40.アランと言う名の漢
腰に手を当て仁王立ちする黒髪の女の子が口を尖らせ、これでもかというくらい頬を膨らませ怒ってるぞ、とアピールしている。
その顔が可愛くも可笑しく、笑いたい衝動を必死になって抑え込むと真剣な顔で彼女に近寄り、一度姿勢を正してから腰を折り深々と頭を下げた。
本心からの謝罪、そうとってもらえたら良い。
「ごめんなさい」
言い終わると同時にポコンと拳で頭を叩かれた。
「二度とゴメンだからねっ!」
「はい、すみませんでした」
「よろしい、面を上げよっ」
そのままの姿勢で顔だけ向ければ、笑顔の朔羅が居た。目と目が合うと俺の頭をギュッと柔らかな胸に押し付け撫でてくれる。
「まぁ、一応気を遣ってくれたから許してあげようじゃないですか」
朔羅は案の定、彼女を使い魚を捌いた事を怒っていた。それでも、俺が悪いと思い風魔法で刀身をコーティングして直接魚に触れないように配慮したことが功を成し、無罪放免としてくれるようだ。
「ちゃんと逢いに来てくれるんだね、嬉しいよ。明日も来てくれるのかな?」
今顔を合わせたばかりだというのにもう次の約束を求める、それだけ逢いたいと思ってくれているという事か。そう思うと嬉しくなりそのまま朔羅を抱き上げ、柔らかな胸に埋まる顔をグリグリと押し付けてより多く朔羅の存在を感じとる。
「やっ、はぁんっっ」
聞こえてくる悩ましげな声に俺の中のやる気スイッチがオンになる。ともすれば、すぐ向こうにあるベッドに二人でダイブした。
「レイシュア……」
これからする事に期待してか仄かに赤らむ顔、吸い込まれそうな感覚さえ覚える漆黒の瞳を食い入るように見つめていたが、身体が欲する欲求に我慢が出来なくなり唇を重ねた。
▲▼▲▼
スースーと穏やかな寝息がすぐ近くから聞こえてくる。目を開くとアッシュグレーの艶やかな髪、顔を付けると鼻から大きく息を吸い込んだ。モニカの匂いが胸の中に充満し幸せな心地に酔いしれる。
腕枕でピトッと寄り添い、心地良さげに眠るモニカ。このまま時が止まればいいとさえ思えてくる幸せな時間。だがそう思うと同時にそれを阻止するかの如く、扉がノックされた感触が部屋に張った結界を通して感じられる。
ここはただの船室だ。俺達の泊まる宿のような防音設備など当然の如く有るはずがない。だがモニカの艶やかな声を俺以外の奴に聞かせたくはなかった。そこで考えたのが風魔法による隔離だ。
風の魔力を天井、壁、床、全てに張り巡らせ、そこから伝わる音の全てを遮断したのだ。もちろん音だけでなく部屋への侵入もある程度なら防ぐことが出来る。いわゆる俺流の風魔法による結界だ。
結界を解き横着をして風魔法で扉の鍵を開けると同時に少しだけ扉も開けた。
入ってこいとばかりに開いた扉をゆっくりと押し、恐る恐る顔を出したサラに向け左手の人差し指を口に当て『静かにしろ』と合図を送る。
状況が理解できたサラは顔を赤くして視線を逸らしたが、それでも気になるのかチラチラと俺達を見てくる。
扉をノックしたのがサラだと判っており、サラになら今のモニカを見られてもいいと思ったから扉を開けた。しかし、他の奴に見せる気などこれっぽっちもない。部屋に入るか帰るのか、どっちかにして欲しいんだけどな。
「あ、朝ごはん食べに行かない?」
扉の隙間から真っ赤な顔だけを覗かせ、俺の希望通りモニカに気を遣い小さな声で用件を伝えて来る。
「分かった、起きるよ。扉閉めてくれる?」
コクコクと頷くと素早く顔が引っ込み、静かに扉は閉められた。幸せな時間は長くは続かないか……。少しでも多くモニカを感じて幸せを噛み締めようと再び頭に顔を埋め、モニカの匂いを嗅ぎながらそっと撫でた。
昨夜はモニカを抱き、眠りにつくと夢の中では朔羅を抱いた。俺は一体いつからこんなにも女性を求める欲望が大きくなったのだろう?
モニカも朔羅も俺にとっては命を賭してでも守りたい大切な存在だ。この欲望は愛するが故に湧き起こるものなのだろうか?
「んっ……おはよ〜ぅ」
「おはようモニカ、愛してるよ」
「んん、私も愛してるわ……急にどうしたの?」
腕の中から見上げてくるモニカのオデコにキスをすると、耳、首筋、肩、胸へと降って行く。キスをするたびにピクリピクリと反応があり悩ましげな声が漏れてくる。
「またしたくなったの?」
「サラが朝ごはんだと呼びに来たよ」
顔を上げた俺を見つめるモニカにそう告げると、口にキスをして渋々ながらにベッドから這い出した。
「残念っ」
ポフッと俺の枕に顔を埋めるとスベスベの綺麗な背中が目に入ってくる。触りたくなり指を滑らすと身体を反らして再び悩ましげな声が聞こえ始めた。
「お終いっ、ほら起きろ」
俺が用意を終える頃、やっとのことでムクッと起き上がり布団を肩にかけたまま気怠そうな顔でペタンと座り込む。いっぱいしすぎて寝足りなかったのかな?仕方なくモニカを促すためベッドに手を突きキスをし、耳元でそっと囁いた。
「可愛いおっぱいが丸見えだぞ」
途端に赤くなり慌てて布団で隠した後、プクッと頬がリスのように膨れたので声を出して笑ってしまった。
「遅いっ!もう食べ終わりますよ」
若干怒り顔のサラはコレットさんと一緒に朝食を食べていた。隣のテーブルにはいつもよりは格段に少ないが、それでもおかしい量のお皿が積まれているので朝から呆れてしまう。
「んぐっ、おはよう。ついでにおかわり貰ってきてくれなぁい?」
尚も食べ続けるフラウはいつもと変わらず元気そうで、おまけと言ってはアレだが機嫌も良さそうだ。
そこに朝からジョッキを持ったアラン船長がやってきてドカッと豪快に腰を下ろす。
「いやぁ、本当によく食うなっ!人魚ってぇのはみんなそうなのかい?昨日エギュトゥーンを丸々一匹平らげた時は夢でも見てるのかと思ったぞ。今日の夕方には港に着くから安心して好きなだけ食べてくれよ。だが、食べたらその分動かないといけないな!朝食が終わったら俺と二人で激しい運動でもどうだい?ガハハハハハッ」
アラン船長も会った時からずっとこのテンションな気がする。いつも変わらない様子のこの二人、案外気が合うんじゃないのか?
「今日は襲撃は無いかもしれん。何せ、想定外の遭遇だったとはいえあのレカルマはお前等が片付けてくれたからな!
この海域はな、レカルマが居たせいで大型の魔物があまり寄り付かなかったんだ。だからそいつ等の餌となる魚が食われずに豊富にいるんで良い漁場なんだが、肝心の俺達も奴が怖くて近寄れなくてな。奴が消えたおかげでこの豊かな海域で漁が出来る、礼を言わせてくれ。
でもまぁ、そのうち海の中でもレカルマが居なくなった事が知れ渡ると、今までいなかった大型の魔物がやって来るだろう。それが何年先の事かは分からないがな」
言いたい事が終わると席を立ち、フラフラと他の席に行ってまた話し出している。
アラン船長のテンションが変わらないのは常にアルコールが入ってるからとか言わないよな?こんな大きな船の船長をやっている人だ、そんな事はないと信じよう。
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