惚れして顔がニヤけてしてしまう。
「おい変態。側から見てると気持ち悪いぞ」
あからさまに嫌そうな顔で俺を見るアル。すまん、しばらく我慢してくれ。
「お前だって新しい剣買ったとき嬉しかったろ?同じじゃないか」
「あほっ。使ってみたい欲求はあるが、俺はそんな、剣見てニヤニヤする趣味はないぞ」
「新しいおもちゃ買ってもらった子供じゃないんだからぁ、街中でそんなの出さないのよぉ?早くしまいなさぁいっ」
俺の後頭部に拳を当てると、ベンチの背後から背もたれに腕を乗せて身を乗り出したユリ姉。その格好は豊かな胸が寄せられ主張を強めるので、朔羅にゾッコンだった俺の視線と心を簡単に奪う。
「あぁっ!今私のおっぱい見たでしょぉ。レイはやらしぃなぁ。えっちぃ〜」
笑いながら頬を突つき、ベンチを飛び越え俺の隣に座る。
多分意識してないのだろう、俺の膝に手を置き上目遣いで見上げてくるユリ姉……勘弁してくれよ、ユリ姉みたいな美人にそんな事されて クラリ とこない男なんていない。
「み、見るくらいいいだろ?減るもんでもないんだし。それより、ユリ姉は買い物良かったのかよ?」
「いいのいいのっ、それよりぃ凄い刀貰えて良かったねぇ。シャロさんに感謝しないとだね。きっとぉその子も強い力を持っているのよねぇ、レイの助けになってもらえるといいねっ」
「そうだな」と答えると、注意されたので名残惜しくも朔羅を鞘へと戻す。
それからはたわいも無い話をしていると一時間ほど経った頃にようやく女性陣が戻って来たのだが……今度は靴屋に行くらしい。「昨日も行ったじゃん」との抗議の声も「昨日とは違う店よ」と一刀両断、渋々着いて行く羽目になった。
靴屋の向かいにあったカフェ、ただ待つだけなのは勿体ないと店の外にあるテラス席にアルとユリ姉の三人で座る。良い天気だし風が緩やかに吹いてくれるため、さっきベンチに座っていても気持ちよかったから外の席にしてみた。
メニュー表をもらい眺めてみればサンドイッチ、ハンバーガーなど定番の下に《ポテトチップス》なるものがあり、店員さんに聞いてみると「大人気です」と教えてくれたので、ソレと紅茶、後は《パフェ》なるおすすめのデザートがあると言うのでソレを頼んだ。
紅茶が来た少し後、パフェがやって来た。半円状のガラスで出来た器にボール状のアイスクリームが四つも置かれ、その上に綺麗にカットされたリンゴやオレンジのフルーツが見栄え良く並べられ、更に生クリームでデコレーションされている手の込んだ代物。
「アイスクリームなんて久しぶりに食べるわぁ、美味しそうねぇ」
目を キラキラ させ両手を合わせるユリ姉。その姿に『うん、可愛い』とパフェなどそっちのけで見惚れていたが、一緒に持って来られた細長い変わった形のスプーンを手に取りアイスクリームを口の前に出すと パクリ と食いつき、コレまた可愛らしく頬に手を当てて嬉しそうにする。
「んふ〜っ!いちごぉっ!」
あまりにも美味しそうに食べるので自分の口にも放り込んでみれば、濃厚な苺の香りが口の中に広がる。アルも反対からスプーンでアイスクリームをほじって満足気に食べているが、あれは何味だろう。
「アイスクリームってやっぱ美味しいよな」
三人でパクパクしていたらあっという間に無くなってしまった。
パフェの余韻に浸っていると続いて到着するお皿。ポテトチップスが届き、これはなんぞ?と覗き込めば「ジャガイモのスライスを油で揚げて塩を振っただけの物なんですが、癖になる味なんです。若い子に人気なんですよ」と店員さんが教えてくれた。
どれどれと一枚摘み口に放り込むと塩味が結構効いていて パリパリ とした食感が楽しい。芋の風味と塩加減とのバランスが丁度良く、口の中が無くなるとすぐ次を入れたくなる。しかも材料はジャガイモだけ、凄く安価なので自分でも作れそうだしお茶請けにはとても良さそうだ。
「こ、これは……止まらないねぇ」
「あぁ、これは美味いな」
ユリ姉もアルも同じみたいで次々とポテトチップスが口の中へと消えて行く。すぐに全員旅立たれ、後に残るは空の皿。
チラリと横を見れば、ポテトチップスを摘んでいた指を チュッ と舐めながらその皿に名残惜しそうな視線を向けるユリ姉。
「夜飯食べれなくなるからあと一皿だけだよ?」
店員さんにおかわりを頼むとユリ姉の目が輝き出す。俺ももう少し食べたかったしな。アルは苦笑いしていたがお前も結構な勢いで食べてたろ?
「あーっ!なんか食べてるっ、ズルイですズルイですっ!」
「なんですって!!」
おかわりが来て一枚目を取ったところで買い物を終えて店から出てきた女性陣、エレナの密告により猛獣リリィに見つかってしまった!チッ、奴等の事はすっかり忘れてたぜ。
ドタバタと店内に入り込んだ二匹の猛獣、蹂躙されるポテトチップスに哀れみを感じながらも仕方がないかと文句も言わずに黙って見守る。周りの人に迷惑だからもう少し静かにしなさいよ。
「んっ!?これっ、止まらなくなるわね」
「ポテトチップスですね、私も好きなんです」
「これなら屋敷でも作れるのです。今度お茶の席で出すのです」
「わーいっ、やったー!それにしても、もう無くなっちゃいましたね。もっと食べたかったです」
椅子が足りなかったからって人の膝に座りポテトチップスをパクついているエレナ、椅子くらい隣から借りてこいよ!ティナも真似しようとしなくていいからっ!
いい加減周りに迷惑だったので食べるものもなくなったことだし早々に退散することにした、ごめんね店員さん。
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