11.ユリ姉と結婚?……ないない

 その後は何事も無く、三日目の朝を無事に迎えることができた。


 ケネットの頬が赤く腫れているのは見ないことにしておいて、サシャがスッキリした顔で挨拶してきたので「おはよー」と返しておく。


 夜の残りのスープを温め直して食べ終わればさっさと出発する。夜中に叩き起こされたのでみんな眠そうな顔をしており馬車の中は静かだ、俺も眠い。


 馬事の揺れに身を任せて右に左にと揺れていると「眠い?」とユリ姉が覗き込んできた。


「ちょっとだけな」


 やせ我慢してみたものの昨晩の戦闘は肉体的にも精神的にもかなり疲れていたらしく、会話が終わった途端に再び フワフワ し始める。

 それでも頑張って起きてようと重くのしかかる瞼と格闘していた所に、自分の太股を ポンポン しながら「寝てていいよぉ」と天使の微笑みをくれるユリ姉。


 その時ばかりは眠気も忘れて跳ね上がった俺の鼓動、遠慮を見せながらもお言葉に甘えて普段の鍛錬でしっかり締まっている白い太腿にダイブした。

 硬過ぎず柔らか過ぎずの程よい弾力、予想通りスベスベな肌は……最高っス!俺、幸せっス!!


 少しだけ赤くなりながらも優しい表情かおで俺を見下ろすユリ姉、心なしか嬉しそうなのは気のせいだろうか。


「なぁ、ユリ姉」

「なぁに?」

「俺……強くなれるかな?」

「きっとなれるわぁ。って言うか、なって?

レイがわたしを守ってよ」


 無茶振り頂きました!そりゃぁね、女を守るのは男の仕事だとは思うけど……それにはユリ姉に追いつくどころか追い越さなくてはならない。

 一般の冒険者では歯が立たず、世界に名を轟かせた師匠の元で何年も修行してきた俺ですら傷を与える事も出来なかった中級モンスター、それを瞬殺出来るような人を追い越すのは普通に考えて無理っぽ。


「努力はするけど、それ、いつ叶うんだよ。ユリ姉が強すぎて追いつける気がしないよ?」

「うーん……頑張って!」


 綺麗な顔を可愛く変化させての悪戯っぽい笑い、今まで俺が見た事のある人の中でダントツだと言い切る自信があるほどにユリ姉は本当に美人だ。


 御者席から入る心地良い風に揺られて フワフワ と舞う細い髪、肩まで伸びる蜜柑色の髪は毛先が少しだけ内巻きにカールしており、それだけでも柔らかな印象を人に与える。

 そして性格を現すかのように少し丸みを帯びた輪郭の顔と、そこに芯を通す鼻筋とツンとした小振りの鼻。大きくて丸い目には琥珀色の綺麗な瞳が嵌め込まれ、細長く伸びる形の良い眉が顔全体のバランスを整えて美人らしさを増し増しにしている。



 ユリ姉を美人だと位置付ける要因は数多の人を惹きつける整った顔ももちろんあるのだが、何と言ってもその素敵過ぎるプロポーションが大半を占めるだろう。


 リリィの影響で着るようになった肩紐の無いべアトップワンピは鬼に金棒、仏に蓮華。

 細い身体付きからは考えられないほど大きく育ったお胸様に支えられて激しく動いたとしても一ミリもズレず、本人の意図がそこになくとも見せつけるかのように開放されている双丘は男女問わず道行く者の視線を集める。


 視線を下せば余分な肉など全く無いんじゃないかと思われるほど引き締まったウエストに丸くて形の良い大きめのお尻。丈の短いスカートからはスラリとしたカモシカのような長いおみ足が惜しげもなく晒されて俺の目を釘付けにする。


 そりゃケネットだけじゃなくギルドの連中がパーティーに、いや、自分の彼女として欲しがるのも無理はないだろう。

 腕良し、器量好し、性格も良し、こんな人に膝枕をしてもらっている俺は世界一の幸せ者なのかも知れない。


「ってかさ、ユリ姉は守られなくてもいいくらい強いじゃん?なんで守って欲しいのさ」


「私だって女の子なのよぉ?カッコ良い男の人に守って欲しいと思うのは当然じゃないのぉ?レイのおたんちん」


 頬をプクッと膨らませてご機嫌ナナメな様子を演出してみせるが、どんな顔しててもキレイで可愛い。


「ごめんごめん、そういうもんだよね」

「そういうもんよぉ」


 すぐに笑顔に戻るユリ姉、最初は眠くて膝枕をしてもらったはずなのになんだか目が冴えてしまった俺は、最高の膝枕を堪能しつつどうでもいいくだらないお喋りを心の底から楽しんだ。




 街道三日目は前日とは打って変わって穏やかで、襲撃される事もなく順調に宿場に到着した。俺達は明日の朝ここで別れて森に入る、ここにいるみんなとは最後の夜になるな。


「レイ兄ちゃんも、ユリ姉ちゃんも明日から居ないのー?」

「えぇーーっ!居ないの?どうして?」


 エリーとドロシーの寂しそうな顔には後ろ髪を引かれる思いだ。

 しかし寂しがってくれるということは、それだけ仲良くなれたという事。別れる事自体は寂しいのだが……嬉しいことだ。


「ちょっとお仕事があるから、ここから歩いて違うとこに行かなくちゃいけないんだ。ほら、昨日の夜中に怖い奴等に襲われただろ?みんなが安心して暮らせるように、ああいう危険な奴が居ないか調べないといけないんだ」

「そっかー。お仕事頑張ってね」


 あっさりと納得を示した二人は少女独特の無邪気な笑顔でエールをくれる。可愛いなぁ、見てるだけだでほっこりしてくる。こんな妹がいたらどんなに心が癒されることかと想像してみたりもした。


「そうだ、良い物をあげよう」


 鞄から取り出した紐を輪っかに結ぶと、二人によく見えるようその場にしゃがみ込んで手を突き出す。


(両手の親指と小指に紐を掛けて、右手で左手の紐を引っ掛けて……)


 何が始まるんだろう?と不思議そうに俺の両手にかかる紐の動きを黙って見つめるエリーとドロシー。


(今度は左手で右手の紐を引っ掛ける)


 なになに?とユリ姉もしゃがみ込むと見えちゃいけないものが見えそうで見えてなくても ドキドキ してしまったのだが、当の本人は紐のかかる俺の手を興味深々に見つめている。



パンッ!



「ほら!ホウキの完成」


 手を叩くと同時にドヤ顔で三人を見回した。だがポカーンとしてる六つの瞳……あれ?不発か?ならば次だ次っ!

 完成したばかりのホウキを崩して紐を外すと今度は違う物を作り始める。


(両手の親指と小指に紐を掛けて、左手の中指で右手の紐を引っ掛けて……こうしてこうして、こうだっ!)


「はいっ、カニさん!」

「わぁっ、レイ兄ちゃん、すっごーーい!」

「すごーーいっ!」


 目をキラキラと輝かせ完成したカニと俺とを交互に見る二人──ちょっとドヤ顔……あれ?三人?まぁいいや。

 指から紐をはずしてエリーの前に差し出す。


「あやとりって言うんだけど覚えてしまえば簡単に出来る遊びなんだよ。やってみる?」


「うん!」

「おねぇちゃん、ずるーい!私もやるのぉ!」


 そうかそうかと、ドロシーの分の紐も取り出せば『早く!』と言わんばかりに ソワソワ して釘付けになるので微笑ましいったらありゃしない。


「簡単なホウキからやろうか。これはすぐ出来るようになるよ」


 二人の間に座り、一工程ずつ一緒にやりながら教える。当然導入の簡単なやつなので何回かやってみると二人共ちゃんと出来るようになった。



パンッ!


「「できた!」」



 完成した三つのホウキを見て物欲しそうな顔していた美女。「ユリ姉もやる?」と聞けば最初から聞いてあげればよかったなと思わされるほど嬉しそうな顔で首を縦に振る。


 もう一つ紐を取り出すと、四人で仲良く座りあやとりをした。

 いろいろ出来るようになるのが楽しいみたいで、夢中になってやってたら晩飯の準備が整ったようで二人のお母さんが呼びに来た。しまった!準備手伝ってないや……ま、いっか。




 みんなと最後の夜はケネットとサシャと夕食を共にした。


「今日でお別れか。寂しくなるな」

「ベルカイムに居ればまた会えるさ。それより明日からの護衛しっかり頼むよ。みんなを無事に送り届けてあげてくれ」

「誰に言ってるのかねぇ、仲間を信じなきゃいけないんじゃないのかい?」


 ニヤニヤしながら言うサシャに痛いとこを突かれて苦笑い。だが確かにそうだな、また俺は仲間を信用していなかったみたいだ。


「ごめんごめん、そうだな。君達なら余裕だよなっ!」

「そうそう、余裕だぜ?」


 お互いに心の底から笑い合う。たった三日だったけど、寝食を共にした大切な仲間だ。街道に中級のモンスターが現れるなんてイレギュラーがあったけど、ケネット達なら最後まで仕事をやり遂げられると信頼している。変に心配するのは彼等に対して失礼だよな。


「二人は結婚するのか?」


 何気なく聞いてみたつもりだったが、サシャは顔を赤らめケネットは驚きながらも意外そうな顔をする。


「なんでわかったんだ?見かけによらず、そういう事に敏感な方だったのか?」

「え?いや、なんとなく聞いてみただけだよ?」

「そうか。実は昨日あの後……な、なし崩しでそんな話になって、えっと……その、ベルカイムに戻ったら結婚することになったんだ!」

「おぉっ!おめでとう」


 興味本位で聞いただけなのに……まぁ、めでたいめでたい。


「俺達はそんな感じだけどよ、お前達はどうなんだよ?」


 ん?お前、達?俺とユリ姉はそんな関係じゃないぞ?

 返答に困りユリ姉に視線を送れば、赤くなった頬を両手で挟んで照れている……え?なんで??


「どうって、なんもないけど?」

「……お前なぁ」


 ケネットに溜息を吐かれた。サシャも眉根を寄せて哀れむような顔でユリ姉を見てる──俺、なんか悪いことした!?


「そうだ。一日目に作ったベーコンがまだ余ってるんだ。みんなで食べてくれよ」


 鞄からベーコンの包みを取り出しケネットに差し出すと、遠慮がちながらも手を出し受け取る。


「いいのかよ?お前が作ったやつだろ?」

「ケネット達が狩った肉だろ?それに少し貰ったから残りはみんなで食べた方がいいと思う」


 そういうことならと鞄にしまうケネット、これで気がかりは無くなったぞ。


「これだけ静かだったんだ、大丈夫だと思うけど見張りよろしくっ。おやすみ」


 たまたま乗り合わせただけの乗合馬車の人達、もしかしたら二度と顔を合わせないかも知れないがそれも巡り合わせなのだろう。

 もしそうだとしてもこの出会いに感謝し最後の夜を楽しく過ごした俺達は、ユリ姉と二人、並んで横になると眠りについた。


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