7.旅のご飯は豪勢に
串に刺された肉を火にかければ、ジュゥッ という食欲をそそる音と共に美味しそうな匂いが漂い始める。
「おっにくっ、おっにくっ」
「早く焼けないかなぁ」
嬢ちゃん二人が徐々に焼けて色が変わっていく肉を食い入るように見つめているが、そんなに見つめても早くは焼けないぞ?
彼女達の見つめる肉をひっくり返す度に、それに合わせて顔を動かす様子が面白かった。でも、そろそろ良い頃合い。
「ほら焼けたぞ。熱いから気をつけて食べなよ、はいどうぞ」
「「わーい、ありがとう!」」
嬉しそうに串を受け取り親元に持っていくと、二人して ハフハフ と美味しそうに頬張ってる姿が微笑ましくて思わず綻んでしまう。
「もう焼けてるので皆さんもどうぞ。味が足らなかったら塩と胡椒ならあるので使ってください。食べ終わった串は一箇所にまとめておいてくださいね」
焼けた肉を持ち二匹目を捌いているユリ姉の元に行く。
「ユリ姉、焼けたよ」
「んっ、もう少しだから片付けちゃうねぇ」
口元に肉を近付ければ手は止めないままに横目で 確認し パクリ と食らい付く。
でもさっさと片付けてしまいたいようなので口の中が無くなったのを見計らい、また肉を口に近づけるとパクっと齧り付いた。
そうこうしてると捌き終わる頃には串一本がお腹に収まっている。
「ちょっと持ってて」
捌かれた肉を渡され持っている間に、作業台となっていた石の上を水魔法で洗い流し風と火の混合魔法で乾かす。
「沢山有るけど、余るお肉はどうするのぉ?」
「そうだな……燻製にすれば二、三日目は持つから、どうするか聞いてくるわ」
ケネットに相談するとあっさりオッケーが出たので準備をしておこう。取り敢えず適当な入れ物を取り出し濃い塩水を作ると肉の塊をぶち込んだ。塩が染み込むまでしばらくこのまま放置なので、今は焼肉パーティーに参加だっ!
やる事がひと段落したので、片付けの終わったユリ姉と共に焚き火の方に行く。
「あれ?燻製やるんじゃなかったのか?」
「準備だけしておいた、食べ終わったやるよ。取り敢えず俺達にも食わせろ」
「まだまだたっぷりと有るから残さず食えよ!」
ケネットも無茶言うな。猪二頭分だ、絶対に食べ切れる量ではないが、そんなことはさて置いて好きなだけ食うぞ!と気合を入れたところで嬢ちゃん二人が焼けた串を持ってきてくれる。
「お兄ちゃん、どおぞ」
「おっ、サンキュー。君達が焼いてくれたの?」
「うんっ!すごいでしょ!ちょっと熱かったけど上手に焼けたから食べて食べてっ。お姉ちゃんもどおぞっ」
早く食べろと言わんばかりに満面の笑顔で串を差し出してくるので有り難く頂戴した。
「ありがとねぇ。んんっ!おいしーっ」
「いっぱい焼くからいっぱい食べてね」
ユリ姉が一口食べたのを確認するとまた火の側に戻り肉の世話を始めている。
「お腹いっぱいになったのかな?あの子達」
「んーどうかなぁ?焼くのが楽しいのかもよ?」
お嬢ちゃん二人が焼いてくれた肉を頬張り堪能してると、俺達の肉が無くなった頃を見計らってお姉ちゃんの方が肉を持って来てくれた。なんて気が利くお嬢ちゃんなんだ、お兄ちゃん感激だぞ。
「また焼いてくれたんだね、ありがとう。そういえば二人は、名前なんて言うの?」
「私はエリーよ。妹はドロシー。お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「俺はレイ、お姉ちゃんはユリアーネだよ。ご飯はちゃんと食べた?お腹一杯になった?」
「うん、イーーッパイ食べたよ!」
膨らんだお腹をぽんっと叩きながらエヘヘと笑顔を向けてくれる。エリーは六歳位だろうか?可愛らしいなぁ。
「そっかぁ一杯食べれて偉いねぇ。それじゃあ、ご褒美にデザートなんてどうかな?食べる?」
「デザート!?食べる食べるっ」
万歳しながらくるくる回るエリーに「ちょっと待っててな」と言いつつ鞄を漁りマシュマロと板チョコを出す。
「ユリ姉、クラッカーかクッキーない?」
「両方あるよぉ」
クラッカーを出してもらい火の側に行くと、ちょっと長めの細長い焚き木を拝借し、マシュマロを刺して火で炙る。プクッと膨らんで来たタイミングで火から外し、クラッカーとクラッカーの間に板チョコと共にマシュマロをサンドした。
「はい、出来たよ。ちょっと熱いから気を付けて食べるんだよ」
出来上がったマシュマロサンドをエリーに渡すと「ありがとう」と、ちゃんとご挨拶をして大喜びで親に見せに行った。
妹のドロシーの分も作る為にマシュマロを炙っていると、カップルのお姉さんに興味津々に見られたので「焼肉食べ終わったらデザートにどうぞ」と、材料を置いておいてた。
二つ目が出来上がった所で親の元に居たドロシーに配達。どうやらお待ちかねだったようで、キラッキラした目で受け取り喜んで食べてくれた。
ユリ姉のところに戻ると丁度ケネットとサシャがお酒を持って来てくれたところだった。少しだけだけど、ワインを配ったらしい。焼肉にはお酒だよな!
「ところでさ、ずっと気になってたんだが、あの頃のユリアーネちゃんは散々パーティーの誘い断ってたのに、なんでレイの所のパーティーに入ったんだ?」
「えっ?えっとぉ……た、たまたまタイミングが合ってぇ……気が合ったからよぉ?」
「ふぅん、たまたま……ね?」
「たまたまよぉ!世の中タイミングって大事でしょ?」
目を泳がせるユリ姉をサシャはジト目で見つめ続ける。何かおかしい事言ってたか?
「あの時は一緒に依頼を受けてチェラーノに行ったんだったよな。それ以来意気投合してパーティーに入ったんだよな?」
「そうそう、たまたま同じ依頼だったのがきっかけよねぇ」
「たまたま……ね」
「たまたまよぉ」
なおもジト目のサシャ。一体何が気になったんだ?よく分からん。そういう出会いがあってもおかしくないだろうに。
その後はお互いのパーティーのことや町の事と、たわいもない話をしてたらあっと言う間に時間が過ぎてお開きとなった。
俺は燻製器を取り出し漬け込んでおいた肉を取りに行く。本当は半日くらい塩漬けするといいんだがそんなこと言っていられないので、水を適当に切って燻製器に放り込む。ブナの木を薄く削って乾燥させた物を取り出し皿の上に置くと、ユリ姉に火を付けてもらい燻製器の中に入れておく。あとは勝手に火が消えて煙で燻されてくれるはずだ。
「ケネット、これ煙が出てるけど三時間くらいで止まるからそのままにしておいてくれ。ただ匂いも出るから来客が心配だ。もし手が足りなくなったら遠慮なく起こしてくれ」
「おう、了解だ。ここからは俺達の仕事だから、お前等はゆっくり寝てくれ。おやすみ」
俺は挨拶を交わすと布団代わりのマントを取り出し、ユリ姉の隣に寝転び就寝することにした。
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